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388話・独壇場ちーちゃん

「いけえ!」 

「やられちゃえー!」


 魔道少年兵たちの残党は、まるで雪合戦でもするような感じで光弾魔法を知里に放った。

 あどけない少年少女たちだが、魔法の威力は十分に殺傷能力に達している。


 無邪気な顔をして、平気で人を殺しに来る魔道少年兵たち。

 知里はさすがに気が滅入った。

 その一方で、闇魔法の影響で残忍な思考も浮かぶ。


 ──誰も見ていないんだし、殺しちゃってもいいんじゃね?


 思いもよらずに出てきた思考にギョッとして、慌てて首を振る。


「……ダメダメ。しっかりしないと、あたし」


 知里は独り言を呟いた。

 あえて口に出したのは、闇に呑まれそうな心を正すためだ。


 真に倒すべき敵は、少年少女たちを魔道兵に仕立て上げた仇敵ソロモン。

 知里とは何かと因縁の深い死霊使い(ネクロマンサー)だ。


ぬえ。引き続き、子供たちの命を守ってあげて。抵抗するようなら、……気絶させてもいい。誰も死なせないように」


 知里は学徒兵への対応を、召喚獣〝鵺〟に一任した。

 かつて暗殺者集団の象徴でもあった異界の幻獣はいまや、ロンレア領主エルマに捕縛された身。

 〝鵺は知里さんの言うことを聞きなさい♪〟という、彼女の命を受けて知里に従っているのだ。


 召喚術に適性のない知里にとっては初めて使役となる。


「……ここは任せたわよ」


 そして自身は、量産型魔王α(アルファ)の討伐に向かった。

 

「来たー! 悪魔めー。主砲用意!」


 α調整部隊と呼ばれる、量産型魔王を制御するグループが、確認作業に入る。

 量産型魔王の〝光のブレス〟は、凄まじい破壊力を誇る広範囲攻撃だ。


 直撃を受けたら、知里はおろかロンレア領もひとたまりもない。


「……あんなのをそう何度も撃たせるもんか!」


 知里は闇魔法の〝操る影〟を発動させた。

 これは、周囲の影を実体化して操ることができる禁呪だ。

 量産型魔王αが湖上に落とした巨大な影を、ゆっくりと起動させていく。


「なんだ? 影が動いてる!」

「おかしいよ? どうなってるの」

「ボクら、心が読めるだろ! あの黒い女の人が、禁呪で攻撃してるんだ」

「主砲用意! 急げー」 


 α調整部隊は、主砲発射準備に取り掛かる。

 量産型魔王の〝光のブレス〟を発動させるための一連の動作は、よく訓練されていた。

 少年少女たちはきびきびとした動作で、魔力を装填させていく。


(……あの子たちも『他心通コピー』を埋め込んだのか)


 知里は影を操り、量産型魔王の動きを封じようと試みた。

 しかし、想像以上に〝光のブレス〟の装填が早い。


「ちっ……ひょっとして、魔王もどきにも『他心通コピー』を埋め込んだのか。厄介ね……」


 〝兵器〟として復元された量産型魔王に〝心〟はない。

 しかし、学徒兵たちの〝思考ネットワーク〟とダイレクトにつながり、彼らの意志に反応して〝光のブレス〟を起動する。


 ブレス攻撃は物理攻撃でも魔法攻撃でもないので、知里の反射魔法では防げない。

 広範囲攻撃でもあるため、仮に彼女が耐えたとしても周囲に甚大な損害を与えてしまう。


 万が一のときに備えて、知里はホバーボードを急上昇させた。

 同時に、魔王の影を起こして本体を取り押さえる。


「それにしても物騒なモノを作ったもんだ。おぞましい……」


 知里が上空に逃げたのは、敵の主砲を空に撃たせるためだ。

 思ったよりも再装填が早かったため、無駄撃ちをさせて被害を未然に防ごうとしたのだ。


 そして3度目の再装填の間に、撃破する。

 それが知里の描いた戦術だったが、子供たちを見くびっていた。

 

(黒い女の人は、ボクらを殺す気がない。なら、あんなの無視してあっちをやっちゃう?)

(あっちってどっち?)

(ソロモン閣下言ってたじゃん。今後の〝よくしりょく〟になるから、α(アルファ)でなるべく大きな損害を出せって)


 その〝思考ネットワーク〟は知里にも筒抜けだ。

 子供だと思って甘く見ていたのが裏目に出た。


「マズい! このままじゃ直行たちが!」


 知里は急降下して量産型魔王の前に立ちはだかる。

 魔王の影を操り、本体の顔の向きを上に変える。


「「撃てー!!」」


 α調整部隊は、知里よりも早くに〝光のブレス〟を放てと叫んだ。


「させるかぁーー!!」


 知里は自身の危険を顧みず、〝光のブレス〟の中に突入していく。

 闇の瘴気を身にまといながら、すべてを焼き尽くす光弾の中へと突っ込んでいく。


 一瞬でも気を緩めれば、知里の身体は塵になって消える。

 死と隣り合わせのスリルが、彼女の魂に火をつけた。


「へへっ」


 気がついたら知里は笑っていた。


挿絵(By みてみん)


 魔王の影を、刃に変える。

 それは、仇敵ソロモンの得意技だった。


 魔王の影は、巨大な死神の鎌=デスサイズへと姿を変える。


「おおおおおーー!!!」


 知里は華奢な腕で、自分の数倍もの体積の鎌を、量産型魔王の首筋に押し当てる。


 ──滅びてしまえ。 


 自らの魂の奥底でくすぶる邪悪な意思が、彼女の魔力を増幅させる。

  

 知里は〝光のブレス〟を突き抜け、量産型魔王αの首を斬り落とした。

 次回予告

 本編には全く関係ありません。


「へい。義賊のスライシャーでやす。何やらロンレア領がきな臭いですが、避難先では闘犬が開催されているとか。あっしも一丁賭けてみたいもんでやすね」

「スラ、持ち場を離れたらダメだお。おいらたちは研究所を守るんだお」

「左様。最重要拠点の防衛である。先日も皆で虎から守り抜いたではないか」

「お、こんなところに通信機が。これを使えば賭けに参加できますぜ」

「コラッ! 勝手に通信するんじゃないッ!」

「へい! もしもし! あっしは黒に2000ゼニル賭けやすぜ」

「……しかし音声だけで闘犬に参加って、黒が勝っても相手が〝白の勝ち〟って言ったもん勝ちじゃ」

「胴元がエルマお嬢さまじゃ、インチキもやりかねないでしょうな」

「……そっすね」

「次回の更新は12月15日を予定してるお。『賭博黙示録エルマ』だお。お楽しみに」

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