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恥知らずと鬼畜令嬢~ラスボスが倒された後の世界で~  作者: サトミ☆ン
5章・我が世の春と、世界に立ち込める暗雲
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451話・或る暗殺者の死

挿絵(By みてみん)


 暗殺者集団〝鵺〟の頭目〝猿〟が獄中で死んだという。


 かつて魚面が所属し、ディンドラッド商会の依頼で散々俺たちを妨害してきた恐るべき敵。


 そのリーダー格の猿、虎、蛇の3人の暗殺者による波状攻撃は、たまたま視察に来ていたヒナ・メルトエヴァレンスも含めた元・勇者パーティの力添えによって撃退した。

 

 透明な蛇は牢に閉じ込めておくことが難しいため、俺がガルガ国王暗殺を依頼することで、間接的に排除することにした。


 兵法で言うところの借刀殺人。十中八九死出の任務に、本人も承知の上で赴いていった。


 捕らえた猿と虎については、魔法封じを厳重にかけた上で地下牢に投獄しておいた。


 その猿が、殺されたという。


 ◇ ◆ ◇


「ギッド、状況は分かるか?」


 ロンレア領内の内政を一手に引き受けるギッドに尋ねた。


 彼は自警団を動員して、現場に非常線を張り、遺体の回収や証拠品と思われる物品の確保。さらにはもう一人の重要参考人の虎仮面の男の身柄を保護するなど、手際よく現場の後始末をこなしているようだ。


「遺体をご覧になりますか……?」


 ギッドは事務的な口調で、黒い布に覆われた物体を指し示した。

 

 遠目で見た限りでも布があらぬ方向に引っ張られ、人間の原型を留めていないことがわかる。


「司祭殿によれば、〝呪殺〟である可能性が高いとのこと」


「呪殺か……」


 呪殺系魔法は、俺も食らったことがある。正確には魚面を助けようとして巻き添えを受けた格好だが、身体が破裂するほど膨張して、魚面と融合するほどの損傷を受けてしまった。


 ネンちゃんの天才的な回復術、エルマの肉体複製と錬金術師アンナの人体錬成という、禁忌の重ね掛けがなかったら、俺は間違いなく再起不能だった。


「直行さん♪ あたくしグロいのを見ると食欲が失せますから、この場はお願いしますわね♪」


 エルマはそう言って、無責任に屋敷に入っていった。


「……ギッドさン。虎も死んだのカ?」


 魚面にとっては、猿も虎もかつての上司にあたる。いくらやりたくなかった暗殺稼業とはいえ、同じ釜の飯を食った元仲間の死に、彼女は心なしか動揺している様子だ。


「魚面どの。虎ならばそちらで自警団の尋問を受けています」


 ギッドが指さした先には、非常線が張ってあり、鎖につながれた仮面の大男が自警団に取り囲まれていた。


「行ってみよう、知里さん、レモリー」


 俺たちは非常線を乗り越えて虎の元に向かった。


 ◆ ◇ ◆


「虎よ。お前は猿と地下牢で隣だったよな。一部始終を聞かせてくれないか?」


 俺たちは自警団の間を抜けて、虎に言葉を投げかけた。


 彼は一見して憔悴しきっていた。


「…………」


 無理もない。魔法が使えないように四六時中猿轡をかませられ、拘束された挙句に目の前で頭目が惨殺されたのだ。少なからず忠誠を誓っていた虎にとってはショックも大きいことだったろう。


「……あたしの見立てでは、相当に遠方から呪い殺されたみたいね」


 知里は指先に魔力の火を灯し、じっと見つめる。魔術的な実況見分、といったところだろうか……。


「この場に残存している呪力がない。呪殺系は相当に強い魔力が残るけど、その形跡がない。遠方からピンポイントで呪っているわね……まさかソロモンの奴が……」


 彼女は唇を噛み締めて、吐き捨てるように〝七福人〟の1人の名を呼ぶ。


 しかし、ちゃっかり割り込んできたいぶきが異を唱えた。


「……違うと思います。おそらくそれはたぶん、ネオ霍去病の『宿命通』だと思われます」


「……こちらの御仁は?」


 ギッドを含めたロンレア領の役人たちは「え? 誰?」みたいな表情で顔を見合わせている。


「彼は神田治(かんだはる)いぶき。勇者自治区から出向してくれた……ええと」


「諜報員ということで、よろしく」

 

 いぶきは恭しくギッドらに頭を下げた。しかし間違いなく信用されていない。


 妙に人懐こくて調子が良いから、他人から疑われやすく、スパイ容疑なんかをかけられてしまうのだろう。

 

 ……まあ、詳しい事情を知らせても波風が立つだけだから、三重スパイの件は伏せておこう。いぶきには後でキチンと潜伏方法などの段取りを確認する必要があるが……。


「確か〝猿〟は仮面をつけてたと思うけど……?」


 魔術的な探知も含めた実況検分を行っていた知里が、ギッドを呼んだ。


「こちらでございますね? 遺体の側……ではなく、鉄格子に向けて投げられた形跡があります」


 現場の様子を記録したメモを取り出し、淡々とした口調で説明するギッド。


 知里も何かピンと来たようで、今度は〝虎〟に向けて歩み寄り、言葉をかけた。


「虎吉。猿の仮面には、何かしらのダイイングメッセージが残されてるかも知れない。アンタはそれをご存じ?」


 虎吉って……。


 しかし知里の問いは図星だったようで、鵺の虎は取り乱した様子だった。


「……心が読める闇魔導士に、隠し事はできねえからな」


 虎吉こと虎仮面の男は、吐き捨てるようにつぶやいた。


 ……そのとき。


 朝もやに煙るロンレア領の空から、白銀の飛竜が舞い降りた。


 乗っていたのは仏頂面の女騎士リーザ。あろうことかビキニ鎧を身にまとっている。

 

 彼女の後ろには、おかっぱ頭の聖騎士ジュントス。俺を見るや嬉しそうに手を振り、小太りな体を揺すって、飛竜から降りて駆け寄ってくる。


「直行どのー! とっておきの情報を持ってきましたぞー!」


 そう言って手を振るジュントス。なんて間の悪い奴だろう。


 殺人現場の実況見分中に現れた彼からの知らせとは……。

挿絵(By みてみん)


 暗殺者集団〝鵺〟のデザインは、ホーリン・ホーク様より寄せていただきました。

 ホーリンさんは現在なろうを休会中ですが、いただいた素晴らしいキャラクターデザインは、大切に使わせていただいております。


 今回の〝猿〟についての顛末は事後承諾となってしまいましたが、どうかご了承ください。

 〝鵺〟については、今後も引き続き大切に拙作内で使わせていただきます。


 次回の更新は5月18日を予定しています。

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― 新着の感想 ―
[一言]  突然の猿の退場にショックを受けました。戦いの決着の後に消えてしまうのかと思っていましたが彼の何か意味がありそうで物語に深みを与えたと思います。  そしてこの451話を読んだ直後の印象をイ…
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