445話・闇に吠える街
うつろな瞳の知里が、秘密警察2人組を殺そうとしていた。
彼らは既すでにロープでがんじがらめにされており、抵抗できない。その首筋には闇の魔力で作った死神の鎌が当てられている。
俺は心底驚いてしまったが、近づきながら叫んだ。
「知里さん! 何をやってるんだ。そいつらを殺してしまったらダメだ!」
ホバーボードから飛び降りて、知里を止めに入る。
──明らかに様子がおかしかった。
彼女は拍子抜けしたような感じで、俺を見た。
「……だってコイツら『睡眠無効』『麻痺無効』のアイテムを装備してるし」
「知里さん? 大丈夫か……?」
俺は知里の肩をゆすってみる。彼女はビクッとして、目を見開いた。
「あれ? 直行。コイツら『睡眠無効』の……」
「だからって首を刎ねようとするって、どうかしてるよ。正気か? 何かされたのか?」
「──首を刎ねる……あたしが?」
俺の問いに、知里はギョッとした様子だった。
そして我に返ったように、闇の魔力で作った死神の鎌を消した。
「ごめん……あたし、どうかしてたみたい」
我に返った知里は、頭を押さえながら闇の翼で宙を飛ぶ。
「追っ手はあと4人ね……」
「知里さん、大丈夫かよ?」
「闇の魔力に意識を乗っ取られそうになってしまった。今はもう大丈夫……制御するから」
知里はそう言って俺を見た。強い瞳で、決意に満ちている。
大丈夫、だと思いたいが……。
「すみませんボクなんかのために」
意識が戻ったいぶきが、申し訳なさそうに言った。
俺は、どう答えてやったらいいか分からなかった。
「追手が迫っている。どうにかエルマたちに連絡を取りたい。数分、時間を稼ぎたいんだけど」
俺は知里といぶき、どちらに言うでもなく問いかけた。
ロープで動けないようにした秘密警察から距離を取り、いったん裏路地に入る。
「あたしが幻影魔法で行き止まりを作ろう」
知里はそう言って魔力を発動させる。
「さすが!」
一瞬で、路地裏は壁に覆われた。外の通りからは行き止まりのようになり、こちらの様子はうかがえない。
「直行はどうするの? あたしの能力では逃走経路を確保できないし……」
「強行突破は可能でしょうけどね」
「いぶき、アンタは少し黙ってて」
限りなく黒に近い人物いぶきを保護することを決めたのは俺だ。
彼に三重スパイとしてクロノ王国の内情を探ってもらう。
リスクは多大にあるが、情報統制された国の情報は、喉から手が出るほど欲しい。
「直行……」
俺の心を読んだ知里が、腕を組む。彼女にしても、クロノ七福人に個人的な復讐を抱える身だ。
俺たち3人は、引き返せない道を歩もうとしているのかも知れない……。
「……さて」
俺は緊急用の通信機を取り出し、ヒナ・メルトエヴァレンスに電話をかけた。
ここから先は、精神的な綱渡りだ。
「直行くん。何かあったの?」
「理由があって、トシヒコさんの秘密警察に追われている」
「えっ……」
ヒナは絶句している様子だった。
どうやらカラオケ中だったようだ。
電話越しに、80年代のアイドルソングを歌う小夜子の明るい歌声と、囃し立てるアイカの声が聞こえてくる。
「ヒナちゃんさん。小夜子さんと一緒なんだ。エルマたちもそこにいる?」
「ここにはアイカだけ。あの人たちは、たぶんホテルじゃないかしら」
「そっか。教えてくれてありがとう」
「……何をやったの? ヒナに聞かせてくれる?」
ヒナの声はいつも以上にシリアスに感じる。
俺はいぶきを横目で見る。
「実は……いぶきと一緒なんだ」
「……なるほど、いぶき君に巻き込まれたと?」
この様子だと、ヒナがどこまで実情を知っているかは分からない。
俺は肯定も否定もせず、言葉を継いだ。
「ヒナちゃんさんは、彼が秘密警察に追われている容疑は知ってる?」
「……トシは疑っているようだけど。ヒナはいぶき君を信じてるよ」
ヒナの話は、受話器に耳を近づけている知里といぶきには聞こえている。
彼女の「信じている」に、いぶきは苦笑いを浮かべる。
「もちろん俺も彼を信じてる。なので、秘密警察に撤収を命じてほしいんだけど、いいかな?」
「それは……」
しかし、ヒナは返事を濁す。
「治安維持のための組織の存在は、トシから聞いてはいた。でも具体的に何をする組織なのか分からないし、ヒナに彼らをどうこうできる権限はないの。残念だけど」
彼女がどこまで状況を把握しているかは分からない。
しかし、俺からは「いぶきが限りなく黒」であることは伝えない。
「そっか。ただ、俺もとばっちりで追われているのは困る。逮捕されたらシャレにならないし……」
「ヒナからトシに連絡しておこうか?」
「万が一俺たちが捕まったら、そのときは便宜を図ってほしい。いまは自分たちでどうにかするよ」
「どうにかするって、直行くん何を考えているの……?」
俺は、秘密警察から逃れつつ、いぶきをロンレア領に連れ帰らなければならない。
そのためには、まずはヒナ・メルトエヴァレンスを出し抜く必要があった。
次回予告
※本編とは全く関係ありません。
「直行さん、GWも後半戦ですわね♪」
「俺は勤めてた頃はブラック企業だったから、GWも休みじゃなかったんだ。アフィリエイトを始めてからだと記事の更新で、そもそも休みなんてなかったし……」
「学生時代はどうでした?」
「少年野球をやってた頃は、大会が目白押しだったな。辞めてからはボッチだったから、休日は家でずっとゲームだな」
「……直行さん元気出してくださいね♪ 明けない夜はないと言いますわ♪」
「エルマに慰められると泣きたくなるな」
「次回の更新は5月5日を予定しています♪ 直行さんにGWは来るのか? お楽しみに♪」




