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43話・飛べ! ホバーボード 


 ホバーボードは舞い上がり、雑然としたスラム街の中空を飛翔した。


 行きかう人々が、好奇の目で俺たちを見ている。


 俺たちは合い向かいでぶら下がり、その頭上にネンちゃんが立って空を飛ぶという、なんとも珍妙な光景だったから。


 もっとも、そんな無茶なぶら下がり体勢は長く続かずに、地上をキックしてまた飛ぶというような格好だ。

 知らない人が見たら、変な親子連れに見えるかもしれない。


 まあ、それは良いのだが、実際のところ目のやり場に困る。

 頭上では、粗末なワンピースを着た少女がスカートをヒラヒラさせている。


 正面には、ビキニからはみ出しそうなボリュームのある胸と、全開になった小夜子の両脇。


 さすがにお互い気恥ずかしいというか、俺は相当に気まずい。

 かといって首を横に向けていると寝違えたようになってしまう。


 俺たちは今日初めてお互いの名前を知ったばかりだというのに、何とも恥ずかしい体勢のまま、目的地へ急がなければならない。


挿絵(By みてみん)


 旧王都の城壁を飛び越えて、街道に出る。

 快晴の空を突っ切って、俺はホバーボードを加速させる。

 それに合わせるように小夜子も高度を上げた。

 さすがにぶら下がり状態では厳しい。

 俺と小夜子はホバーボードの両端に腰かけるような体勢を取った。


 さすが、沈没船から財宝を引き上げた実績をもつだけあって、魔法の道具の馬力は大したものだ。

 ネンちゃんは軽量だけど、体重55キロの俺と、上背があって巨乳だし45キロ以上はあるだろう小夜子が乗っても安定している。

 全速力は難しいが、自転車の普通漕ぎくらいの速度は出ている。

 吹き抜ける風がとても気持ち良い。


 目的地まで、およそ30分か。


「直行君は、誰に呼ばれてこの世界に来たの?」


 不意に、小夜子が俺に話しかけてきた。

 言って良いものか分からないが、助けてくれようとしている人に隠し事をするのは良くないな。


「エルマっていう令嬢に呼ばれたんだ」

「そっか。〝ヒナちゃん〟じゃないんだね」

「この前も聞いたな。その名前……」


 かなりの大物と言われていたような。

 確か、いぶきと一緒にいた、アイカという女性が言っていた。


「そうだ、肩にハイビスカスの刺青のあるアイカ、木乃葉(このは)愛夏(あいか)という被召喚者が、八十島小夜子さんを探していた」

「その人は知らないわね。今、はじめて聞いた名前と特徴だし……刺青なんて怖い人なのかしら」


 小夜子が困ったような顔をしてしまったので、俺は話題を変えることにした。


「知里さんとは付き合い長いの?」


 その問いに、小夜子の顔はパッと明るくなった。


「もうかれこれ6年になるわ。最近はあまり会ってなかったけど、あの娘は良い子よ!」

「俺たちも助けられました」

「一見、繊細で気難しく見えるかもしれないけど、実はすごーく親切。美人でオシャレで、まっすぐで心のキレイな子でしょう。知里のそういうところ、わたしは大好き」


 うれしそうに知里のことを語る小夜子からは、朗らかな性格がストレートに伝わってくる。

 露出狂のような恰好をしているが、とても気のいい人なのだろう。


「知里さんも、〝お小夜なら必ず協力してくれる〟って言ってました」

「しばらく会ってないのに、そんな風に思ってくれたなんて嬉しいなあ」


 小夜子はハキハキと喋って、屈託なく笑う。

 被召喚者とのことだが、前の世界ではきっと友人も多かったことだろう。

 何というかオープンで親しみやすいのに、優等生的で頼れそうな雰囲気もある。


「でも、小夜子さん。こんなことを言うのも何だけど、貴女ってすごく善良で真面目そうなのに、どうしてそういう格好をしてるんだ。いや、この言い方が気に障ったらゴメン……だけど」


 おそるおそる、俺は尋ねてみた。

 小夜子は一瞬、頬を赤らめたが、半ばあきらめたようにため息をついた。


「まあ、ごもっともな質問よね。わたしだって好きでこんな恥ずかしい格好してるわけじゃないの」

「どんな理由があるのか、すごく気になる」

「まあねー。昔ある人につけられた『乙女の恥じらい』っていうスキルがあって、肌を露出させている部分が大きいほど、凄いバリアが張れるのね。ちゃんと服を着ているよりも、ビキニの方が防御力が高くなるのよ。変なスキルでしょう?」

「なるほど、それであのダメっぽい人がひっくり返ったのか」

「お父さんのこと、悪く言わないでください」


 上でホバーボードに乗っているネフェルフローレン=ネンちゃんが俺の手を踏んだ。

 俺がうっかり、「ダメっぽい」なんて口走ったのを聞き逃さなかったのか。


「女がスラム街で炊き出しなんてやっていると、色々あるし、寝込みを襲われることもある。だから恥ずかしいけど、このバリアは役に立ってるわ」


 いや……ちょっと待てよ。

 そもそもまともに服を着ていれば、いくらスラムといっても襲われることもないのではないか。

 ふと、そんな考えが頭をよぎった。

 さすがに会ったばかりでそんなツッコミを入れるのは失礼だよな。


「でもまあ、力を貸してくれて本当に助かったよ」

「重傷者がいるんじゃ、気が抜けないわ。ネンちゃんも素質はあるけど、これからの子だし」

「ネン、がんばりますー」

「魔力不足は魔晶石でフォローするから」 


 小夜子は腰のポーチに目をやる。

 魔晶石、俺を召喚する際にエルマが使った魔力補助剤のようなモノか。


「あの馬車がそうね?」


 小夜子が指差した先に、エルマがダミーで隠したはずの馬車が見えた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] さあ、間に合うでしょうか? それにしても少しづつですが協力してくれる人が増えてきましたね。 今後どういう展開になるか楽しみです。
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