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407話・飛んで法王庁

 幻獣〝鵺〟に騎乗した俺と知里は、空路で法王庁を目指した。

 2人を背に乗せ、空を駆ける幻獣。

 象よりも大きく、4人乗りのヘリコプターくらいの大きさと速度でコバルトブルーの蒼穹を行く。


 知里はホバーボードも駆使し、姿勢制御を行いながら鵺を駆る。

 俺は鵺の首と腹のところに結んだ手綱のようなものに捕まり、ただ乗るだけだ。


 強い風が頬に当たり、眼下には原野を切り裂く街道が見える。

 視界のはるか先には耕作地と里山が見え、その先が法王庁だった。


挿絵(By みてみん)


「直行。警備に見つかる前に人目につかないところで降りよう」

「またあの長い階段を上るのは酷だけどな」


 法王庁は、古代魔法王国時代の空中都市を基盤に築かれている。

 地上とは長い階段のみで結ばれている、まさに聖都にふさわしい威容だ。


 とはいえ千段以上の階段を上るのは過酷だけど……。


 ◇ ◆ ◇


 法王庁の聖都への入り口には巡礼者用の受付のような詰め所がある。

 以前来た時は、法王の定例演説と重なったために多くの人でごった返していたものだが、今回は静かなものだ。


「巡礼者の方ですか?」


 年端も行かない少年の聖騎士見習い2人組が、俺たちに声をかけてくる。 

 声変わりもしていないような澄んだ声だが、いっぱしに武装して頭頂部を河童のように剃り上げている。


 俺は特に何も言わずに、ジュントスから預かった割符=封蝋の施された手紙を差し出した。

 バルド・コッパイ公爵家の家紋入りの立派なスタンプが押されている。


 しかし、少年聖職者たちは互いに顔を見合わせて首を傾げている。

 ここは、勝負どころだ。


「ジュントスかドンゴボルトに会いたい。俺は九重 直行と申す。ロンレア領主代行をさせてもらってる。彼女は用心棒でS級冒険者の知里さんだ」


 俺は芝居がかった大げさな身振りで自己紹介し、ネコチではなく、彼女の名前を告げた。


「ちょっ!」


 知里は困ったような顔をしている。

 確かに何の断りもなく、彼女の本名を名乗ったのは悪かったかもしれない。


「異界人どもが聖騎士ドンゴ様に会いたいだと? バカも休み休み言え」

「法王庁への異界人の立ち入りは禁止されている。異界へ帰れ!」


 案の定、聖騎士たちは門前払いする気満々だ。

 しかし俺は一歩も引く気はない。

 いきなり自分たちが〝異界人〟ですと告げたのには理由があるのだ。


「この割符は正式にジュントス氏からいただいたものだ。バルド・コッパイ公爵家の印もある」

「…………」

「そして俺は先代ロンレア伯爵より正式に家督を継いだエルマ・ベルトルティカ・バートリの婿で、決闘裁判の勝利者でもある。なあ知里さん?」

「まあね。法王庁にとっては苦い結果だろうけど……決闘裁判の記録はあるんでしょ?」


 知里も話を合わせてくれた。

 まだ幼い聖騎士見習いたちは、キョトンとしてまた顔を見合わせている。


「……え? そうなの」

「確認もせずに追い返すなんて、アンタたちキチンと仕事しないと偉くなれないよ! さっさと上に報告しなさい」


 そこに、知里がダメ押しをした。

 強気な態度に気圧されるように、少年たちの内の1人が詰め所を離れていく。


「……少し、待ってろよ」 


 残ったもう1人が悪ガキのような口調で俺たちに告げると、次の巡礼者たちの受付を始めた。

 俺たちは詰め所のわきで待たされることになった。


「直行。随分と強気でいったものね」

「ああ。異界人だからといった理由で門前払いされるようなら、ジュントスの権威も法王庁の庇護もアテにならないからな」

 

 バルド・コッパイ公爵家の権威が通じないようならば、調停役を頼むのには土台無理がある。

 

「なるほど、そういう思惑があってのことか」

「しかし知里さんも以前より法王庁に対して気安い感じがしたけど?」

「……まあ、いろいろあってね」


 身分を偽ったことがバレて決闘裁判に出られなかった者とは思えない。

 俺の知らないところで、何かあったのだろうか──。


 ◇ ◆ ◇


 待たされること1時間弱。

 空から現れた6体の飛竜の編隊が目の前に降り立ち、槍を高らかに捧げる。


 その中央には、忘れもしない紅髪の女騎士リーザ・グリシュバルトの姿があった。


 以前よりも軽装で、なぜか太ももと二の腕の露わになった鎧が印象的だ。


「久しぶりだなリーザ」 

「……貴様か」


 彼女は苦虫をかみつぶしたような表情で、俺たちを見ている。


「これはこれは直行どの。ご無沙汰しておりましたな。ウシシシ」


 その後ろから威風堂々と現れた小太りの男は、ジュントス・ミヒャエラ・バルド・コッパイ。


 ……厳密にはその替え玉なのだが、異例の出世を遂げて、今や法王直属の特使を務めているそうだ。


 その隣には、可愛らしい聖騎士のドンゴボルト。

 初めて会ったときは見習いだったが、現在は押しも押されぬ法王直属の聖騎士という身分だ。


「直行さま、知里さま、その節はお世話になりましたー。声をかけてくだされば、飛竜隊でお迎えに上がりましたものを」

「……ここまで親しいのか!」


 予想外の結果に、聖騎士見習いの2人の少年は驚きを隠せない。

 もっとも、驚いたのは俺と知里も同様だ。


「コラ、若いの! 私たちの友人に無礼はダメだぞ! 直行さま、知里さま、非礼をお詫びくださーい」

 

 ドンゴボルトは茫然としている聖騎士見習いの少年2人を軽く小突いて、深々と俺たちに頭を下げた。


 〝若いの!〟って……。ドンゴ自身も見習いの彼らと大して年も違わないんだけどな……。


 次回予告

※本編とはいっさい関係ありません。


「1月22日はカレーの日だったそうですわ♪ 皆さんの好きなカレーを伺いましょう♪ 直行さん♪」

「俺は辛口のビーフカレーだな。知里さんは?」

「あたしはタイのグリーンカレーが好き。お小夜は?」

「わたしはポークカレーね! エルマちゃんは?」

「さすが小夜子さん♪ 昭和ですわ♪ あたくしは超甘口カレーにハチミツをかけますわ♪」

「エルマちゃん一言多い。ネンちゃんもカレー好きよね?」

「うん! おとうさんもネンもカレー大好きです。ただでもらえるのにとても美味しくてさいこうです」

「次回の更新は1月30日を予定しています。お楽しみに」

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