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396話・突撃

 俺たちは無心に敵陣に突っ込んでいく。


「どきなさーい! 怪我するわよー!!」


 超スピードでペダルを漕ぐ小夜子は、スキル『乙女の恥じらい』によって魔法も物理もすべて無効、まさに無敵の障壁を張っている。

 すでに敵軍の中心地点に差し掛かっている。

 ここは、敵の主力が集まるところだ。


 黒い甲冑に身を包んだ騎兵たちが、槍斧を構えたまま魔法の詠唱に入る。


「魔法騎士……だと」

「させないわよ!」


 これまで敵を避けながら本陣を目指していた小夜子が、騎馬の一団に突撃。

 口にくわえた太刀を両腕に構え、騎士たちの槍斧を弾き飛ばしていく。

 しかし、さすがの彼女とて自転車の両手放し運転は非常に危険だ。


 車体はふらつき、バランスを崩しそうになる。

 そこで俺は両脇の間から手を伸ばし、ハンドル操作を受け持つ。


 曲芸か二人羽織りのような状態だが、ヒットアンドアウェイは成功した。

 魔法騎士の詠唱を阻止して、俺たちは再び後方の敵本陣を伺う。


「本陣が深い。ボスが前線付近にいる魔王軍とは、編成がまるで違うのね……」

「それは、魔物と人間の軍隊の違いだよ」

「だったら、根性で抜いてみせる! いっくよーー!」


 小夜子は水分補給用の竹筒を取り出すと、牛乳を一気に飲み干した。

 そして再び俺を乗せて単騎がけだ。


「行かせるなー! 囲め囲めーい!」


 中軸の騎兵は、上手に馬を操り、俺たちの行き先を防ぐ。

 大きな槍斧を突き出し、鉄壁の構えだ。


「どいてよー! 怪我しちゃうでしょー、あなたたちがー!」


 小夜子は一歩も引かずに、敵の中央に突進する。

 ピンクの障壁に触れたものは馬ごと弾き飛ばされ、騎兵が宙を飛ぶ。


 できた間隙を縫うように自転車は突進し、本陣目がけて切り込んでいく。


 しかしまだ気が抜けない。

 後方からは、同士討ちも辞さない勢いで弓矢隊の放った矢が、クロノ王国正規軍をも巻き込んで矢の雨を降らせる。


「『回避+3』『逆流』!」


 対飛び道具に関しては、俺の出番だ。

 周囲の空間に俺の『回避+3』を『逆流』させることで、矢の方から俺たちを回避してくれる。

 小夜子のバリアは効果範囲が狭いので、想定外からの流れ矢対策は必要だ。


「魔導砲装填!」


 兵士たちの怒号に紛れて、銅鑼の音とともに確かに聞こえた。

 強力な威力と射程の長い遠隔攻撃型ユニット、魔導砲。


 ひとつは魚面に頼んで上空から大岩を落として潰してもらったが、まだあったのか。

 しかしいまは魚面に連絡している時間はない。


「小夜子さん、アレぶった斬れる?」

「3秒頂戴!」


 そう言うや小夜子は自転車から弾丸のように飛び出した。

 漕ぎ手を失い、バランスを崩して転びそうになる自転車を俺が引き継いだ。


 そのタイミングを待ってましたと言わんばかりの槍と矢の一斉掃射。

 しかし『回避+3』と『逆流』スキルで、どうにかしのぐ。

 まずは1秒。


「グレン式剣術奥義・雷神斬!」


挿絵(By みてみん)


 次の1秒で、小夜子の〝濡れ烏〟の斬撃が、魔導砲を一刀両断。

 ミスリル銀のような魔法金属の砲身を、大根でも斬るように真っ二つにした。

 彼女は切断した魔導砲を蹴り飛ばし、その反動で戻ってくる。


「光弾よ、敵を撃てーー!」


 俺のところには、敵の攻撃の第2陣。

 魔導部隊による光弾が迫る。


「やべっ」


 さすがにこれはかわせない……。

 攻撃魔法を『逆流』で回避することはできない。


 しかし、突如地面が隆起して盾のように俺を取り囲む。


「土の精霊術! 精霊術師の伏兵だと……!」  

 

 レモリーに間違いない。

 そして、間髪を入れずに馬上の指揮官に矢が放たれる。

 

「ぐわっ!」


 片目を射抜かれて落馬する騎士。

 やったのはエルフの射手スフィスだろうか。


「直行くん、大丈夫?」


 魔導砲を真っ二つにした小夜子が上空からやってくる。

 俺にお尻を見せつけるようにして障壁を広げ、周囲の敵を石の盾もろとも吹き飛ばす。


「レモリーとスフィスの援護に助けられた!」

「頼もしいね! じゃあ行くよ!」


 自転車の運転を小夜子が代わり、猛スピードで中央突破を試みる。


「どりゃあああ!」


 魔導砲を潰されて、一瞬ひるんだ敵陣の合間を抜けて、本陣を狙う。

 しかし、敵将にはなかなか届かない。


「転移魔法で本陣は後退しつつ、主力を差し向けているのか!」 


 彼らは転移魔法を自在に使い、瞬時に陣形を整えてくる。

 敵将の戦術かどうかは知る由もないが、敵軍の召喚術者が厄介だ。


「魚面、上空から召喚術師を撃てるか? 車椅子についたヒナちゃんさんのミサイルをぶっ放せ」

「殺ってイイのカ?」

「できれば死なせずに無力化が望ましいけど……空間転移を妨害したい」

「ナルほど。ダッたらコチらからモミサイルと召喚術で妨害シヨウ」


 そう言って魚面は通信を打ち切った。

 なるほど、彼女も召喚術の使い手だ。

 地上の空間転移の魔方陣を、上空から妨害して混乱させる。


「よおし……勝機が見えてきたな」


 俺は、風にたなびく七つ星の大将旗を睨んだ。




 次回予告

 ※本編とは全く関係ありません。

 

「クバラお爺ちゃま♪ あたくしにも賭け事の極意を教えてほしいですわ♪

「極意なんてものはありやせんぜ。勝つときもあれば負けるときもある。伸るか反るか。それだけでさあ」

「でもお爺ちゃまは盗賊スラの全財産、〝ケツの毛〟まで抜きましたわ♪ 狙ったのでしょう♪ カッコいいですわー♪」

「博打のコツはカモを拾うことでさぁ。大したことは仕出かしちゃございやせん」

「♪次回の更新は12月31日を予定していますわ♪ 『大晦日だよ 鬼畜令嬢♪』お楽しみに♪」

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