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397話・マハーカーラにたどりつけ

「上空の敵に空間転移を阻害されています!」

「我ガ名においテ命ずル! 扉を閉ざセ! 混乱ノ道ヲ示セ!」


 厄介だった敵軍の空間転移魔法は、魚面の妨害魔法によって、無効化された。

 最初からこうしておけばよかったが、対魔導砲やら何やらで、後手に回ってしまった。


 戦場は生き物のように刻々と動き続けていく。


「よぉし、直行くん。いよいよ本陣が見えた。急襲するわよ。吹き矢の準備はいい?」


 空間転移を駆使した敵の移動には、かなり手こずらせてしまったが、上空からの魚面の援護が功を奏してきた。


挿絵(By みてみん)


 さらにはエルフの射手スフィスが、森に潜みながらゲリラ的に馬上の騎士に矢を浴びせてくれる。


「伏兵? ぐわあっ」


 全身鎧の騎士には大してダメージを与えられるには至らないが、指揮系統を混乱させ、対応を遅らせることはできる。

 スフィスの正確無比な射撃は、敵軍を疑心暗鬼にさせる。


「森に伏兵がいるのか?」

「精霊術の使い手もいるぞ」


 ピンポイントで指揮官を射るスフィスと、レモリーの精霊術の援護により、俺たちには多数の伏兵がいると勘違いしていた。


 統制に乱れが出て、空間転移も封じられつつある今、こちらは一気に大将首を狙うチャンスだ。

 しかし問題も発生している。

 集中して恥ずかしさに慣れてきている小夜子のバリアが薄くなっているのだ。


 俺は、小夜子の首筋の匂いをかいで、ねっとりとした視線を投げかけた。

 断じてこれはセクハラではない。


「も、もう! 直行くんやめてよ。ここは戦場じゃない」

「小夜子さんはいい匂いがするね」

「もう! エルマちゃんみたいなこと言わないでよ!」


 彼女が頬を赤らめると、ピンク色のバリアも濃くなっていき、防御効果が上がる。

 このスキルをつくりだした勇者トシヒコの趣味が伺える変態仕様だ。


「さあ行こう! 小夜子さんのハレンチな姿で、平和を勝ち取るんだ!」

「もう! 変なこと言わないでよー」


 敵陣の乱れた箇所を突き、俺たちは中層を抜けていく。

 すでに乱戦となっているので、敵は統制が取れていない。


 レモリーとスフィスが馬上の指揮官に狙いを定めてくれているので、俺たちは動きやすい。


「問題は旗本……いや、親衛隊か」


 本陣の周囲には、異様な雰囲気に包まれている。

 上半身が極端に大きな体形の重装歩兵が、びっしりと密集体形を取って敵将を守護している。

 言ってみれば鉄鎧を着た肉の壁だ。


「ぶきみなくらい静かな連中だな」


 彼らは戦場にいるにもかかわらず、昂った様子もなく淡々と道を塞いでいる。

 ハリネズミのように長槍を構えて、近づく者を貫かんとしている。


 顔全体を覆う鉄兜アーメットヘルムを装備しているため、表情まではうかがえない。

 しかし、すさまじい殺気だ。

 守りに特化している分、そう簡単には抜けそうもない。


「エルマだったら熱湯をかけて蹴散らすところだが……」

「自転車を乗り捨てて……。わたしが直行くんをおんぶして、重装歩兵を飛び越えて本陣を狙う?」


 思い切りのいい策ではあるけど、帰りの足がなくなるのは痛い。

 そこで俺は通信機を手に取り、魚面を呼んだ。


「魚面、グリフォンを急降下させて、俺たちをつかみ、敵本陣まで飛ばすことはできるか?」

「無理ダ。魔物の爪ハ直行サンたちを引き裂いチャウヨ。自転車モネ」

「大丈夫。わたしの障壁で爪を防ぎつつ、運んでもらいましょう」


 俺と魚面の通信に割って入った小夜子の提案。

 

「直行くん。運転代わって」

「お、おう」


 小夜子は曲芸のような柔軟さでサドルから離れると、ハンドルを持ったまま倒立。

 その間に俺がサドルに座って、彼女はクルっと一回転して俺の肩に手を置き、後部タイヤのハブステップに足をかける。


 その間、当然のように矢は嵐のように降り注ぐものの、バリアと逆流回避によってノー・ダメージ。

 さらにそこに、純白のグリフォンが急降下して小夜子の両手に爪をかける。


「グレン式体術・鋼鉄掌」 


 小夜子は闘気を両掌に集めると、グリフォンの爪にしがみつく。

 同時に太ももで俺の胴を挟み込んで、自転車ごと宙に舞い上がる。


 グリフォンが自転車ごと小夜子を掴み、飛んだ。


「直行サン久しぶリ。無事で良かっタ」

「魚面。敵の本陣まで一気に加速して、輿に乗っている大将を拉致する。協力してくれ」

「分かっタ」


 敵将スーパーマハーカーラに超強力な麻酔薬を撃ち込んで眠らせて、連れ去る。

 大将首を取れば、この戦は俺たちの勝ちだ。


「上に逃げたぞ! 対空砲火!」


 敵軍の注意がグリフォンに集中する。

 魔導兵は大分潰したつもりだが、本陣付けのものは無傷だったようだ。

 グリフォンは大きいので小夜子のバリアでは防ぎきれない。


「このままじゃいい〝的〟だな」

「魚ちゃん、わたしたちを敵将に投げつけて! 直行くんと協力して大将を眠らせるから、そうしたら上から攫って行っちゃって」

「無茶だよ小夜子さん」


 自転車ごとミサイル代わりにするって……。

 俺、生身なんですけど……。

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