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469話・ヒナ・メルトエヴァレンスの憂鬱2

「あれ? ヒナちゃんさん、お酒飲めるんだ」


 いったい何がどうしてこうなったのか分からないけど、俺とヒナはサシ飲みしていた。


 ヒナは下戸だと公言していて、会食などでは決してアルコールを口にしない。


 それが現在、サンドリヨン城の最上階、ヒナの私室で、俺とスパークリングワインを飲んでいる。


「本当だったら1杯で真っ赤になっちゃうから、お酒は受けつけないんだけど、浄化魔法を使いながら、ちびちびとね」


 ヒナは真っ赤になった顔を浄化魔法で鎮めながら、ほんの一口ずつ舐めるように飲んでいる。


 ツマミは、ヒナが要人御用達レストラン〝アエミリア〟から出前を頼んだ。

 

 彼女のおススメだというゴルゴンゾーラと無花果(イチジク)の生ハムサラダとドライフルーツとナッツのディップ。


挿絵(By みてみん)


 無花果とチーズが意外にマッチしていて華やかな風味だ。生ハムとの相性も抜群だった。

 

「トシの奴……ヒナに内緒で他国の王女と政略結婚なんて……」


 ヒナが飲めないアルコールに手を出したのには理由があった。


 酒の力を借りたことにして、彼女はトシヒコや小夜子との関係を愚痴りたいのだろう。


 ヒナにとって俺は、絶妙な距離感の他人。あるいは、自身と最愛の母親の仕事仲間。


 俺と彼女は友達と呼べるほど親しくはないが、だから話しやすいということもあるのかもしれない。


「こんな重大な政略を、ヒナちゃんさんに内緒だったなんて、ひどいな」 


 俺はスパークリングワインの味を堪能しながら、相づちを打つ。


 原料のブドウ品種のことは分からないけど、キメの細かな泡とクリーミーな味わいは、シャンパーニュ方式・瓶内二次発酵のものだろう。


「トシはママのことが好きなんだから、ちゃんと告白すればいいのに。ママもヒナに気を遣わないで、受け入れちゃえばいいのに」


「……お、おう」 


 浄化魔法で酔いを醒ましながら飲んでいるにもかかわらず、すでにヒナは酩酊しているようだ。


 彼女が無鉄砲に俺の懐に飛び込んでくることに、やや引き気味だ。


「……親子で三角関係なんてバカらしいでしょ。でも、あの討伐戦を戦い抜くなかで……あいつのリーダーシップは凄かった。でも堕落しちゃった。もう嫌。信じられない」


 彼女はトシヒコと小夜子を取り巻く関係まで打ち明けた。


 まあ、本人たちを見ていればバレバレではあったけど……。


「グレン座長が生きていたら、こんなことにはならなかったのに……」


 ヒナはろれつが回らなくなっていて、脈絡もなく話が飛ぶ。


 グレン・メルトエヴァレンス氏か……。


 知里は隊長と言っていたけれど、ヒナや小夜子は旅芸人時代を知っているから〝座長〟と呼ぶんだな。


「座長ならトシにガツンと言ってた絶対! もうトシのやりたい放題を止められるのは、ママしかいないのに! ママも煮え切らないんだからもう!」


 俺とは全く接点のない故人グレン氏の話を突然はじめたかと思うと、小夜子についての不満を漏らす。


「ヒナちゃんは英雄として、政治家として、素晴らしい実績を残してる賢者様なんだから、勇者だろうと臆することなく、自分の思いを伝えればいいんだよ」


「直行君までヒナを子ども扱いして!」


 俺は決して適当に相づちを打っていたわけではないのだが、言い方に彼女はカチンと来たようで、プイッと横を向いてしまった。


「…………」 


 俺は何て返したらいいか分からずに、膝の上で指を組んで視線を泳がせる。


 と、次の瞬間、ヒナの寝息が聞こえた。


 まるで張り詰めた糸が切れたように、ソファにゴロンと横になって、彼女は眠ってしまったようだ。


 無防備な体勢で、ソファにだらしなく四肢をあずけて寝息を立てている。


「……おいおい何だよ、ちょっと待ってくれ……」


 二人っきりの部屋で、ヒナはどういうつもりだ……?

 

 ほんの頭の片隅に〝据え膳食わぬは……〟という言葉が浮かんだが、そもそもこれが据え膳であるかどうかは、恋愛経験の乏しい俺には分からない。


 ただ、俺の脳裏にはジト目のレモリーがハッキリと浮かんでいるので、間違いは犯せない。


 仮にヒナに手を出せば、知里と小夜子とは絶交だろうし、勇者トシヒコからも命を狙われかねない。


 エルマは茶化すだろうが、レモリーは傷つくだろう。


 俺は、どうしていいか分からずに、とりあえずその辺にあったブランケットをヒナにかけてやった。


 そうして、独り残ったワインとツマミを味わう。


 ガラス窓には勇者自治区のきらびやかなイルミネーションが瞬いている。サンドリヨン城の最上階から見える夜景は、嘘みたいに眩しい。


 しかも、ソファではこの街をつくった英雄で女賢者で、前世ではアイドルだった美しいヒナが無防備で寝ている。


 俺は、何かを手にしつつある……。


 こんなところで優雅にグラスを傾けていると、元の世界で失敗ばかりだった人生が夢だったように思えてくる。


 ──このまま、この世界で生きていこうか……。


 俺はそんな風に思いながら、何杯目かのスパークリングワインを飲み干した。


 次回予告

 ※本編とはまったく関係ありません。


「直行さんの意気地なしー♪ ヒナさんを手籠めにする千歳一隅のチャンスだったじゃないですか♪」


「な、何を言ってるんだエルマよ。相手は世界を救った英雄で、この世界で指折りの実力者で権力者だぞ」


「でも男と女ですわ♪ 目と目が合って同意を得たら、〝ブチュー〟ってやってしまえばいいんですわ♪ レモリーにそうしたように♪」


「レモリーのときはお前が媚薬を打ったから……」


「お魚先生も手籠めにしましたわ♪ きれいごとを言ったところで直行さんは恥知らずの女こましなんですから、ヒナさんも小夜子さんもまとめてやっちまえですわ♪」


「そんなことしたら国際問題になっちゃうじゃないか」


「次回の更新は6月29日を予定しています♪ 歴史を巻き込んだ修羅場になるのか、お楽しみに♪」

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