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恥知らずと鬼畜令嬢~ラスボスが倒された後の世界で~  作者: サトミ☆ン
5章・我が世の春と、世界に立ち込める暗雲
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448話・勇者VS頬杖の大天使

「直行さーん♪ お迎えに上がりましたわ♪ 何をやらかしたのかは存じませんが、ズラかるときは派手にいきましょう♪」


 あろうことかエルマは、鵺に乗って俺たちを追ってきた。彼女の後ろには、荷物を抱えた魚面(うおづら)の姿もある。



 隠密行動で逃げようとしていた俺の作戦が台無しだ。 


「エルマよ、なぜに鵺と…………まあいい」


 こうなってしまったら仕方がない。


 鵺を駆るエルマと合流した俺たちは、中央湖を突っ切ってロンレア領を目指す。


 いぶきが隠れているトロッコは鵺に咥えてもらって、全速力でこの水域を抜けるしかない。


 幸いというか、追っ手の中でホバーボードに乗っているのは2~3人ほど。後は船を出そうとしている最中だ。


 知里は幻影魔法を使いながらホバーボードで周囲を飛び回り、追っ手を撹乱している。


 この隙に、いまなら逃げられる。


「敵なら殺すヨ。嫌だけド我慢スル」


「魚面、そんな物騒なこと言うな。殺しちゃったら外交問題。俺たちオシマイだから手を出すなよ。レモリーも、そう心得てくれ」


「はい。承知しました」


 血気にはやる魚面をなだめつつ、俺たちは鵺の背中に乗り移った。


 トロッコに隠れたいぶきは、そのまま鵺に咥えていてもらう。


 手綱に手を取り、振り落とされないように体に括りつけていたところで、エルマが声をかけてきた。


「直行さーん♪ しかし派手にやらかしましたわね♪ ヒナさんに夜這いでもかけたんですか?」


 レモリーを横目で見ながら、奴はいい加減なことを言う。


「そんなわけあるか。いぶきと会っていたら秘密警察に追われた。それだけだ」


 ……本当に、それだけだ。しかし俺の選択が、ロンレア領の命運を分けるかもしれない。


「ああ意識高い系メガネの人。なに〝やらかした〟んだか知りませんが、そのまま警察に突き出せば、こんなことにならなかったのでは?」


 エルマにド正論をかまされると、返す言葉もない。


「待テ! 誰か来ル!」


 魚面の顔色が変わった。


 と、次の瞬間には鵺の目の前に人影が浮いている。 


 その後ろには、魔法銃を構えた知里。


「……いいえ。……何が起こったのですか? こちらの方は……」


 レモリーが驚いて俺を見た。


 俺だって何が起こったか分からない。


 ただ、目の前にいる人物は知っている。


 勇者トシヒコ。ダークスーツを着崩して、飄々とした様子で宙に浮かんでいる。


「はじめまして別嬪(べっぴん)さん。俺の名はトシヒコ。そこの色男に愛想が尽きたら、俺様が面倒を見てやるぜ」


 彼はレモリーに向かって恭しく礼をする。


 と、背中越しに銃を突きつける知里にも声をかけた。


「俺様の背後を取るとは、さすがちーちゃん。気配を殺して高速で近づいたのにバレバレかよ。オッパイは小さくても目ざといぜ」


「相変わらず、余計なことを言う男ね」


 知里は不敵に笑って銃をホルスターに収める。


 トシヒコは肩をすくめながら、エルマに視線を移した。


「こちらも〝はじめまして〟だな鬼畜令嬢。俺がトシヒコだ」


 トシヒコは空中で貴族の礼をしてみせた。


「……あたくしの名はエルマ。エルマ・ベルトルティカ・バートリ。ロンレア伯の長女ですわ。現在ロンレア領主を任されております♪ 世界を救った勇者様とお会いできて光栄ですわ♪ 」


