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424話・直行の疑問


 秘密研究所がある港の地下にある勇者トシヒコのアジトに案内された。


 天井に金属製のファンが回っている。ハードボイルドな探偵事務所のような部屋だ。セピア色のアンティーク家具が暖色の照明に映えている。


「うわー、カッコいいところねトシちゃん」


「小夜ちゃんに褒めてもらえると嬉しいね~。ソファ倒してつなげると、ほーらダブルベッドになっちゃったりして~」


「トシちゃんはエッチなことしか頭にないのねえ!」


 シックな事務机と応接セット。ソファを倒すとベッドになるらしい。トシヒコは嬉しそうに小夜子の肩に触れた。


「トシ! 気安くママに触らないで! 鼻の下伸ばしてないで、直行君を席に案内してあげて」


 ヒナは怒った様子で小夜子からトシヒコを引き離す。超スピードで一瞬、何が起こったか分からなかった。

 

「ここはヒナたちの秘密基地。直行くんとママだけで来たのは賢明だったよ。エルマさんにも、ここは見せられない」


「なぁ色男~。13歳の幼な妻に金髪美女が情婦だってな。女の守備範囲が広いのはさすがだぜ~。まったく隅に置けねえよな色男はよ~」


 ヒナがトシヒコと並んでソファに腰かけたので、俺は向かいの席に座った。そしてスキル結晶の入ったケースを応接テーブルの上に置く。


 勇者トシヒコはどうでもいい雑談を続けている。


「コーヒー淹れようか? どこにあるのトシちゃん」


 一方小夜子は席にはつかず、キョロキョロと何かを探しているようだ。


「そんなのいいからママも座って」


「お茶もなしに商談ってのもどうかと思うのよ。ねえ」


 小夜子がコーヒーを入れようとするのを制したヒナだが、言い返されてしまった。


「ママも座って」


 ヒナが席を立ち、両者がにらみ合う。


「ウチのパーティ名物〝デカパイのにらみ合い〟だぜ~。オッパイがいっぱい。い~い眺めだろ~」


挿絵(By みてみん)


 トシヒコは2人の胸に目をやり、俺に視線を戻してニヤリと笑う。確かに小夜子はさて置き、ヒナもかなりの巨乳だった。


 俺も初対面のころは芸能人オーラに気圧されて、まともに彼女と目を合わせることもできなかったが……。ヒナもすばらしい肉体美だ。


「トシ、バカなこと言ってないで、あなたがコーヒーを淹れなさいよ」


「トシちゃん、わたしがやるからいいよ」


「ママは余計なことしないで!」


 小夜子とヒナは押し問答を続けている。その度に大きな胸が揺れ、谷間が見えたり見えなかったり。ごくり、と俺は生唾を飲み込んだ。


 …………。


 他愛のない会話が続いているが、俺はふと我に返った。


 商談をしたい俺をけむに巻くように、わざと意味のないことをしゃべっているように思えたのだ。

 

「トシヒコさん。あなたやヒナちゃんさんの国づくりに、俺たちロンレア領はできる限り協力はするつもりです」


「……何だよ改まって」


「すいません。ウチはつい先日クロノ王国に侵略されたばかりなので……」


 俺は以前から、ひとつ疑問を抱えていた。それは、スキル結晶の取り引きの意味についてだ。


「トシヒコさん。ひとつ……気になっていた点があるんですよ」


 執政官ヒナ・メルトエヴァレンスが話していた狙いはこうだ。


 勇者自治区は、彼らのような超人的な英雄に頼らない、ごく普通の一般人による軍隊の編成を目指している。


 この地にいる主流派は、現代日本からの転生者や被召喚者だ。


 戦争という行為に対して、とても抵抗のある人たちだ。


 スキル結晶『理性+3』によって、兵士たちの暴走やストレス、戦闘後の心的外傷を緩和するのが、彼女の目的だと言っていた。 


 しかし……。


「トシヒコさん。クロノ王国は強すぎますよ。量産型魔王に人体改造……。いずれも対〝英雄〟を想定した軍事行動が見て取れました。一般人による軍隊で、果たして対抗できるものなんでしょうか?」


 ロンレア領が守れたのは、〝超人〟的な能力を持つ知里と小夜子の力によるところが大きい。

 

「……クロノが物騒な人体実験をしていることは知っていた」


 それまでニヤニヤしていたトシヒコの表情が一変した。


 やはりというか、知らないわけはないだろう。湖や国境付近にドローンを飛ばしまくっている勇者自治区だ。


「ウチとしては『理性+3』が納品できてよかったとは思ってます。ただ、クロノ王国の戦力に一般兵を充てるのはかなり無謀な気がしますよ」


 俺は、率直に疑問をぶつけてみた。


「量産型魔王って、クロノは試作型って言っていましたけど、何体も造られていましたよ。いくらトシヒコさんが他人にスキルを付けられるからって、一般人があれを相手にできるとは思えない」


 トシヒコは黙ったまま、ヒナを横目で見た。


 俺は、話を続ける。


「……あの、トシヒコさん。ひょっとしたら、『理性+3』を別の目的に使うつもりじゃないですか? たとえば、反乱分子を未然に大人しくさせる……とか」


 量産型魔王の光のブレス。


 知里がいなければロンレア領は焼け野原だった。


 あんなものを量産されたら、一般人はもちろん〝英雄〟レベルやS級冒険者でも対処しきれない。


「色男は鋭いねえ。そうさ『理性+3』は別に使い道がある。もちろんヒナちゃんが当初言った〝英雄を必要としない国家運営〟も嘘じゃない」


「……直行君。ヒナは決してだますつもりはなかったのだけど」

 

 勇者自治区がスキル結晶『理性+3』を量産させる理由。


 それは、思いもしない災厄への対抗手段だった。




次回予告

※本編には全く関係ありません。


「知里さん……気付かれましたか? 今回は本文の改行がいつもと違いますわね♪」

「スマホで読みやすいように改行のやり方を変えてみたみたい」

「パソコンからだと違和感がありませんか♪」

「気になる方は感想やメッセージにて連絡をいただけると作者も助かるかもね」

「さて、次回予告に戻りましょう…………」

「どうしたのお嬢?」

「次回の更新は3月14日を予定しています♪ 『急募! 次回予告』」

「は? 〝次回予告〟なんか募集してどうすんのよ」

「実はネタ切れなのですわ~♪」

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