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422話・真・エルマの演説

挿絵(By みてみん)


 5メートルほどはある幻獣〝鵺〟の背に立ち演説を始めるエルマ。

 眼下のクロノ王国正規軍は圧倒されて動けない。


「皆、聞きなさーい♪」


 エルマは得意げだった。


 見たこともない異界の幻獣に加え、先ほど、無茶な空間転移魔法で、女奴隷1000人を退避させた。

 実際には知里の全魔力を利用して放った〝借り物〟の大技だが、彼らの目にはエルマの実力だと写る。


「あたくしはロンレア伯爵家のエルマ・ベルトルティカ・ロンレア・バートリ♪」


 静まり返るクロノ兵たち。 

 その隙をついてレモリーは囲みを突破し、俺たちと合流する。


「……先の戦は、〝わが夫〟直行の慈悲により、七福人マハーカーラ殿は生け捕られました♪ ザマァないですわ♪」


 その言い方はどうかと思うが、まあ奴の平常運転だ。


「そしてこのたびの捕虜交換で、大将マハーカーラと当家の外交官キャメルの交換と停戦協定がなされようとしております」


 エルマは敵方の、ちょっと身なりの良さそうな将兵を睨みつけながらまくし立てた。

 レモリーはすかさず風の魔法で、奴の演説を遠くの兵にも聞こえるように声を運ばせる。


「わがロンレアの外交官に害をなそうというならば、マハーカーラ殿はご無事では済みませんよ? ここにいる虎仮面の男は、伝説の暗殺者集団〝鵺〟の一員ですわ♪」


 エルマが不敵に笑うと、虎仮面は「やれやれ」といった様子で肩をすくめる。

 彼の視界の先はエルマではなく、元同僚の魚面だ。

 頭目の〝猿〟を人質に取られていることを、虎仮面がどう思っているのかは分からない。


 先ほどは裏切るような素振りをみせた。

 しかし今のところは決定的な敵対行動は見られずに、マハーカーラを押さえているが……。

 少しも油断できない相手だ。


「我を連れて逃がせば諸侯に取り立てるぞ」

「……いい話、なんだけどなチクショー」


 虎仮面とマハーカーラの耳打ちは、レモリーの精霊術によって俺の耳に届けられている。


「虎さんよ。残念だけどそいつが約束を守るとは思えないぞ。人質の猿のことは置いておいても、ここは俺たちに協力するしかない」

「……チクショー分かってるよ。〝猿〟には恩義がある。オレぁ〝魚〟とは違う」

 

 虎仮面の男は頭上の魚面を睨みつけた。


「ここはおとなしく人質交換といきましょう♪ おかしなことをするならば……」


 エルマは邪悪な笑みを浮かべながら左手を上げる。

 それに合わせて、鵺の口から稲妻が吐き出される。


「!!」


 乾いた雷鳴とともに稲光が一閃。

 街道近くの樹木を直撃し、樹皮を剥ぎ落す。

 次いで火柱が上がり、さらに激しく燃え上がる。


「鵺は稲妻を操ります♪ あたくしは先祖伝来の土地を守るためならば、殺生も厭いません♪」 

 

 〝鵺〟による稲妻が、周辺の木々に落とされていく。

 狙いは正確で、エルマが指差した木が、一瞬で生皮が剥がされて発火する。

 黒焦げにはならないが、人間だったら即死だ。


「そのキンモい将軍を連れて、とっとと帰りあそばせ♪ そして2度と国境を超えぬよう♪」


 俺たちはエルマの威嚇と演説に動揺する敵軍を尻目に撤退を続けている。

 まさか〝総大将〟がしんがりを務めているとは、敵も思いはしないだろう。


「もし♪ 今後この国境線を脅かすようならば、あなたたちに明日はありません♪」


 エルマの演説は13歳の少女とは思えないほど、滔々と語られている。

 奴がよく口が回るのは知っていたが、これまでは凄むタイミングが悪かったりしていた。

 水戸の黄門様ではないが、いきなり印籠を見せつけても効果は薄い。

 

 適度に「懲らしめて」から、名乗る方が説得力が出る。

 エルマの奴も、少しずつ成長してるのだな。


「次回の侵攻に対しては、み・な・ご・ろ・し♪ に致しますからお忘れなきよう♪」 


 とはいえ相変わらず物騒なことを言うのでヒヤリとするが……。

 俺がよく見張って、奴が暴挙に至らないように止めておかないとな……。


 そうこうするうちに、俺たちは安全圏まで離脱できた。

 役目を終えた虎仮面も、召喚獣のミノタウロスを引き連れて走って戻って来た。


「意外だな虎仮面。てっきり戻らないものだと思っていたが……」

「うるせえ。俺は〝鵺〟の頭目を見捨てるほど薄情じゃねえ! 魚の奴とは違う」


 悪態をつく虎仮面だが、卑劣漢の極悪人というわけではなさそうだ。

 もっとも暗殺者集団〝鵺〟の中核にいて、頭目の〝猿〟に現在も義理立てしている以上、気を許すわけにもいかないが……。


 〝猿〟と共に、今後どう処すべきか検討しないといけないだろう。 


 そんなことを思っていたら、エルマの奴が戻って来た。

 〝鵺〟の背中には、知里と一緒に乗っている。


「直行さん♪ あとは家宝の虎の敷物を取り返すだけですわ♪」


 ……俺としては果てしなくどうでもいいアイテムだが。

 まあ、一応今度手紙には書いて送ろう。


「若旦那☆ ありがとネ」


 キャメルは俺に抱きついて頬にキスをする。

 レモリーの顔が引きつっているが、今回はいいだろう。

 

 取られたものは取り返し、守るべきものは守った。


 こうして俺たちはロンレア領に凱旋する。  

 待っていたのは、領民たちの歓喜の声。


 この戦は、完全勝利だ。

 次回予告

 ※本編とは全く関係ありません。


「法王庁のジュントスです。ウシシシ。リーザ殿は発育がよくて大変結構ですな」

「聖騎士のリーザです。ジュントス様。その下卑た笑い、どうにかなりませんか?」

「これは失礼」

「……」

「……しかし常に鉄鎧では俊敏な動きはできないでしょう。異界の女戦士がまとうというビキニアーマーなどはいかがですかな。ほれ、これがサンプルです」

「腹が剥き出しではないか……こんな装備で戦場に出るなんて異界人はどうかしている」

「左様ですな。魔王討伐軍の女戦士がこの装束で魔王を討ち果たしたなど、正気の沙汰ではありませんぞ……」

「八十島何とかという狂戦士ですね。剣は交えたことはないが、会ったことはある」

「それは羨ましい」

「破廉恥な格好で見下げ果てた奴だが、あの闘気は尋常ではなかった。格好こそ狂人だが、武人としては特級でしょうね……」

「おお、それはよかった。リーザ殿と組み手などしてほしいものですな」

「敵は強い。死ぬ気で闘います!」 

「次回の更新は3月9日を予定しておりますぞ。『キャットファイト! 小夜子VSリーザ』お楽しみに」

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