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恥知らずと鬼畜令嬢~ラスボスが倒された後の世界で~  作者: サトミ☆ン
5章・我が世の春と、世界に立ち込める暗雲
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444話・表通りにとびだして

「撃て! 撃ち続けろ!」


 パン、パスン、パン……。夜の街に乾いた音が響く。


 前後を取り囲んだ秘密警察が、迷いもなく神田治(かんだはる)いぶきに銃弾を撃ち込んだ。


「いぶき!」


「ぐはっ」


 彼は短い悲鳴を上げてのけぞった。パッと見たところ外傷はなさそうだが、一瞬で気を失っている。


 敵の銃器はスタン・ブラスターと言っていた。名前から気絶効果のある弾丸だろう。


「抵抗すればあなたとて容赦しません」


「さあ! いぶき氏をこちらへ!」


挿絵(By みてみん)


 白目を剥いて倒れ込むいぶきを、どうにか抱きかかえる。


 秘密警察は俺には発砲する気はないようだが、いぶきごと捕えるつもりなのか駆け寄ってくる。


 こうなったら知里を待ってはいられない。


 俺はホバーボードを浮上させ、下から撃ちにくいような高度を取りつつ、加速する。


「待て!」


 秘密警察は、容赦なくブラスターを発射する。


 俺の持つスキル『回避+3』と『逆流』が、銃弾にどの程度有効なのか未知数だが、避けるしかない。


「宙に逃げた。ドローンをこちらに回して!」


「スタン・ブラスターを撃ちまくれ!」


「撃て撃て! まぐれ当たりでも落とせ!」


 秘密警察は無線を使って叫んでいる。


 地上から放たれる銃弾は、ホバーボードを避けるように外れていく。どうやら俺のスキル『回避+3』と『逆流』が発動し、ブラスターの弾丸を自動回避してくれているようだ。


 俺は一定の高度を取りながら、うす暗いメルトエヴァレンス通りを疾走する。


「いぶき? しっかりしろ」


「…………」


 いぶきはまだ意識が戻らない。外傷はなく、呼吸も乱れてはいないので命に別条はなさそうだが……。


 彼を抱えたまま、追っ手から逃れるのは難度が高い。


 俺は建物の間をジグザグに飛行しながら高度を取った。地上からは容赦のないスタン・ブラスターの銃撃が続いている。


 なかなか逃げ切れないのは、いぶきを連れているためだ。もう少し高度を取りたいところだが、高く飛びすぎるとドローンに見つかってしまう。


「……どうしてこうなった」 


 心臓がバクバクいっている。


 いぶきの話を聞きに行っただけなのに、まさか俺まで警察に追われるとは──。


 このままでは外交関係は台無し、勇者自治区に追われる立場だ。


 とはいえ、恩人でもあるいぶきを放り出して自分だけ逃げることもできない。

 

「くそっ……!!」


 薄明りのグレン・メルトエヴァレンス通りを抜けると、イルミネーションきらめく勇者自治区のメインストリートだった。


 パーカーのフードを被せているとはいえ、いぶきを抱えてホバーボードで逃げる姿は目立ちすぎる。


「ハッピーフラワー通りに不審者が逃走中! 市民の皆さんは建物に隠れてください! 繰り返します……」


 軽快な音楽が流れていた通りが一変し、物々しい放送が入る。


 地上ではショッピングを楽しんでいた住民たちが俺を指さし、逃げまどう。


「そこの容疑者、抵抗は止めて投降しなさい!」


 向かいの通りからは増援部隊と思われるホバーボードに乗った軍警察たちが迫ってくる。


 さすがに街中ではスタン・ブラスターを使用しないようだが、このままでは挟み撃ちだ。


「ええい!」


 俺は思い切ってホバーボードを急降下させつつ、ドリフト走行のように車体を横滑りさせながら方向転換。


「!!」


 いま来た道を逆走し、追って来た秘密警察とすれ違う。


 ホバーボードにはタイヤがついていないので音は出ないが、スライド状態のまま加速し続ける。


「どうにかなる! やってやる!」


 いぶきを抱きかかえたままだが、『回避+3』と『逆流』のスキルを常時発動させつつアクセルを全開にする。

 

「容疑者が急転換!?」


 突然の方向転換に、秘密警察たちも呆気に取られたようだ。


 その隙に、ギリギリの距離ですり抜ける。


「危ねえ。どうにかうまく行ったけど……」


 しかし、このまま逃げ切れるかは微妙だ。


 土地勘のあるいぶきが気を失っているので、逃走経路を確保することは難しい。どうにかして秘密警察を回避しつつ、知里と合流できるかが勝負だ。


 俺は、ホバーボードを再び浮上させて、入り組んだ建物を縫うように飛行する。


 普段から乗り回しているわけじゃないので操縦は不慣れだが、『回避+3』のスキルは人や建物等との激突を防いでくれる。

 この回避スキルを利用しつつ、市街地をサーキットのように飛び回り、知里との合流を目指す。


「知里さん! どこだ!」


 俺は声を張り上げる。


 通信網を張り巡らせたロンレア領と違って、勇者自治区では私用の通信機がほぼ使えない。

 緊急連絡用のスマホがあるが、通話先はヒナ・メルトエヴァレンスの執務室。


「ヒナちゃんさんとは下手に連絡できないし……」


 スパイ容疑で追われているいぶきを連れて逃走中の身柄としては、うかつに連絡できない相手だ。

 俺自身が罪に問われる可能性もあるし、スキル結晶の取引が中止にならないとも限らない。


「んん……」


 いぶきが目を覚ましつつあった。

 彼を支えながらの逃走劇では、さすがにこちらの体力も消耗してしまう。


「起きたか、いぶき。ボードには1人でつかまれるか」


「えっ? はい。知里さんは?」


 意識を取り戻したいぶきが、自らホバーボードに手をかけてくれたので、俺の負担は軽減された。

 しかし状況は一向に好転しない。


「!?」


 そのとき、路地裏のあたりで大きな炸裂音と紫色の炎が上がった。

 俺は一目散に炎の方へホバーボードを飛ばす。


「あ!!」


「知里さん! 何を──」


 そこには、ロープでがんじがらめにした秘密警察2人組。

 そして彼らの首筋には闇の魔力で創造された死神の鎌。


「死ね……」


 うつろな表情の知里が、2人組の命を刈り取ろうとしていた。

次回予告


 ※本編とは全く関係ありません。


「錬金術師のアンナ・ハイムだッ! わが研究所では実験台……いや、治験を募集中だッ」


「助手のネリーだ。皮膚に髪の毛、腎臓・肝臓……提供者にはもれなく素敵な景品を用意してある」


「なあに、命までは取らないッ。我こそはと思う者はどしどし人体を提供してくれッ!」


「次回の更新は5月3日を予定している。『445話・闇に吠える街』吾輩たちは出番がないが、我らの錬金術は地味に物語の屋台骨を支えているのを忘れないでくれ……」

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