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389話・ソロモンとの邂逅

 量産型魔王の光のブレスを突っ切って、知里はカウンター攻撃を決めた。


 光のブレスによって長く伸びた魔王の影を利用して作られた死神の鎌=デスサイズ。

 影を実体化させ、意のままに操る闇魔法だった。

 

 首を斬り落とされた量産型魔王は、そのまま前のめりに倒れ込み、巨大な水しぶきを上げて湖に沈んだ。

 

「ああ、ああああ……」

「あの女の人……悪魔」


 子供たちのほとんどは湖に落とされ、鵺によって安全な小島まで避難させられている。

 しかし、助けられた事実などなかったかのように、子供たちは知里に怯えていた。


「さて……!?」


 肩で息をしていた知里が通信機を取り出そうとすると、目の前に肉片が飛んだ。

 自分の頬がはじけ飛んだのだ。

 突然襲ってきた激痛に顔を歪める知里。 


「……間に合わなかったか。〝クソ猫〟め」

「ソロモン!」


 知里の視界に現れたのは、長髪をたなびかせる細身の青年。

 ホバーボードを駆り、空中に静止している。


「ソロモン閣下だ!」

「助けに来てくださった」

「閣下ー!」


 少年魔導兵たちが口々にその名を呼ぶ。

 この男は七福()のひとりソロモン。クロノ王国・魔道兵器開発・魔道部門の責任者。


「…………」


 ソロモンは学徒魔導兵には一瞥もくれず、知里を睨みつけた。

 知里も傷口を押さえながら見返す。


 冒険者ならずものの知里にとって、ソロモンは本来であれば接点などない政府高官だ。

 しかし先の〝時空の宮殿〟探索ミッションにおいて、引き返せない因縁の種が撒かれてしまった。

 いまや互いに、相容れることは決してない仇敵同士。


「!!」

 

 ソロモンは黒マスクを外して、剥き出しの傷口を見せる。

 それは、今しがたはじけ飛んだ知里の傷と同じ位置にあった。


「〝痛みの変換〟だ。挨拶がわりに受け取ってくれたまえ」

「傷口を見せびらかすなんて、ロクな男じゃないわね……」

「減らず口を叩けないようにしてくれる!」


 対峙した2人の間に、凄まじい魔力が渦巻く。

 闇をまとった禁呪使い同士の殺意に、空気が圧縮されるようだった。


「トライアド!」


 ソロモンが右手を挙げると、湖に沈んだ魔王の三尖両刃刀が、水しぶきをあげて浮上した。

 紅色をした巨大な三又槍は、回転しながらみるみる縮小し、人間の持てるサイズへと変わる。

 しかし魔術師のソロモンが持つには、どこか違和感があった。


挿絵(By みてみん)


「どこかで見た覚えがあると思ったら、その槍はカレムの!」  


 それはかつて勇者パーティの一角を担った商人カレム・ミウラサキの槍だった。

 知里には見覚えがある。間違いない。


 伝説の名工が拵えた名槍に、トシヒコのスキル『天眼通』によって、特殊スキルが付与されたものだ。


「あの槍をベースに、勝手に改造したのね」


 魔王討伐後、勇者トシヒコ一行にはクロノ王国から、一代侯爵の地位が与えられた。

 その際、トシヒコ以下魔王討伐軍の武器は、地位と引き換えにクロノ王国に回収された。


 それは言ってみれば〝刀狩り〟だった。

 公式には、魔王討伐記念の国宝として国庫に収められたとされているが……。


 事前に何かを察したトシヒコは自らの愛刀を小夜子に託すことで武器回収を逃れたが、カレムやヒナたち他の得物はクロノ王国に没収されたままだ。


「なるほど、アンタたちが鹵獲したってことね!」


 知里はそう言いながら、ソロモンと距離をとった。

 魔術師の彼が、カレム・ミウラサキの愛用していた槍を扱うならば、『加速』の特殊スキルが付与される。


 あの槍にはミウラサキの持つ〝時間を操る〟能力をさらに加速させる効果があるのだ。


 もっとも、物理攻撃が主体だった〝速度の王ミウラサキ〟とは違い、ソロモンは魔導士。

 つまり彼が使うと、詠唱加速と魔法の攻撃速度が跳ね上がることになる。


「フン。貴様が心を読もうとも、我が詠唱スピードさえ上回れば、得意の魔法反射も使えまい」 

「ふぅん」


 ソロモンの戦術はシンプルだ。

 知里よりも先に攻撃する。

 魔法反射の術式を張られる前に、確実に致命傷を与える。それだけ。


「…………」

「西部劇みたいね。って言ってもアンタは知らないでしょうけど」


 両者は睨み合ったまま、魔法攻撃の機会を伺っていた。

 詠唱速度で圧倒的に優位に立つソロモンだが、知里の戦闘センスを侮ってはいない。

 魔法回避に集中されたら、カウンター攻撃を受ける危険性はあった。


 ソロモンは慎重に構える。

 念には念を入れて、知里の射線に学徒たちを盾にする位置取りを取った。

 なぜなら彼は、異界人たちが無関係の者への被害を嫌うことを知っていたから。


 ましてや、「子供を巻き添えにするなど言語道断」などと考えるのが異界人だ。

 闇魔導士に覚醒した知里でさえ、例外ではなかろうとソロモンは思っている。


 ソロモンらクロノ王国にとって、子どもであろうが兵士など、あくまでも消耗品にすぎないのだが。


「……ソロモン。アンタは本当に見下げ果てた奴ね。なるべく苦しんで、自分のやったことを後悔するといいわ」

「…………」


 知里は、故意にソロモンを挑発するようなことを言っている。

 量産型魔王の撃破を食い止めるために、なりふり構わずやって来たのは知っていた。

 現にソロモンは通信妨害の装備をしていない。


 心を読まれていても、知里を倒せるだけの自信があるのだ。

 知里は、そんなソロモンの過信を見逃さなかった。


「死ね〝クソ猫〟が!」


 罵倒と共にソロモンは三尖両刃刀トライアドに手を添える。

 一瞬で時間は加速して、複雑な詠唱を要する禁呪が発動する。

 禍々しい瘴気が、知里を取り囲み呑み込んでいく……。


※この度はFUJIWARAだね!シノブ君!様より当場面をイメージしたFAをいただきました。長期連載に付き合って下さり、ありがたく思います。


挿絵(By みてみん) 


 次回予告

 ※本編とは全く関係ありません。


「直行さん♪ 知里さんと戦ってる人、どこかで見たような気がしますわ♪」

「お、おう。外伝『知里の冒険譚・紅薔薇と裏切りのダンジョン〝時空の宮殿編〟』に出てきたキャラだからな」

「そうじゃありませんわ♪ 漫画ド○タース○ーンに出てきた氷○にソックリじゃないですかー♪」 

「……元々は杖使いだったようだが、量産型魔王の槍を装備したんだな」

「そういえば知里さんも6期○太郎の○娘に似ていますわね♪」

「……」

「次回の更新は12月17日を予定しています。『墓穴! 元ネタ暴露大会』お楽しみに♪」


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