400話・勝利宣言!
「だがマハーカーラ! お前なんか俺の敵じゃない」
この世界に来て、俺もいっぱしのセリフを言うようになったものだ。
強がりを言うようだが、あながち豪語というわけでもない。
この男はハッタリだ。
病でもないのに輿に乗って出陣してくるような指揮官なんて、まともじゃない。
さほど武力もなく、魔法も使えない。
部下も捨て駒に使うし、平気な顔で嘘までつく。
こんなどうしようもない奴に権力が与えられ、ロンレア領が侵略されようとしていたとは。
もっとも、小夜子を盾にしたり魚面に空爆させたりレモリーに援護を命じたりと、女性ばかりを最前線に送り出してる俺自身も大概なんだが……。
「大黒様、ここは我々が……」
「黙れ黙れ雑兵ごときが! 馴れ馴れしく口をきくな身の程を知れ!」
まだ麻酔の効果が現れないのか、マハーカーラは一方的にまくしたてている。
彼を庇おうとした親衛隊を一方的につき飛ばすと、なにを血迷ったか呪いのスイッチで爆破。
何考えてるんだ。まったく理解不能な行動だ。
「部下の命を何だと思ってるんだ!」
「黙れと言っておる!」
破れかぶれになった奴は、逆回転する関節を使って俺に殴りかかる。
しかし、素人の俺が言うのも何だが、お粗末な攻撃だ。
「直行くん、手を貸そうか?」
小夜子が心配して声をかけてきてくれたが、問題ない。
奴の視線が、彼女の胸にいった。
俺は慎重に狙いを定めて、吹き矢をだらしなく開いた口に撃った。
「えぁ!?」
「2発目!」
いくら衝撃に強い体といえども、口の中は無防備だろう。
ダメ押しとばかりに、俺は奴へ3発目の吹き矢を撃った。
口の中を狙った矢はわずかに逸れたが、剥き出しの鼻の穴に命中。
結果オーライだ。
「そろそろ効いてきたな。足元がふらついてる」
「…………!!」
マハーカーラは、何か言おうとして口をパクパクさせるが、やがて白目を剥いて倒れた。
その間、部下の兵たちはポカンとしてただ見ているだけだった。
すでに周辺の指揮官はスフィスとレモリーの手により戦闘不能にしてある。
いま、戦場でまともに指揮を取れそうな者はいなそうだ。
兵士たちの練度が足りなくて助かった。
「小夜子さん、敵将の確保は任せた」
「OK任せなさーい!」
敵将は小夜子によってロープでがんじがらめに拘束されていく。
俺は、通信機を取り出して魚面を呼び出す。
「魚面。敵将は捕えた。いまから俺たちをグリフォンで回収し、上空で待機してくれ」
「直行サンハ何を?」
「この戦を集結させないといけない。兵らの撤退を促す」
「ワカッタ」
通話を終えた魚面は、すぐに上空から急降下。
俺と小夜子は意識を失っているマハーカーラをグリフォンの前脚に括り付けた。
そして自らもグリフォンの背に乗り込んだ。
「これでよし!」
「ジャあ、上に飛ぶヨ」
マハーカーラを目立つように掲げながら、上空へと舞い上がるグリフォン。
高度が上がるごとに、戦場の様子が一望できる。
指揮官を失ったクロノ王国軍は、大混乱に陥っていた。
統制を失い、逃げようとする兵卒に斬りかかる隊長と思われる人物。
重装歩兵は指示を仰いで右往左往。
騎士を失った騎馬が、パニックを起こして暴れまわる……。
軍隊同士が戦ったわけではないのに、地獄絵図のようだった。
怒号が飛び交い、兵たちは散り散りになりながら、目についたものを手当たり次第に破壊していく。
「敵将は捕えた! 兵士らに告げる! 戦いをやめろ!」
俺は声を涸らして叫ぶものの、混乱状態は収まらない。
誰も、俺たちの声に耳を貸さない。
ひょっとしてマハーカーラって、人望がないのか……。
「みんなー! 戦いは終わったわ! もう降参しなさーい!」
小夜子も叫ぶが、兵たちはそれに気づきもせずに暴徒化している。
マズいことに彼らは撤退をせず、ロンレア領になだれ込もうとしていた。
人望がないんじゃなくて、何か無理やり統制を取っていた糸が切れたかのようだ。
「うおあああ!」
「おおおおおーーっ!!」
彼らが何によって統制されていたかは知らないが、まるで正気を失っている。
感情の赴くままに駆けだした先方の部隊は、すでに領内へと通じるトンネル付近にまで迫っていた。
「もしもし。レモリー、無事か?」
「はい。直行さま。これは一体……」
通話の裏でレモリーが精霊魔法を発動させる音が聞こえる。
暴徒と交戦中なのかもしれない。
「優先事項はトンネルだ! 土の精霊術でトンネルを塞いでくれ!」
「いいえ。それでは直行さまたちも逃げられなくなってしまいます」
「いま俺たちはグリフォンの背に乗って上空にいる。レモリー、スフィスは近くにいるか?」
上空からは、レモリーとスフィスの姿までは見分けられない。
2人の退避ルートも確保しないと。
「直行サン! トンネルが!」
そうこうしているうちに、トンネル付近から轟音が響いた。
レモリーの精霊術による大地の隆起。
ここからでは詳細は分からないが、トンネルの入り口付近は分厚い土煙に覆われている。
と、いうことは、レモリーは今そこにいるのか。
「魚面! レモリーを救出だ。グリフォンを降下させてくれ」
「ワカッタ」
「待って魚ちゃん! 直行くん、暴徒の中でレモリーさんの孤立は危険よ! わたし先行して守る!」
そう言って小夜子はグリフォンの頭に飛び移ると、屈伸運動をするように跳躍体勢を取る。
そのとき……。
「……!!」
南の空から、闇の翼をはためかせて知里が現れた。
傍らに、魔王の首をくわえた幻獣〝鵺〟を従えている。
次回予告
※本編とは全く関係ありません。
「ついに400話か……。はるばる来たなエルマよ」
「400話到達めでたいですわね。でも1年半も連載して、あたくしたちまだ成り上がってませんわ!」
「借金返済したし、ロンレア領を直轄統治したし、勇者自治区と取引を開始したし、順調じゃないか?」
「何言ってるんですか直行さん、クロノ王国に侵略されちゃったじゃないですかー!」
「そうだな。ここからが正念場だ」
「神様、あたくしたち幸薄い夫婦を、どうか見守ってください♪」
「次回の更新は1月10日を予定しています。作者に代わりまして『恥知らずと鬼畜令嬢』今後ともよろしくお願いいたします」




