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401話・魔王の首と闇の大天使

「知里……?」


 上空に現れた知里の異様な風体に、小夜子はわが目を疑った。 

 敵かと見紛うほど禍々しい紫色のオーラをまとい、闇の翼をはためかすその姿は、大混乱の戦場に現れた闇の天使。


「……あの首は量産型魔王……」

「あいつ、賞金首の〝ネコチ〟じゃないか……?」

「まさか……」


 ごく一部の冷静な将兵たちが、仰ぎ見ながら囁き合っている。


 わきに従える幻獣〝鵺〟(レンタルだが)が、魔王の首をくわえている。

 突如現れた彼女の異様さは、俺や小夜子はもちろん、暴徒化した兵たちの動きをも止めた。


「……知里さん」

「知里、顔に大怪我してる。早く治療しないと」


 勢いよく燃え盛る闇の翼とは対照的に、本人はグッタリとした前傾姿勢で肩で息をしていた。


 闇の魔力を解放した知里は、遠目でも顔に深い傷をつけられ、失血でかなり体力を奪われているようにも見える。


 ……だが、その前にレモリーと合流を果たさなければならない。

 知里も心配だけど、レモリーは単騎地上に取り残されているのだ。


「魚面、レモリーと合流しよう」


 幸い暴徒化した兵士は上空の知里に気を取られたのか一時的に鎮まっていたので、俺たちはその隙にレモリーと合流できた。


 レモリーは精霊術を駆使し、暴徒を押さえているところだった。


「怪我はないかレモリー」

「はい。しかしスフィスさんを見失ってしまいました。風の精霊術で交信はできたので、無事だとは思いますが……」


 暴徒の中に取り残された彼のことも心配だ。

 俺は、魚面に命じて上空からスフィスを探そうとした。

 その矢先、知里から通信が入った。


「……直行、魚ちゃんのグリフォンと一緒にこっちへ来て。敵将も連れて……」

「待ってくれ。エルフのスフィスが行方不明だ」

「スイちゃんならお小夜が探して守ってあげて」

「でも知里。その頬っぺの傷が心配よ」

「あたしの傷よりも、スイちゃんを頼むね」

「う、うん。分かったわ!」


 小夜子はグリフォンから飛び降りて自転車に飛び乗った。

  

「レモリーも、風の精霊を飛ばしてスフィスを探すサポートを頼む。見つけ次第、小夜子さんに伝えるんだ」

「はい。ただちに」


 捜索と救助の段取りを整えながら、俺たちは知里と合流を果たす。

 すでに敵は戦意喪失……というより、誰も状況を把握できていないようで、まとまりがなく入り乱れている。


「直行、あたしのところへ来て。『逆流』で兵らの心に直接メッセージを伝えるのを手伝って頂戴」


 知里の持つ特殊スキル『他心通』は、他人の心を読み取ることができる。

 俺の『逆流』スキルと組み合わせれば、自身の考えを他者に伝えるテレパシー能力にも応用できる。


「了解。テレパシーでみんなに号令をかけようっていうんだな」


 彼女は俺の元にホバーボードを差し向けてきた。

 それに飛び移って、知里の側に行く。


 遠目でも分かったけど、知里の頬からは大量に出血があり、何者かとの激闘を物語っていた。

 彼女ほどの実力者にここまでの傷を与えるなんて……。


「魚ちゃん。あの敵将、目立つように晒しておいてね」

「ワカッタよ!」

 

 魚面は能天気に返事をして、空飛ぶグリフォンに括り付けた敵将・七福()のひとり、スーパーマハーカーラを晒した。

 グリフォンが腹を見せながら犬の曲芸でいう〝ちんちん〟の格好で、敵将を見せびらかす。

 敵将の意識はまだ戻っていないようだが、相当に屈辱的な姿だ。


「ハイ注目ー」


 俺の背中に手を置いた知里が、地上の兵士に向かって語りかけた。

 

 構わずに騒ぎ続けている兵もいる中で、突然心の中に響いた、舌ったらずな女子の声にギョッとする兵士もいる。

 知里は続けた。 


「アンタたちの大将、七福人のひとり超マハーカーラは、ご覧の通り生け捕りにしましたー」


 上空を見上げた兵士らからはざわめきが上がっていた。


「そしてこっちが量産型魔王α。魔術師ソロモンが、前途ある学徒を捨て石にして試用運転した、クロノ王国の新兵器。ご覧の有様ね」


 鵺が電撃を周囲にまき散らし、強制的にこちらに注目させる。

 量産型魔王の生首をくわえたまま、威嚇するように唸った。


「さて。アンタたちの選択肢は2つ。ここで全滅するか、仲間たちの遺体を連れて撤退するか」


 だが、兵士たちはただ狼狽えるばかりだ。

 周囲を見ながら、武器を握りしめる者。

 呆然とマハーカーラを見上げる者。

 戦意喪失が広がって暴徒が沈静化したのはよかったが、今後の展望が見えないといった顔をしている。

 

「知里さん。いま敵の指揮系統は混乱している。この話は副官的なポジションの者に伝えた方がよさそうだ」


 俺は、上空から何となく鎧兜が豪華そうな兵を探した。

 指揮官クラスはレモリーとスフィスとで遠隔攻撃して無効化したが、全滅させたわけではない。

 彼らに命じて、撤退の指揮をとらせよう。


「なるほど。そうね」


 俺の心を読んだ知里が同意してくれた。

 面倒な作業だが、戦場の後片付けも領主の仕事なのだ。


「さて。指揮官の皆さんには──」


挿絵(By みてみん)


 そう言いかけた途端、知里が喀血した。

 何度も咳き込み、ドス黒い血液が口元から溢れだす。


「知里さん?!」


 知里の急変に、俺は顔から血の気が引いた。


次回予告

※本編とは全く関係ありません。


「ジュントスです。皆様おぼえてらっしゃいますか? 法王庁の生臭坊主ジュントス・ミヒャエラ・バルド・コッパイです。ウシシシシ」

「自分から〝生臭坊主〟などと言わないで下さい」

「おお、これは紅の姫騎士リーザ殿。お気遣いありがたい。上官思いの良い部下が持てて、拙僧は幸せ者ですな」

(くっ……決闘裁判で直行に負けたばかりに飛竜騎士団は解散させられ、このような俗物の部下に配属されるとは……法王さまは何を考えておいでか……)

「ふむ。次回の更新は1月14日を予定しておりますぞ。『法王庁の姫騎士はビキニアーマーでクッコロの巻』ウシシシシ。お楽しみに!」

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