418話・豚の贈り物
「あとは返信待ちだが……」
「また戦争になったら、知里さんに頑張ってもらいましょう♪」
「エルマよ、縁起でもないこと言うな」
クロノ王国に人質交換の提案を送り、同時にバルド・コッパイ公爵家にも友好の書状を送った。
公爵家の末娘と俺の縁談については、やんわりと断った。
法王庁のジュントスに託した手紙は、飛竜騎士によって空から届けられる手はずだ。
ジュントスから聞いたところでは、かつて俺たちを検問した飛竜騎士団は解散させられ、主に航空通信兵として再編成されているという。
まあ十人前後で固まって見回りをする狂信者集団よりは、空飛ぶ郵便屋さんの方が効率的だ。
「いいえ。プライドの高い聖龍騎士団の飛竜隊を通信兵に使うとは……紅の姫騎士はさぞご不満でしょう」
レモリーの言う通り、紅の姫騎士リーザは不服だそうだが、なかなかいい発想だと思う。
まさか手紙を勝手に見るような真似はしないと思うけど、法王庁が郵便事業を運営することで、誰と誰がコンタクトを取ったなどの貴族間の人間関係を把握できる点は大きい。
なるほど現法王は切れ者だ。
情報を最優先に考えている。
それだけに、敵に回すのは避けたい相手だ。
◇ ◆ ◇
「申し上げます。元飛竜部隊の騎士様がお見えになりました」
それから3日ほどして、まずは公爵家より書状と贈り物が届いた。
飛竜の背に積まれた荷物をほどくと、装飾品と共に何と生きた子豚が入っていた。
「えっ、豚……ですか」
「はい。糞をするので箱が汚れてしまいましたが」
飛竜騎士が荷物をほどき、恭しく差し出す。
見るからに毛並みのいい、動物番組でも使えそうな可愛らしい子豚だ。
「贈り物に生きた豚って、どういうことだ?」
俺は首を傾げながら近くにいたギッドに声をかけた。
彼によれば、嫁を断ったにもかかわらず、生きた豚を送ってくるのは、最大級の友好の証らしい。
「え……? こっちはそういう風習なんだ?」
「風習というよりはバルド・コッパイ公爵家の紋章は豚と四葉ですから。貴族が紋章の品物を贈るのは最大限の親愛の印なのです」
「美味しそうな子豚さんですわね♪ 丸々と太らせて皆でいただきましょう♪」
エルマは可愛い子豚を見て、嫌な笑顔を見せている。
子豚は、つぶらな瞳でこちらを見ている。
「うっそー! 可愛い豚さんじゃない! ねー知里?」
「まあね」
小夜子も嬉しそうに胸を弾ませている。
知里はクールを装っているが、頭をポムポムとなでて和んでいる。
「トンカツが大好きな小夜子さんですから、すぐにでも食べたいでしょうけど、まだ我慢ですわよ♪」
「エルマちゃん何言ってるのよ! この子豚さんを食べるなんてとんでもないわ!」
「小夜子さん、普段モリモリ食べてるじゃないですか♪ そういうの偽善って言うんですのよ♪」
エルマは邪悪な笑みを浮かべて言い放つ。
小夜子は言い返せずに涙目になっている。
子豚を守るように抱っこして、大きな胸に押し当てている。
「いや、お嬢。さすがに食べるのは気が引けるよね……」
知里も子豚の鼻を指でつついたり、頭を撫でたりしている。
意外と動物好きなんだな……。
それはそうと、意見が割れてしまった。
どうにか俺が、最善の手段を導き出さなければならない。
「いいか皆、いくら可愛くても公爵家の贈り物だ。ただペットにすればいいというものでもないだろ」
「丸々と太らせてから食べましょうよ直行さん♪」
「待てエルマ。どんな選択肢が公爵家の意に沿うのか、そこから逆算すべきじゃないのか?」
考えられる選択肢は4つしかなかろう。
まず豚を食べるとして……。
子豚の状態で食べる。
子豚を大きくしてから食べる。
食べないで飼うとしたら……。
ペットとして可愛がる。
とりあえず育てて、家畜として数を増やす。
「現地人で常識人のギッドの意見を聞こう」
「基本的に、『家畜』というのが豚の役割ですね」
可愛い子豚と目が合ってもギッドは冷静な男だった。
小夜子と知里は猛反対。
結局、女子2人に押し切られ、豚は飼うことになった。
次回予告
※本編には全く関係ありません。
「直行さん、昨日は2022年2月22日だったそうですわね♪」
「俺たちが元いた世界の話だな」
「にゃん♪ にゃん♪ にゃん♪ にゃん♪ 2が並んだ特別な猫の日だったそうですわ♪」
「そうだな」
「直行さんは反応が今ひとつですわね♪ 猫よりも人間の女の子に興味がありますからね♪ 畜生なんて興味のかけらもないんでしょうね♪」
「畜生いうなよ」
「次回の更新は2月26日を予定しています♪ 午後7時の予約投稿になります♪」




