387話・湖上の決戦
湖上では、幻獣鵺を駆る知里と、クロノ王国ソロモン麾下の学徒魔導兵、そして量産型魔王αの戦陣が切って落とされた。
「持続時間は5分。あの闇魔導士を、その間に仕留める」
「みんな連携して行こう!」
「「はーーい!」」
学徒兵たちは威勢よくこぶしを突き上げた。
そしてリーダーに続いて、真っ赤なスキル結晶を首の後ろに差し込んだ。
「痛いよう」
「がんばって!」
「痛ーい」
首筋から血を流し、少年少女は苦痛に顔をゆがめる。
(なんだろう、あのスキル結晶……)
すると、結晶を埋め込んだ学徒兵たちは互いに顔を見合わせ、声を出さずにコミュニケーションをとり始めた。
「まさか!」
知里の持つ『他心通』のコピー品だった。
持続時間は5分と言っていたが、他人の心が読めるようになる効果があるようだ。
「これはソロモンが作ったのか! あたしの血を培養して!」
知里は自身が持つ特殊スキル『他心通』がコピーされていることを知った。
おそらく『時空の宮殿内』で怪我を負った際に流れた血を盗み取られたのだろう。
「偉大なるソロモン閣下を呼び捨てにするな――無礼者!」
リーダー格の学徒兵が、激昂しつつ突進してきた。
この少年は現在、通信妨害の首飾りを装備しているので、知里には心が読まれていないと高をくくっているはずだ。
(近距離から、最強の一撃をお見舞いしてやる!)
リーダー格の学徒兵は、知里の意表をついて近距離からの魔法攻撃。
「甘いわね」
知里と少年兵では、くぐって来た修羅場が違った。
彼女にとっては通信妨害されていても、少年の目の動きや魔法詠唱の速度などから、フェイントや攻撃意図など簡単に読み取れてしまう。
容易く学徒兵リーダーの背後に回り込んだ知里は、首飾りを外した。
「!!」
「これ超貴重品で、買えば2000万ゼニルは下らない。ソロモンから預かったのでしょう。もらっとくわね」
一瞬、何が起こったか学徒兵リーダーには分からなかったが、通信妨害の首飾りを盗まれてしまった。
もうこれで、知里の『他心通』を防ぐ術はなくなった。
「それがどうしたー!」
「一斉にかかれー!」
少年少女からなる魔導学徒兵たちは、声を張り上げて光弾を撃ち込む。
しかし知里は回避する素振りも見せずに、放たれた無数の光弾を消滅させた。
「通信妨害の首飾りなんてイカサマ道具、なくったって遅れは取らないから」
そう言いながら知里は首飾りをポケットにしまった。
そして鵺を、なぜか自身が潜んでいた浮島に後退させた。
「坊やたち。心が読めるからって、あたしに勝てるなんて思わないでね!」
知里は急降下して、水面ギリギリを飛んだ。
水しぶきを巻き上げながら、湖上を疾走する。
(心が読める相手との戦闘では、狙った攻撃は意味がない。撃つ前に避けられちゃう)
知里は上に点在する巨大スズメバチたちに目をやった。
そして左右10本の指に、小さな魔力の炎を灯した。
(流れ弾をバラまく。即死させない程度に威力を落として)
「皆、必死で防げー」
「そういん、防御壁展開ー!」
知里の攻撃意図を読んだ学徒兵たちは、高度を上げつつ魔法障壁を発動させる。
2~3人がグループを作り、衝撃に備える。
「あたしの心が読めたところで、お子様にどうにかできる相手じゃないよ。しっかり勉強して、あたしを打ち負かして見せなさい!」
知里は上空の敵影を狙うでもなく、適当に光弾を撃ちまくった。
10本の指から放たれる、まるでマシンガンの一斉掃射のような攻撃だ。
湖上スレスレから撃ったかと思えば、気づいた時には上空から光弾を撃ちおろす。
超高速で、宙域をフルに使う三次元的な空中戦闘。
戦場は知里単騎に引っ掻き回され、乱戦状態へと化した。
こうなると学徒兵の隊列も何もあったものではない。
たった1人を相手にしているハズなのに、まるで大軍に襲われているような気持ちになる。
戦場は完全に知里の支配下に置かれた。
「こっちを狙ってるぞ」
「残念。遅い」
しかし彼女が狙うのは、あくまでも量産型魔王αだ。
学徒兵には目もくれずに、魔法銃から〝天罰〟などの強力な魔法を顔面に叩き込む。
量産型魔王は、広範囲攻撃と物理メインでの戦闘に特化した機体だが、まだまだ調整が足りなかった。
ましてや操作するのは戦闘経験の乏しい学徒魔導兵たちだ。
「お子様には過ぎたオモチャよね」
紅色をした巨大な三又槍を振り回すも、知里はその合間を縫うように回避し、強烈な魔法を何度もたたき込む。
「黒い女の人がαを狙ってる隙に集中攻撃だ」
「そう来ると思った!」
知里は敵の攻撃を読み切っていた。
魔王にダメージを与える一方で、余った魔力で拡散ビームを放ち、学徒兵らを湖に落とす離れ業もやってのけた。
「うわあー」
「くっ!」
小さな悲鳴を上げて落下する少年少女たち。
「鵺よ! 溺れている子がいたら助けなさい……」
いくら戦闘訓練を受けた少年少女とはいえ、突然湖に放り出されたら溺れる者もいるだろう。
そこで知里は、鵺に命じて浮島から流木を持って来させた。
鵺は、湖上に流木を浮かべると、溺れそうな学徒兵の救助に当たった。
「……あれ? なんであたし人命救助なんてやってんだろ……」
ふと、知里は違和感に気づいた。
子供たちを助けようとしている行為に、なぜか疑問を感じた。
──敵なら殺せばいいだけ。
頭の中に、そんな考えがめぐる。
(ひょっとしたら、コレが〝闇に呑まれる〟という感覚……)
ある人に言われたことがある。
闇に属する魔法は、人間の憎悪や呪いなどのエネルギーを魔力に替える。
法王庁では禁呪とされる魔法の数々だ。
それは、術者本人の精神も蝕んでいくという……。
「ダメダメ。冴えたやり方ってのをね、やんないと」
知里は頬を何度か叩いて、大きく首を振った。
自身に芽生えた、闇の囁きを打ち消すように……。
次回予告
※本編とは全く関係ありません。
「直行さん、ラーメンでも食べに行きませんか♪」
「エルマお前、戦争中に悠長なこと言うなよ」
「だったら出前を取りましょう♪ ニンニクマシマシで精をつけて敵に備えるのです♪」
「出前にしたって危険だろ」
「大丈夫ですわ♪ ラーメン屋の店主さまは強面の方が多いですから♪ 敵も逃げていきますわ♪」
「確かに勇者自治区で食べたラーメン屋の店主は強面だったけど……」
「次回の更新は12月13日を予定していますわ♪ 『闘え! ラーメン漢』お楽しみに♪」
「……どこかで聞いたようなタイトルだな」




