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恥知らずと鬼畜令嬢~ラスボスが倒された後の世界で~  作者: サトミ☆ン
5章・我が世の春と、世界に立ち込める暗雲
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455話・恥知らずと卑怯なコウモリ

「裏切り者のボクと信頼関係を結びたい? 正気ですか……?」


 いぶきは自虐的に笑って、眼鏡をかけ直した。 


「三重スパイの依頼は、いぶきを危険にさらすことになる」


 俺は、まっすぐにいぶきを見て言った。


「実際、三重スパイなんて捨て石でしょう? でも、あの状況ではボクは条件を飲むしかなかった」


 いぶきは斜に構えたような感じで、皮肉っぽく笑った。


 彼の言う通り、勇者トシヒコに命を狙われた状況を切り抜けるには、俺が提案した無茶な条件「三重スパイ」の提案も受け入れざるを得なかった。


 しかし俺は彼を捨て石にするつもりはない。


「俺はいぶきを見捨てるつもりはない。危険が迫ったら助けるし、諜報活動のバックアップもさせてもらう」


「……あなたがそのつもりでも、エルマさんや知里さんは納得しないでしょう。ボクは薄汚い裏切り者ですから、クロノ王国にあなた方の情報を売るかもしれない」


 いぶきは暗い目をしている。どうも彼は自暴自棄になっているようだ。


 勇者トシヒコに粛清されかけたのだから、無理もないのだが……。


「そうヤケになるなよ。俺を信じる必要もないし、裏切っても文句は言わない。ただ、いぶきの諜報活動のケツは持つ。それだけの話だ」


「……あなたには凄腕の用心棒の知里さんがいるから、ボクが裏切ったら簡単に始末できますもんね」  


 彼の心が頑ななのは、トシヒコに命を狙われたからだけではないだろう。


「……いぶきが疑心暗鬼になっているの理由は、よく分かる。殺されかけただけじゃない。やることなすこと裏目に出て、それを挽回しようと思って無茶をして空回りしてしまう。かつての俺がそうだったように」


 いぶきは今、追いつめられている。


 決して善人ではないけれど、汚れ仕事、諜報活動ができる人材は欲しい。


挿絵(By みてみん)


 だからこそ俺は、彼の心を動かす必要があった。


「……ひとつ聞いてもいいですか? どうしてボクに肩入れするんです?」


 そんな俺の下心を見透かしたように、いぶきは声のトーンを変えて尋ねてきた。


 試されているのか? いぶきの心が少しだけ軟化したと思いたい。


「……いぶきは、ここに来たばかりの俺に機会をくれた。マナポーションをだまし取ろうと思えば、できたはずだ。本当にお前が薄汚い裏切り者なら、やり方はいくらでもあったはずだ」


 事実、金品の受け渡し時に知里と俺を引き離して、俺を暗殺することもできたろうし……。

 

「つまり直行さんは、ボクがそこまで悪人じゃないと言いたいんですね。でも薄汚いことをしたら、ヒナさまの信用を失うだけです。まあ、ボクがいくらキレイな手段で頑張っても、結局は信用されなかったんですけど……」


「いぶき、クロノ王国との諜報戦をやり抜くには、お前の力が必要だ」


 彼が裏切るとしても、こちらはいぶきを戦力としてアテにする。


「まあボクは、生き延びるためにも、あなたの庇護を受けるより他はないですけどね」


「いぶきを頼りにしてるから」


 そんなことを言って、俺は手を差し出した。


 いぶきは照れ臭そうに笑って、俺の手を強く握りしめた。彼が何を考えているかは分からないけど、何となく、俺たちに共犯関係のようなものが生まれた……ような気がする。


 改めて応接間に腰かけ、ざっくりと今後の諜報活動の指針を話し合った。


「……やはりクロノ王国のカギとなるのがネオ霍去病です。過去が見える能力と呪殺系魔法は相性が良すぎるし、怖いですよね」


「確かに情報相と過去を見る能力と呪殺の脅威だが、前世までも知る力はないのかもよ」


「どうしてそう思うんです? 直行さん」


「前世まで見ることができてたら、とっくの昔にトシヒコさんやヒナちゃんさんを暗殺してるだろう。俺が霍去病なら、まずはあの2人を狙う。絶対に排除したいよ、英雄たちは……」


 〝他人の過去を見ることができる〟ネオ霍去病。


 呪殺魔法の成功率は、対象の情報を知れば知るほど上がりやすくなるという。


 首脳会談を何度も重ねたのならば、世間話などもしたのだろう。トシヒコはともかく、ヒナ・メルトエヴァレンスの社交的な性格を考えると、けっこう個人情報も話していると思われる。


 現に、俺と初めて会ったときも彼女はけっこう自身の境遇を話していた。


 だとしたら、ネオ霍去病が、トシヒコとヒナを狙わない理由はない。


「ヒナ様やトシヒコ様たちは別格ですよ。規格外の能力ですから、呪殺なんて不可能です」


「でも、〝鵺の猿〟は殺せただろう。まだ霍去病の仕業だと断定できないけどさ……」


 猿だって、幻術で(けむ)に巻いたとはいえ、世界最強格の賢者ヒナや闇魔導士の知里を相手に渡り合った凄腕だ。


「猿は殺せて、ヒナちゃんさんは殺せない。ここに霍去病の呪殺能力の限界ラインがあるはずだ。ネオ霍去病の能力と、呪殺系の効果範囲なんかも調べられたら助かる」


 ネオ霍去病の呪殺能力が知りたい。

 

 こんなことを提案したのは、俺やエルマが狙われたら、一発でアウトだからだ。

 

「遠隔地から容易に呪殺してくる奴をどう封じ込めるのか……。俺たちにとっての直近の課題だ。いぶき、やり方は一任する。経費はいくらでも出す。頼んだ」


 まだ見ぬ敵との戦いは、すでに始まっている。

 次回予告

 ※本編とは全く関係ありません。



「直行さん♪ 今日はプリンの日らしいですわ♪」


「毎月25日はプリンの日だな」

 

挿絵(By みてみん)


「プリンを食べると思わずニ(2)ッコ(5)リということで♪ おひとついかがですか♪」


「お前それ、過去絵の再録だろ。ヒナちゃんさんに一服盛ったときの……」


「気のせいですわ♪ それに毒なんて入れてなかったじゃないですか♪」


「お、おう……」 


「次回の更新は5月27日を予定していますわ♪ 『地獄プリンの巻』お楽しみに♪」

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