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恥知らずと鬼畜令嬢~ラスボスが倒された後の世界で~  作者: サトミ☆ン
5章・我が世の春と、世界に立ち込める暗雲
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432話・そうだ勇者自治区へ行こう


「どうも~。ドン・パッティ商会で~す!」


 高速ノックからワンテンポ遅れてミウラサキは現れた。 

 

 いつものファイヤーパターンのレーシングスーツを着込み、朗らかな笑顔。


挿絵(By みてみん)


 庭にはワーゲンバスを模した自動車が横づけされている。


「おお、新車!」


 こちらもファイヤーバターンだが真新しい車だ。


「ヒナっちのワーゲンバスの先行量産型が、わが商会にも納車されたんですよ!」


 子供のような笑顔で語るミウラサキ。


 現在20代前半の青年の彼は、前世では8歳で命を落としており、実年齢と前世での記憶がハッキリしないと言っていた。


 よくない言い方だけど「見た目は大人、心は子供」の状態だという。


 しかし実力は折り紙付きで、スキル『のろまでせっかち』は時間操作のチート能力。


 魔王討伐軍では主力メンバーを務めたという。


「さあさ、皆さん! 乗ってください! エルマちゃんも助手席に! チャイルドシート使う?」


「ミウラサキ一代侯爵、人妻のあたくしを子供扱いしないでくださいませんか♪ 永代伯爵夫人として、夫の隣に座りますわ♪」


 そう言うとエルマはバスの最後尾の真ん中の席に座りこんだ。


「ミウラサキ君、急に頼んで車まで出してもらって悪いねえ」


「頼りにしてくれて嬉しいです、直行君!」


 今回の自治区入りは陸路で行くことにしていた。


「あたくしは潜水艦に乗りたかったんですけどね♪」


 潜水艦を使わないのは、道中の諸侯に手紙を届けながら行くためだ。

 

 ロンレア領には農業ギルド兼任の自警団しかいない。外交ができる人材もキャメルとギッド以下ディンドラッド商会出身者くらいだ。

 

 新しく傘下についた古物商『銀時計』は油断のならない男なので、まだ重要な任務を与えるわけにはいかない。当面は炊き出し事業の食材の買い付けや仕分け等に従事してもらっている。


 裏社会を知る男でもあるから、もと奴隷たちの親元探しなどにも協力してもらう。そのような話を持ち掛けたとき、


「これからは一蓮托生。私がディンドラッドにとって代わるためにも、せいぜい点数を稼いでおきましょう」


 『銀時計』の店主は野心を剥き出しにしてニヒルに笑っていた。


「さて、忘れ物はないかな」


 バスに荷物を積み込みながら、俺は皆を見た。


 今回同行するのはエルマ、レモリー、魚面、小夜子……。


 運転手としてミウラサキ。


 勇者自治区へは、もちろんトシヒコやヒナたちと会談することが目的だが、どちらかといえば買い物がメインだ。


 諸侯へのあいさつがどんな風になるのか分からないので、今回はヒナたちとアポは取らなかった。


 会えなかったら、買い物だけでもいいくらいの気安さで行く。


 クロノ王国がうかつに攻めてこられないように、周辺諸国との付き合いは大切だ。


 すでに法王庁の後ろ盾は得たし、状況は変わった。


 おそらくクロノ王国は俺たちの動きを監視しているはずだ。


 諸侯にあいさつに立ち寄り、勇者自治区へ行ったという事実が残ればそれでいい。


 勇者自治区とのつながりをアピールしておくのは有効だ。


「直行さんとレモリーはあたくしの両隣に♪ お魚先生も一緒でいいですわよ♪ 優等生の小夜子さんは運転手さんのすぐ後ろで」


 バスに乗り込んだエルマは、矢継ぎ早に席順の指示を出す。


「後部座席の中央はスクールカースト頂点が座る陽キャの玉座ですわ♪」


 奴は得意げにその席に着く。


 バスの最後尾の中央──。


 その位置は修学旅行などでクラスの中心人物が座る席といわれている。


「知里さんも後ろの席に座りますか? それともお魚先生かレモリーと代わりますか♪」


 もっとも名簿順に座る学校や、スクールカーストのない穏健な学校もあるので一概には言えないが、前世のエルマにとっては座りたくても座れない席だったのだろう。もちろん俺にも縁がなかった席だ。


「あたしは真ん中へんの席でいいよ……」


 知里はボソッと言って、最後尾と距離をとった目立たない席に座った。


「さすが知里さん♪ 陰キャの席が似合いますわ♪」


「……まあね」


 あれ……?


「知里さんも同行するのか?」


 まるで当たり前のように知里がバスに乗り込んでいるけど……。


「そっか、言ってなかったっけ。ダメかな?」


「いや、いてくれたら心強いけど」


 普段から人と距離を置きたがる知里は、華やかな勇者自治区を避けていたはずだ。


「意外よねー。自治区をあんなに嫌ってた知里が一緒に来るなんて! とっても美味しいレストランがあるのよ! あとハンバーガー! カラオケも行こうよ!」


「行けたらね」


 小夜子は無邪気に誘っているが、知里は愁いを帯びた表情だ。


「それより、トシヒコに会って聞きたいことがあるんだ……」


 彼女はバスの窓枠に頬杖をついてぼんやりと外を見ている。


「ちーちゃん、今回はアポなしだから、トシちゃんに会えるかどうか分からないわよ」


 トシヒコやヒナたちによって〝これ見よがし〟に現代文明が再現されていくのを、今まで面白くない様子で見ていた知里。


 そんな彼女が同行するというのだ。


「どっちかっていうと遊びに行くだけって感じになると思うけど、大丈夫?」


 これはただ事ではないだろう。




 次回予告

 ※本編とは全く関係ありません。


「直行さん、昨日はエイプリルフールでしたわね♪」


「ウソばかりついているエルマには、毎日がエイプリルフールみたいなものだろう」


「そんなことありませんわ♪ あたくしは誠実に生きることをモットーとしておりますわ♪」


「いいえ、お嬢さま。異界風のマスターが滞納したツケを払って欲しいって」


「エルマお前、まだツケを払ってなかったのかよ?」


「レモリーが払いましたわ♪ ねえ?」


「いいえ。お嬢様の金銭感覚は常軌を逸していますから、お屋敷の予算からは飲食代は計上できません。教育上よろしくありませんから」


「さすがレモリーだ。しっかりしてる。ほれエルマよ。観念して払うんだ」


「い、嫌ですわー」


「次回の更新は4月5日を予定しています。『エルマ、年貢の納め時』お楽しみに」

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