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392話・外道の戦術

 ※物語は魚面からの敵情報告を受けている場面にさかのぼる。


挿絵(By みてみん)


「直行サン、大将イタよ七福人。七つ星のマークの旗と、黄金のハンマーの旗だ」


 敵陣への威力偵察に出した魚面から連絡が入った。

 七つ星のマーク……北斗七星だろうか。

 黄金のハンマーはおそらく打ち出の小づち。


「……黄金のハンマー。……打ち出の小づち。……大黒のやつか?」


 敵の地上部隊の指揮官は、スーパーマハーカーラを名乗る奴だ。

 それにしてもふざけた名前だ。


「大黒? ワカラナイ。敵の大将は輿(こし)に乗っテル」

「輿……か」


 怠惰な貴族様の乗り物のイメージが強い。ちなみにエルマも乗っていた。

 七福人とやらがどの程度の強さなのかは見当もつかないが、輿に乗って戦場に来る奴は武闘派ではないだろう。

 

 ……そのとき、ひらめいた。


 上手くすれば、この戦いを一気に終わらせることができる策。

 しかし、リスクも高い。

 一歩でも間違えたら俺は死に、勇者自治区との同盟も解消される。


「直行サン。敵の対空攻撃ハ、魔導砲ダケ。射程と威力は強いケド、連射はデキないっポイ」


 魚面が状況を説明してくれている。

 交戦中にもかかわらず、彼女が連絡を取れているところをみると、空を飛べる敵はいなさそうだ。


「魚面、作戦変更しても大丈夫か。その魔導砲を叩いて、敵を撹乱してほしい」

「殲滅もデキるヨ?」

「禍根が残るから、敵にあまり損害を出したくない。俺が出張って大将を取る」


 イチかバチかは好きじゃないけれど、戦争は絶対に勝たなければならない。

 

 俺は、通信機で小夜子を呼んだ。


「小夜子さん、そちらの状況は?」

「皆の避難は完了したわ! 今のところ知里が戦局をリードしてる。勝てるわよ!」

「そんじゃあ、この戦争を完全に終わらせてしまおう」

「大賛成!」

「それには小夜子さんの力が欠かせない。チャリに乗って、俺のとこまで来てくれ」

「分かったわ!」

「小夜子さんに人殺しはさせない。ヒナちゃんさんからも、勇者トシヒコさんからも厳命されてるから、絶対」

「……うん。でも、不可抗力だったら仕方ないんじゃない?」


 小夜子はそう言うが、決して本心ではないだろう。

 俺に気を使って言っているのが、電話越しでも分かる。


「小夜子さん。いつも助けてくれてありがとう。炊き出しの事業化は必ず実現してみせるから、この戦争に勝利しよう」

「もちろん! わたしに任せなさーい」


 そう言って彼女との通信を終えた。


 さて、彼女がここに来るまでに、やるべきことが2つある。

 俺は、地下シェルターに避難しているエルマを呼んだ。


「直行さん、いまいいところなんですから、連絡は後にしてください♪」

「どうせエルマ杯と称した闘犬大会とか、ロクなことをしてないんだろ。いいから入り口まで来い」

「その言い方! あんまりですわ~」


 そう言ってエルマは通話を打ち切った。

 でも奴のことだ。

 いまの状況が分からない訳じゃない。

 彼女なりに、避難民たちの心を鎮めるために開いた催し物……だと思いたい。


 俺は屋敷の地下シェルター入り口前で、エルマを待った。


「直行さん、来ましたわよ♪」


 床がスライドして、エルマの奴がひょっこりと頭を出した。


「狙撃手がいるかもしれないから、頭をひっこめろ」

「屋敷にすでに狙撃手が侵入していたら、直行さんなんてとっくに撃たれてますわ♪」

「それはまあいい。エルマいいか、よく聞け。象でも眠れるような麻酔薬を召喚できるか?」

「エトルフィンですわね♪ 人間に使ったら死亡しますけど♪」

「死んだら困るな。じゃあ人間用のやつで」


 まあ、最悪敵将を死なせてしまっても戦に勝てれば問題はないけど、戦後処理を考えたら生け捕りがベストだ。


「直行さん、何をなさるおつもりですか?」


 睡眠薬を召喚しているエルマが、ゲスい顔で聞いてくる。


「敵陣に突っ込んでいって敵将を拉致する」

「直行さんが……ですか?」

「小夜子さんの自転車に2人乗りでな」


 俺の説明に、エルマはさらに極悪非道の笑みを浮かべた。


「直行さんこそ本物の悪党ですわ♪ 賢者ヒナ・メルトエヴァレンスのお母さまで、魔王討伐の英雄でもある小夜子さんを盾にして♪ 敵陣に突っ込み、敵将を吹き矢で仕留める♪ すばらしい鬼畜の所業♪ あたくしの個人スキルをお譲りしたいくらい、ですわ♪」


 エルマは邪悪な笑みを浮かべながら楽しそうに小躍りした。


「えらい言われようだけど、これが一番犠牲者を出さないやり方なんだ」


 ……失敗したら、おしまいだけど。

次回予告


※本編とは全く関係ありません。


「ところで直行さん♪」

「何だエルマよ」

「第2回エルマ杯なんですけどね……」

「確か茶色いニューフェイスと黒いのが戦ったんだよな」

「ええ♪ 右フックの黒♪」

「茶と黒の戦いか。どっちが勝った?」

「それが黒のロングフックが放たれた瞬間……茶色のカウンターが炸裂!」

「フックは身体が開きやすいから、そこを狙ったのか!」

「茶色はガリヒョロなんですけど、戦闘センスはありますの♪」

「次回の更新は12月23日を予定しています。『闘犬回! 負け続けの黒に明日は来るのか』」

「体つきは精悍だからポテンシャルはあると思いますの♪」


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