461話・ドキッ! 二度目の温泉回2
俺の家の露天風呂で、法王庁のジュントスと聖騎士リーザを招いて混浴している。なぜかレモリーと魚面も一緒だ。
何がどうしてこうなったのか、流れというのは恐ろしい。気づいたら俺たちは裸になって温泉に浸かっていた……。
「ジュントス殿、前を隠してください」
「何を言われますか直行殿。神が与えた肉体ですぞ。堂々と誇れども、隠すなど言語道断です。ねえリーザ殿」
「きょっ、教義にはそのような解釈もあるのですか……」
さすがにリーザは湯船に浸かっているものの、特に何かを隠すでもなく、堂々としている。剥き出しの肩は鍛え上げられていて、二の腕も良く引き締まっている。その一方で、胸は柔らかそうにタプンと湯船に揺れている。
ちょっと目のやり場に困る状態だ。かつて何度か殺されかけて、やっと食事会で世間話ができる程度に関係が改善したと思ったら、裸の付き合いだ。
「さぁ皆さんも、裸の付き合いを楽しみましょう! ウシシシシ」
ジュントスは得意満面で、前も隠さずジャブジャブとはしゃぎまわっている。
時折岩の上に上がり、女たちに見せつけるようにヨガのようなポーズを取っている。腹が出ているので、波打ち際のトドのようだ。
「…………」
そんなジュントスに、レモリーは氷のような視線を向けている。
「直行さま。エルマさまに大至急風呂場まで来るよう言われたのですが、これはいったい……!」
そこに、もう一人の珍客が現れた。
ギッドだ。さすがに前はタオルで隠しているが、文官とは思えない均整の取れた細マッチョ姿に、俺も 少しドキドキしてしまった。
レモリーも魚面も、少し恥ずかしそうに湯船に身を沈める。
「おお! イケメンですな! どうですか拙僧と相撲でも取りませぬか? 異界の神事かつ格闘技らしいですが、なかなか興味深いですな」
ジュントスはカエル倒立のような珍妙な恰好から頭を持ち上げて、愉快に笑う。
説明するのが難しいが、カエル倒立とは、四つん這いになった状態で、両膝を宙に浮かせて、両腕だけで全体重を支える無茶なポーズだ。ちなみに後ろから見ると大変なものが全部丸見えになってしまう。さすがのリーザも顔をしかめて目を逸らさざるを得ない。
それにしても相撲の話は誰から聞いたのか……。状況から考えて、俺かエルマなんだろうけど。
「ギッドと申します。ロンレア領では内政を統括しております」
一方、そんな混沌とした状況にもかかわらず、ギッドは涼しい顔で、堅苦しく挨拶した。
「ふむ。先ほどの会食でも挨拶された御仁ですな」
ジュントスは、舌なめずりをしながらギッドの細マッチョな肉体をガン見している。
さすがのギッドも少し引いているように見える。
◇ ◆ ◇
まあいい、こうなったら裸で作戦会議だ。
「ギッド。こんなところに来てもらったのは、ほかでもない。ガルガ国王の妹君と勇者トシヒコ殿との婚姻の話は聞いているな」
「はっ。ロンレア領といたしましては、これまで以上の慎重な立ち回りが求められるでしょう」
「ああ。そこで、当方から異文化交流会の提案をしようと思う」
「異文化交流会……と申されますと?」
「具体的には花火大会みたいな、派手なイベントがいいと思ってる。ただ、ロンレア領が仕切る訳にもいかないから、ディンドラッド商会の名のもとに行いたい」
「ご冗談を。フィンフ様とは明確に敵対なさったでしょう」
「ああ。キッチリ宣戦布告したから、奇襲をかけて商会ごと傘下に収めてしまおう」
「はい?」
「おお、今度は商会にカチコミですか。直行殿は大胆不敵ですな」
「ギッドにも協力してもらう。古巣と揉めるのが嫌なら、ドン・パッティ商会の協力を仰ごうと思うけど」
ギッドにしてみれば、かつて自分が所属した商会に対して、唐突に敵対的買収を仕掛ける話だ。戸惑うのも無理はない……。
……しかし、ギッドは強いまなざしで言った。
「私たちも殺されかけたのです。落とし前はキッチリつけるのが直行殿のやり方ですから、従いましょう。商会の部屋割りも存じておりますので、お役に立って見せましょう」
そう言うとギッドは、堂々とタオルを取って静かに湯船に沈んだ。
ちょっとした思いつきだったはずが、とんとん拍子に事が運んでしまう。
また、運命が動こうとしていた。
次回予告
※本編とは全く関係ありません。
「6月9日はロックの日。まさに知里さんの生き方だな」
「まあね。ロックにせよ冒険者にせよ、時代遅れなモノばかりに囚われてしまう……」
「カッコイイですわ~♪ ねえ直行さん♪」
「エルマが言うと、茶化してるようにしか聞こえないけどな」
「鍵をかけるロックの日でもあるそうですわ♪」
「次回の更新は6月11日を予定しています。お楽しみに」




