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恥知らずと鬼畜令嬢~ラスボスが倒された後の世界で~  作者: サトミ☆ン
5章・我が世の春と、世界に立ち込める暗雲
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458話・法王庁から見た「勇者トシヒコの凄さ」

「勇者トシヒコさんの印象……か」


 ジュントスに問われて、俺は少し考え込んでしまった。


「……飄々としていて、とらえどころがない。でも、怖さも感じる。たぶん抜け目がない人だ。甘くない大人、といったところでしょうか」


 ヒナちゃんの理想を体現した自治区の裏側で、秘密警察とか組織してるし……。


 実際、そこまで深く付き合ったわけではないので、そんな印象しか語れない。


「ほう。率直な意見、大変参考になりましたぞ」


 それでも俺の答えが参考になったのか、ジュントスは目を細めて頷いている。


 ◇ ◆ ◇


 スープの次の皿は、すっぽんのような亀の蒸し焼き。


 当然、ジュントスは亀の頭の部分にご満悦だった。


「リーザ殿も、いかがですかな?」


 ジュントスは嬉しそうに女騎士リーザの口元に亀を運んでいくが、にべもなく彼女に拒否された。


 5皿目の口直しはマンゴーのシャーベット。


「はい。わがロンレアの特産品で、勇者自治区にも輸出しているマンゴーは、かの女賢者ヒナ・メルトエヴァレンスをも虜にしました」


 調理に一役買ったレモリーが解説した。


 精霊術による氷の魔法をミキサーのように使って、完熟マンゴーを凍らせたものを粉々になるまで撹拌し、ココナツミルクを合わせたのだという。


「マンゴー、実に美味ですな。果実の名前も実に素晴らしい」


 ジュントスはぺろりと一口で食べてしまった。


 続いてはいよいよメインディッシュ。ここぞとばかりに現れたのが、異界風の店主ワドァベルト。


 彼は坊主頭に無精ひげという強面だが、俺と会ってからキャラ変して妙に可愛い口調になった。


「こちらは鹿肉のメダイヨンでしゅー。フランボアーズと赤ワインソースでしゅー」


 何はともあれ異界風の店主、渾身の一作だ。


挿絵(By みてみん)


 メダイヨンとは大型のメダルのことで、フィレ肉を円柱状にカットし、ソテーしたものをフランボアーズ、ラズベリーと赤ワインソースに絡めた濃厚な一品。


 ロンレアの山で獲れた柔らかい鹿肉と、甘いソースが口いっぱいに広がる。


 ジュントスの好みに合わせて若い女鹿(3歳)だ。赤身の牛肉によく似た食感だが、脂身がないのでガッツリ派には物足りないかもしれない。この辺りは好みが分かれるところだろう。


「実に、実に美味ですな!」


 生命力にあふれる肉質は、まさにジビエの醍醐味といった感じだ。


 ジュントスもリーザも、美味しそうに頬張っている。


 華やかなメインディッシュによって、場の空気も盛り上がった。やはり肉料理にテンションが上がる人は多い。


「勇者トシヒコという人の本当の凄さは、魔王を倒したことではありません……。わが法王猊下はそう見立てておられます」


 ジュントスが珍しく真面目な顔で言った。もちろん表情こそマジメだが、片手にワイングラスを持って、鹿肉を頬張っている。


「魔王討伐後の立ち回り、処世術……だよね」


 知里が興味深そうに相づちを打った。


 余談だが、彼女はベリー系の果実に目がない。赤ワインも最近では自前のワイナリーに手を出し始めている。


「左様。勇者なんて誉れ高い呼び方をいたしますが、要するに魔王を討伐した異世界人の武装集団です。実のところ、危険極まりない存在でしょう。懐柔するにせよ、簡単にいくとは思えませんな……」


 よくある「魔王を倒した勇者のその後」問題だ。


 ゲームなどではエンディングを迎えたら終わりだけど、勇者たちの人生はその後も続く。


 マンガなどで見られる穏当なものだと、旅に出たり、王女と結婚したり……。


 一方、不穏な結末は、王から疎まれ、粛清されたり……。または闇討ちされたり。殺されそうになって逆切れして人類を滅ぼそうとするものさえある。


 勇者が次の魔王になるなんてのもよくある話だ。


「権力側としちゃ、隙あらば排除したいし、力を取り除きたいよね」


「トシヒコ殿らは賢明にも、まず自ら武装解除を行いました。パーティが魔王戦で使った武器をすべて、クロノ王国に献上したのです」


「……ま、実際はトシヒコの愛刀〝濡れからす〟はレプリカを献上し、本物は在野のお小夜に預けたんだけどね……」


 知里がジュントスに聞こえないよう、俺に耳打ちした。


「ヒナ・メルトエヴァレンス様の〝夢見のタクト〟、ミウラサキ様の槍、小夜子様の剣など、伝説級の武器がクロノ王国に提供されました。その見返りとして、一代侯爵の地位と、辺境の地ではありますが勇者自治区という領土が与えられましたな」


 ジュントスもさすがに法王の側近だけあって、その辺りの事情に詳しいようだ。


 もっとも、知里からの報告では〝ミウラサキの槍〟は現在、量産型魔王たちと、七福人のひとりソロモンが使っているようだが……。


「一代侯爵の地位は、法王猊下が?」


「表向きは……ですな」


 ジュントスは意味ありげに笑った。


「……と、言うと?」


「勇者自治区の成り立ちは、クロノ国王ガルガ陛下が提案して、法王猊下が承認した形になっておりますが、実際はクロノ王国の老臣たちを勇者どのらが抱き込んだようです」


 酒が入って上機嫌になっているためか、ジュントスは饒舌だった。


 ただ、この話はリーザには初耳だったようで、彼女は驚いた表情をしている。


「異界人とクロノ王国譜代の臣下の間で、そのような政治的取引が……!」


「なるほどね。だからガルガは、老臣に頼らない匿名の側近集団を従えて、自らが直接政治を行う親政に乗り出したのか」


 知里は合点がいったようで、深く頷いた。


「何にせよわがロンレア領にとっては、とばっちりもいいところですわね♪ まったく忌々しい……」


 エルマは不満タラタラだが、意外な人物から重要な情報が引き出せた。


 この貴重な情報を〝武器〟に、俺たちは次の策を練るとしよう。

 次回予告

 ※本編とはまったく関係ありません。


「小夜子さん♪ ペヤング『味の大関』ってご存じですか? 全国初の十五円ラーメン♪ 1966年に発売したそうですけど♪」


「66年じゃ、さすがに生まれてないわねー」


「最近復刻したそうだな」


「へー。ペヤングって、焼きそばだけじゃないんだ」


「そっか知里は00年代だから知らないんだ。80年代にはわかめラーメンとか、餃子ラーメンとかあったわね」


「その辺が復刻するかどうかは置いといて、ペヤングに限らず、復刻製品の文化はすっかり定着した感があるなー」


「当時を知らないあたしみたいな層にも〝古くて新しい〟って価値を提供できるマーケティング・アプローチだね」


「まるで昭和生まれなのに17歳の姿のままの小夜子さんみたいですね♪」


「ちょっとエルマちゃん! あんまりよ!」


「次回の更新は6月4日を予定していますわ♪ 『復刻! 小夜子のバリバリヤング伝説』お楽しみに♪」

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