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恥知らずと鬼畜令嬢~ラスボスが倒された後の世界で~  作者: サトミ☆ン
6000万ゼニルの取り引きは危険がいっぱい
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39話・癒せない天使

 俺はゴシックの彼女から預かった魔法銃を上級悪魔に構えた。


 2発目の『天罰』で魔法障壁は解かれ、敵は致命的なダメージを受けている。

 それに加え体中を電撃のような光が包んでいるため、苦悶にのたうち回っている。

 しかし、そこまで追い詰めた状態でも、反撃しようと凄まじい形相でこちらを睨んでいた。


 ……。


 これほど大きな生き物を殺すのは生まれて初めてだ。

 ていうか、俺は人生で蚊やゴキブリくらいしか殺したことはない。


「恨みはないが、正当防衛だ。悪く思うなよ」


 俺は呼吸を整えて、ただ機械的に、引き金を引いた。

挿絵(By みてみん)


 魔導弾は上級悪魔の顔面に命中し、敵は息絶えた。

 空間の裂け目から来た悪魔は、断末魔の叫びも上げずに光の粒となって消えていく。


 生まれて初めての命のやり取りに、俺は勝利した。


 魔方陣で召喚された訪問者。

 その点では俺と少しも変わらない境遇の者だ。

「頬杖の大天使」が現れなかったら、殺されていたのは俺の方だったかもしれない。


「ありがとう『頬杖』さん。あなたの助けがなかったら、俺たちはまず全滅していた」


 俺は魔法銃のグリップ部分を差し出して、敬意をこめて礼をした。


「あたしは零乃瀬(ぜろのせ) 知里(ちさと)。前金もらってるしね」

「俺は九重(ここのえ)直行(なおゆき)。そういえば異界風(いかいかぜ)で何度もお見掛けしましたよね」

「ええ。まずは重傷者の手当てをしましょう」


 周囲を見回すと、あごを砕かれた術者ネリーが倒れている。

 その周りを、戦士ボンゴロと盗賊スライシャーが庇うように寄り添っているが、彼らの傷も深く、かなり出血している。


 しかし、もっとも深く傷ついていたのは彼らではなかった。

 さっきまで精霊術『火柱』で戦闘に参加していたレモリーの様子がおかしい。


 顔色が真っ青で、青紫色になった唇の端から細かい泡が噴き出ている。

 目の焦点は合っておらず、全身が小刻みに震えていた。


「レモリー、しっかりするのです! レモリー」 


 エルマが抱きかかえて名前を呼んでいるが、まるで反応がない。

 意識を失っている。

 肩口から二の腕にかけてがパンパンに張っていて赤黒く変色していた。

 傷口からかなりの出血があり、止まらない。


「お姉さん、お願いします! 神聖術の『解毒』と『治癒』の術策を早く! 早く!」


 エルマは知里と名乗った冒険者に懇願する。

 しかし彼女は申し訳なさそうに視線をそらした。


「ゴメン……あたしは回復系、使えないんだ」

「そんなバカな話があるものですか! 神聖術使いっていったら『回復役』じゃないですか! MP切れならそこにあるマナポーション、いくら飲んだっていいですよ! 早く助けて! お願いだから!」


 普段とはまるで別人のようになって激昂するエルマ。

 歴戦の冒険者はうつむき、がっくりと肩を落としている。

 あれだけの強敵に一歩も引けを取らなかった彼女が、まるで嘘みたいに弱々しく見えた。


「……来るんじゃなかったかな」


 聞こえるか聞こえないかくらいのか細い声でつぶやいた彼女は、腰に巻き付けたポーチから毒消しポーションを取り出すと、俺に手渡した。


「野盗を想定していたから、毒消しに余分はないけど……」


 乗ってきたホバーボードに手をかけて、その場から立ち去ろうとする。

 俺はそのジャケットの裾を軽くつかみ、大きく首を振った。


「待って、行かないでくれ。この状況を打開するために、ベテラン冒険者に知恵を借りたい。頼む、今できることは限られている。どうすれば、レモリーとネリーを救うことができる?」

「普通に神聖術師なら救えるんですよ。なのにこの(ひと)は……」

「エルマは黙っててくれ。得手不得手は誰にだってある」


 話の途中だったが、俺はエルマの言葉を遮った。

 知里は立ち止まり、見定めるように俺を凝視した。


「……この状況を見過ごして立ち去るほど、あたしは薄情ではないつもりだけどさ」

「直行さん、何をボーっと突っ立って話してるんですか? 早くレモリーに毒消しポーションを」

「……そうだった!」


 俺は思い出したようにレモリーのもとに駆け付ける。

 苦しそうに呼吸をしている。

 意識が混濁しているのか、目の焦点が合っていない。


「あたくしが鼻をつまんでますから、直行さんは口移しで毒消しを飲ませてくださいませ」


 エルマはレモリーの鼻をつまんで、俺に毒消しポーションの瓶を差し出し、あごで促す。

 ちょっと乱暴な扱いじゃなかろうか。

 それを、知里が制止した。


「待ちなさい、ダメよ。意識がない人に液体を飲ませたら肺に水が入ってしまう」

「だけど、このままじゃ毒が回ってしまいますわよ!」

「毒消しポーションは、肌にかけただけでも効果はある」


 知里はレモリーを横向きに寝かせ、気道を確保した。

 こうするのは吐いたものをのどに詰まらせない処置でもあるようだ。

 そして毒で腫れ上がった患部に毒消しポーションをかけた。


「うっ……」

「傷口をしばるモノを用意して。出血がひどい箇所に回復ポーションをかけていこう。この(ねえ)さんが完了したら、次はあっち」

「は、はい」


 エルマは着ていたシャツの袖を肩口から引きちぎり、レモリーの腕に巻き付けて止血する。

 その間、俺はレモリーの名を呼び続けた。


「レモリー!」

「しっかりしてください」


 俺たちの声に反応して、レモリーがうっすらと目を開けてこちらを見る。


「……はい」


 毒消しの効果はすぐには出なかったが、何となく表情と呼吸が和らいだような気がする。

 出血はまだ続いているので予断は許さないのだが、とりあえず応急処置はできたようだ。


「次はあっちね」


 知里はすぐに術者ネリーに駆け寄り、次の処置の準備を始める。

 盗賊スライシャーと戦士ボンゴロは毒消しを飲むことができたが、ネリーは重傷だ。


「術者の彼はあごが砕けている。これは回復ポーションでは無理。再生の魔法が必要」


 知里は苦々しい表情で言った。


「……どうすりゃいいんですかい?」

「こいつは古くからの仲間なんだお。助けてほしいお」


 スライシャーとボンゴロは泣きながら知里にすがりついている。

 彼女は複雑な表情で、彼らから視線を逸らした。


 応急処置と同時にすべきなのは、救援要請だ。

 厄介なことに、ここはほぼ勇者自治区と旧王都の中間地点。

 どちらとも距離がある。

 俺は馬に乗れないし。

 ……どうする?


「これを使って。1時間で往復できる」


 知里は俺にスチームパンク風のホバーボードを差し出した。


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― 新着の感想 ―
[良い点] ホバーボード!やはり魔力で動かすものですよね。
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