 エルマも、鵺の背の上で貴族の礼で応える。


「……しっかしよォ、とんだ茶番だぜ鬼畜令嬢」


 トシヒコは鵺や知里やトロッコなどを指さしながら、皮肉っぽい笑みを浮かべた。


「……異界の召喚獣で派手に暴れたフリをして、俺様を引っ張り出そうと仕掛けたわけか」


「さあ、どうでしょう♪」


 勇者トシヒコの問いに、エルマは笑みを浮かべたまま答えを濁した。


「まあいい。問題なのは色男、お前さんが連れてるスパイのことだ」


 彼は鵺が咥えているトロッコに目をやり、少し険しい顔をした。


 当然、トロッコの中にいぶきが隠れていることなどお見通しだろう。


「……トシヒコさん。あなたは、まだスパイだと確定していないにもかかわらず、いぶきの命を奪うつもりですか?」


 俺は動じないように心を落ち着かせている。


「敵対する可能性のある国に対しての技術の流出は、安全保障上の脅威だからな」


「……いぶきは無実を訴えていましたが……」


 厳密にいえば、完全無罪ではないけれど……。


 少なくともいぶきの言い分からは、技術と人材の流出について、関わってはいなさそうではあった。


「……とっ捕まえて吐かせるつもりだったが……。さあ~て、どうすっかな~」


 トシヒコは不敵に笑う。


 いぶきの生殺与奪は、完全に握られてしまった。


 この場を切り抜けるには、俺が機転を利かせるか、知里の戦闘力に頼るしかない。


「トシヒコさん。実は俺、彼にひと働きしてもらうつもりでいるのですが……」


「……はは~ん。てことはお前さん、あいつにクロノ王国の内部でも探らせるつもりだな? 二重ならぬ三重スパイってことか……」


 この男は本当に呑み込みが早い。


「あたしも直行に賛成なんだ。クロノ王国の実情は、是が非でも知りたいから」


 知里はもう一度ホルスターに手をかけ、不敵に笑った。


「ちーちゃんまで一緒だと、武力で脅すのは得策ではなさそうだなァ~」


 勇者トシヒコVS知里。


挿絵(By みてみん)


 この世界でも屈指の凄腕同士の対戦カードだ。魔王を倒したチームのリーダーと、S級冒険者として名を馳せる天才魔術師。


 知里は頬に左手を当てて、右手は魔法銃を掴んでいる。


「…………」


 勇者とS級冒険者は無言のまま見つめ合っている。


「ちーちゃんは……〝俺がいま何を考えている〟のか、わかるよな?」


「まあね」


 トシヒコの挑発的な問いに、知里は笑って頷いた。

 

「あたしが隙を見せたら、〝重力操作〟でトロッコの中身ごと圧し潰すつもりね……」


「〝ニュータイプ〟的な奴とはりたくないねえ」


 トシヒコと知里は、戦っている。


 達人同士の戦いは、間合いの取り合い。


 静かに対峙しているように見えるけど、俺には分からないところで、心の読み合いと主導権の取り合い、魔力の牽制し合い……。水面下では火花を散らしている。


 最強とも謳われる両者の対決に、いぶきの命運は委ねられた。



 次回予告

 ※本編とは全く関係ありません。


「ママ、いつもありがとう。このカーネーションは、ヒナが育てました!」


「ありがとう。今日は母の日か……でも、素直に喜んであげられなくてゴメンね」


「分かってる。まさか17歳のときのママを召喚してしまうなんて、ヒナも予想外だったし」


「でもまあ、まさか自分がビキニアーマーを着て魔王を倒すなんて、夢にも思わなかったな」


「トシの奴がくだらないスキルなんかつけるから、ママに恥ずかしい思いをさせて!」


「恥ずかしいけど、そのおかげで皆の役に立てるし。そうだヒナちゃんも一度装備してみる?」


「いやです」


「次回の更新は5月11日を予定しています。『母娘ビキニアーマーの回』お楽しみに!」 

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