427話・ネオ霍去病と七福人
「さて。ガルガ陛下には、今後のわが国の方針を語っていただきましょう」
ガルガ国王を囲んだ円卓は、1人の細身の青年によって取り仕切られた。
彼の名はネオ霍去病。
勇者トシヒコや知里や法王と同じく『六神通』の使い手だった。その能力は『宿命通』。〝自他の過去の出来事、前世をすべて知る力〟を持つ。
「なに仕切ってんだよ霍去病。何様のつもりだよ」
これに対して毒づいたのが、6人の中でもっとも大柄な男。オーガのような体躯を誇るパタゴン・ノヴァ。
「……我は〝七福人〟クロノ王国情報相だが?」
「んなことぁ知ってるよ。貴族でもねえどこの馬の骨とも知れん奴が。身の程を知れ、身の程を!」
「……黙れ死人風情が! この場で呪い殺すか」
ネオ霍去病が睨みつけると、大男は舌打ちをして黙った。
パタゴン・ノヴァ……。本名はゴードという。名門貴族の出身でガルガ国王の幼少期からの遊び仲間でもあった。
しかしある時、訓練中の怪我で致命傷を負ったが、魂を別の肉体に移す禁呪で蘇った。
彼には魔法の素質もなく、同僚のグンダリほど闘気をまとえなかったため、オーガのような肉体に自身を改造した。
一方ネオ霍去病自身は魔法の素質はさほどでもなかったが、手を触れた者の過去を見通せる能力と呪殺系魔法の相性が抜群に良かった。
呪殺系魔法は相手の個人情報があればあるほど効果が高い。そのため魔法の才能には劣る彼も、呪いに関しては特級の能力者となる。
「陛下の御前で呪うとか抜かすなクソ霍去病!」
「グンダリ・アバター。貴様とて容赦せんぞ」
武人肌の隻眼の騎士グンダリと、巨人パタゴン・ノヴァ。この2人とガルガ国王とは気心が知れている。
「やめぬか!」
「陛下の御前であるぞ。いがみ合うのも大概にせい!」
「…………」
ガルガ国王は側近たちを止めることはできなかった。
親政とは言うものの、国王は若く、その権力基盤は脆い。〝七福人〟の力によって、国内の保守派を抑え込んでいる格好だった。
そんな〝七福人〟も一枚岩ではない。
自らを異世界の大将軍になぞらえて〝ネオ霍去病〟と名乗る青年……。
彼は後ろ暗い出自を抱えていたが、天から授かったスキルを利用して成り上がりを遂げた。そして自らと同じような〝公にできない経歴〟の者たちで〝七福人〟を組織し、王に取り入った。
改革に燃える若きガルガ国王を支える、匿名の側近集団。
彼らの支えの元に、クロノ王国は生まれ変わった。
「仲悪いよねー。男子グループ」
ネオ・ゴダイヴァこと女錬金術師サナ・リーペンスは口元をゆがめる。
「でも『宿命通』のネオ霍去病殿には、誰も逆らえませんから」
片眼鏡の青年は肩をすくめた。彼はディンドラッド商会の三男フィンフ。
商会を運営する兄たちとは異なり、クロノ王国の政商として〝七福人〟入りを希望している。
直行から得た3200万ゼニルとロンレア領の運営権をネオ霍去病に差し出すことで国王に取り入ったのだ。
そして暗殺者集団〝鵺〟を雇い、ロンレア領の直行とエルマを亡きものにしようと画策した。
ロンレア侵攻のキッカケを作った張本人でもある。
「まだ〝七福人〟でもねえ商家の三男坊が偉そうな口を叩くな!」
「キャハハハ。ねえフィンフみたいな顔って異界風には〝父ちゃん坊や〟って言うんだよ」
「じゃあ〝ネオ父ちゃん坊や〟でいいじゃねえか」
誇り高き巨人パタゴンと、残忍な女錬金術師は鼻で笑った。
「却下だ。神の名でも英雄の名でもない者を〝七福人〟に連ねるわけにはいかない」
フィンフをからかう者たちに対して、ネオ霍去病は大真面目に反論した。
──一瞬、場の空気が凍った。
「自らが管理するロンレア領を、わが国に売り払った卑しき輩フィンフよ」
「返す言葉もございませぬ……」
フィンフは卑屈に笑うしかなかった。事実、今回の軍事行動では不覚を取ったスーパーマハーカーラが処分されたが、それは他人事ではなかった。
フィンフは次に責任を問われるのは自分だという恐れがあった。実際、彼は新参者でクロノ王国の旧臣に連なる貴族階級でもなかったからだ。
「さて、商家の坊ちゃんなんてどうだっていいが、何にしてもロンレア領は捨て置けねえ。次は俺が出るぜ。騎士は戦の花形よ!」
隻眼の騎士グンダリは、フィンフを完全無視して意気揚々とまくし立てた。
「ならば我も行こう。あの〝クソ猫〟には頬と左足の借りを返してもらわねばならぬ」
死霊使いソロモンが口元をゆがめた。
彼は知里だけは自分の手で仕留めると決意している。
◇ ◆ ◇
勇者自治区は転移者や転生者による、外からやってきた変革者たちだ。
これに対して〝七福人〟は、内側からの変革者たちといえる。
秘密裏に勇者自治区の技術を取り入れ、先取りし、超える。彼らの行く先がどこにあるのか、勇者も法王も直行もまだ知らない。
しかし〝七福人〟と共に歴史は動き出し、新たな局面を迎える。
「いずれにせよ、ロンレア領は我が手にしなければならない」
若き国王ガルガの野心は、静かに燃えている。
次回予告
※本編とは全く関係ありません。
「直行さん♪ あたくし犬が飼いたいですわ♪」
「犬ならコボルトが3匹もいるだろう」
「コボルトの見栄えはイマイチ♪ 一匹腹の出ているのもいますし♪ ロンレア再興を成し遂げたいま、優雅なワンちゃんを飼いたいと思いました♪」
「優雅な犬といえば、秋田犬とかか? 〝ゆ○〟〝マ○ル〟って名づけてさ」
「あたくしが乗れるほどの大型犬ではなくて、針金みたいに細くて可愛らしい犬がいるでしょう♪ 犬種は知りませんけど♪」
「イタリアングレーハウンドかな」
「たぶんそれですわ♪ さっそく召喚しましょう♪」
「生き物を軽々しく召喚するなよ」
「次回の更新は3月23日を予定しています。『新・種・誕・生!』お楽しみに♪」




