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402話・不安ばかりの終戦

 この戦は、俺たちの完全勝利に終わりそうだった。

 しかし……。


「知里さん!」

「知里サン!」


 突然の喀血に、俺たちは狼狽えた。

 頬に大きな外傷があり、体力を奪われている印象だったが、思った以上に深刻なダメージを受けているようだ。


 戦況的には知里が単騎にて量産型魔王を打ち倒し、敵将のマハーカーラを生け捕りとしたことで、すでに勝負はついた。


 あとはどう兵を引かせ、領主として戦後処理を上手くやるかにかかっている。

 問題は知里の容態急変だ。


「ネンちゃんのところへ行こう」 

「……そうね。でも、まずはこの戦を収めないと」

「知里さん、ここは俺に任せて休んでてくれ。魚面、彼女を頼む」

「分かっタ!」


 魚面のグリフォンがぐったりした知里を乗せ、空中で待機。


「レモリー、小夜子さんはスフィスを見つけたかな」

「いいえ。まだ連絡はありません。無事……だとは思いますが」

「何にせよ、この戦を収束させないとな」


 俺は残された兵たちの様子を見る。


 暴動こそ収まったものの、戦えなかった多くの将兵たちの戦意はくすぶっているようだ。

 一方で、魂を抜かれたように茫然自失の兵たちもいる。


 戦闘中も感じたのだが、この軍隊はどこか変だ。

 空間転移魔法を用いた行軍は完璧に統制が取れているように見えた。


 魚面の強行偵察にも、対応できていた。

 しかし、俺と小夜子の単騎突撃にはほぼ無防備だった。


 挙句の果ては本陣近くに突然したとき、多くの兵が棒立ちで何もしてこなかった。

 付け焼き刃の軍隊なのか?

 まるで予算と開発期間が足りなかったゲームみたいじゃないか。


「レモリー。風の精霊術で俺の声をなるべく大きくして、広範囲に拡散してくれ」

「はい」


 指揮官のいなくなった軍勢を、果たして統制を取ることができるのか分からないが、やってみよう。


「ロンレア領主エルマ・ベルトルティカ・バートリの名代として、停戦を申し入れたい。すでに七福()のひとりスーパーマハーカーラ殿の身柄を拘束している。量産型魔王も討ち取った。これ以上の戦いは無益である。繰り返す……」


 正直、弓矢や銃みたいなもので狙撃されたらアウトな状態ではあるな……。

 俺の『回避+3』と『逆流』では、優秀な狙撃手から身を守れない。


 兵たちの反応はどうだ?

 俺は周囲の様子を伺う。


 少数の精鋭(俺以外)によって、戦場を引っ掻き回された混乱は暴動に変わり、知里による量産型魔王の討伐によって訪れた沈黙──。


「…………」


「…………」


「停戦に応じよう!」


 本陣近くに布陣した親衛隊の中から、1人の騎士が進み出た。

 武器を捨て、兜を小脇に抱えて抵抗の意志がないことを示している。


 中学~高校生くらいの少年騎士で、あどけない顔立ちをしていた。

 しかし油断はならない。


「……その兜を、こちらに投げつける気じゃないだろうな。後ろに控えている重装歩兵も怖いけどな」


 ちょっと腰が引け気味なのをがまんして、俺は進み出た騎士を牽制する。

 少年騎士は意外そうに苦笑した。


「大胆不敵な突撃をした割に、領主どのは気が小さくて疑り深いな」

「お、おう……」

「いやいや、上空のグリフォンの上に闇魔導士がいるだろう。尋常じゃない魔力量だ。それに、戦場を駆けまわった裸の女戦士。あの人もどうかしてる」

「……本人は気にしてるんだから、そう言わないでくれ」

「ハ、ハレンチな格好のことじゃなくて……と、闘気のことだ」 


 少年騎士は取り乱しながらも股間をモジモジさせて頬を赤らめている。

 おそらく童貞だろう。


挿絵(By みてみん)


 て、いうか俺、何を打ち解けているんだ。

 敵軍のど真ん中で、単身だぞ──。


「と……、とにかく、クロノ王国軍には、停戦を受け入れてもらいたい」


 俺は少年騎士に念を押して言った。


「分かっている。兵は引く。ただし条件がある」

「聞こう」

「七福人スーパーマハーカーラ閣下の命の保証だ」


 条件によっては決裂もやむなしと覚悟したが、その程度であれば問題ない。

 エルマが何と言おうと、もともと生かすつもりだった。

 人質カードとして重要な存在だからな。


「無論。七福人どのは捕虜として丁重に扱うことを誓う」

「くれぐれも頼む」


 こうして、童貞の騎士との交渉は成立するかにみえた。

 ところが、俺たちの間に割って入った者がいる。


 全身を鎧で覆った重装歩兵の中の1人が、突然童貞騎士を殴りつけたのだ。

 それに呼応するように、重装歩兵たちが若い騎士を取り囲む。


「勝手に停戦するんじゃない馬鹿者!」

「は? この状況下で、停戦以外にことを収める方法があるとでも?」


 声の感じだと、重装歩兵は一回り年上のように思えた。

 クロノ王国の軍制について知らない俺には、どっちが上の立場だか分からないのだが……。

 俺そっちのけで言い合いが始まってしまった。


「新米騎士風情に、停戦の権限はあるのかと言っている!」

「その司令官が捕らえられた状況で、新兵器も破壊され、上空では魔神の如き闇魔導士が睨みを利かせている。この状態でどう盛り返せと?」


 若い騎士は一歩も引かずに言葉を返した。

 他の将兵はうつろな目でぼんやりと立っているばかり。

 何ともちぐはぐで異様な光景だが、収拾をつけなければならない。


 ──俺は、一歩前に進み出て、言った。


「クロノ王国に告げる最後通告だ。停戦に応じるか否か?」


 レモリーが風の精霊術で、俺の声を周囲に拡散させる。


 それとともに、知里が鵺に指示を出し、上空から敵を威圧しながら旋回をはじめた。


「停戦! 停戦! 停戦ーー!!!!」 


 若い騎士が大声でまくし立てる。




 次回予告

 ※本編とは全く関係ありません。


「おーっとここで白コボルトの右フックが炸裂! 茶コボルトK.О!」

「第2回エルマ杯! 勝者は白コボルトのジャリー!」

「お嬢。さすがでごぜえやすな。あの白いの腹が出てるのに強いですなァ」

「クバラお爺ちゃま♪ ジャリーは目端の利く当たり個体ですわ♪」

「エルマ様。今回の闘犬の収益は26万5000ゼニルでした」

「ギッドさん♪ 会計お疲れ様ですわ♪ まあまあの収益でしたわね♪」

「しかし戦時下のシェルター内で闘犬とは、お嬢も肝が座ってますな」

「当然ですわ♪ わがロンレア家は代々武闘派の家系♪」

「それではお嬢様。次回の告知をお願いします」

「次回の更新は1月16日を予定していますわ♪ 『白銀牙伝説ジャリー〜THE LAST WARS〜』お楽しみに♪」

「コボルトが熊と戦う話ですぜ」



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