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386話・魚面とアルビノの鷲獅子


 クロノ王国の地上部隊が迫っている。

 一刻の猶予もなかった。

 エルマ、レモリー、魚面、小夜子、ミウラサキ。

 主要メンバーを集めて緊急作戦会議を開いたが、どうも要領を得ない。


「直行さん、地上軍なんて、あたくしが毒ガスで駆逐してやりますわ♪ それとも天然痘ウイルスを召喚してばらまきましょうか♪」

「ダメだエルマ。そういうこと冗談めかして言うな。それに、敵に『複製』スキル保持者がいたらヤバいなんてもんじゃないし、ウチにも被害が出るだろ」

「直行くん、平和的に解決しようよ? わたしが行って、大将を説得すれば兵を引いてくれるかも」

「いいえ小夜子さま。あなたほどの英雄でも、侵略者は聞く耳を持たないでしょう」

「ボクが〝ゴー・レーサー〟に蒸着して奇襲してみようか」


 価値観は人それぞれと言うが、本当にバラバラだ。


「ミウラサキ君、小夜子さん。好意はありがたいけど、2人とも自軍にとっては奥の手だ。まずは迫りくる地上軍に対して、情報がほしい」


 勇者自治区のドローンは、さすがにクロノ王国領までは網羅していない。

 空から偵察がしたかったが、俺は初手で飛行ユニットを使い切ってしまった。

 戦争って難しい。


「せめてホバーボードがもう一つあれば、空から偵察できたんだけどな」


 ただし、敵の地上部隊に単騎で探りを入れるのはリスクが大きすぎる。

 知里と鵺。

 どちらも空が飛べて、抜群に強い。


 小夜子とミウラサキも空中移動はできるみたいだけど、この2人は守備とサポートに向いている。

 もちろん戦っても強いけれど、〝小夜子に人殺しをさせるな〟と勇者直々に厳命されている。


「レモリー、風の精霊術なんかを駆使して、敵陣を隠密偵察なんてことはできないかな?」

「はい。騎乗して偵察となると敵に察知されやすいでしょう。隠密偵察だと確実ですが、徒歩になります。もっとも、敵の移動速度が見当もつかないほど速いとなると、問題です」


 馬に乗ってレモリーに強行偵察させるのは、さすがにリスクが大きすぎる。


「直行サン、空から偵察ならワタシ行けるヨ」


 そんな中、魚面が偵察を申し出たので、俺は驚いた。


「空から……って魚面。お前飛べたんだっけ。でも、足が万全じゃないし、車椅子で飛行魔法ってのは目立つんじゃないか?」

「新たナ召喚獣と契約を結んダ」

 

 魚面が大きく腕を上げた先に大きな魔方陣が出現した。

 そこから現れたのは、真っ白なグリフォン。


「頭と前脚が鷲で、胴体と後ろ足がライオン! グリフォンだわ!」

「はい。ですが白いグリフォンとは……珍しいですね」

 

 アルビノグリフォンだ。

 深紅の瞳と純白な個体は、元魔王討伐軍の勇者パーティだった小夜子とミウラサキも、初めて見たという。


挿絵(By みてみん)


 グリフォンの真っ白な体躯には、騎乗するための鞍と手綱が取り付けられている。


「カッコいいですわ~♪ でもお魚先生、いつの間に?」

「ヒナサンと協力して契約シタんダ。上級魔神にも匹敵すル強さノ魔獣ダ」

「へえ……ヒナちゃんさんは魔物召喚もできるんだ。グリフォンは俺たちの元いた世界では天上の神々の車を引く神獣とも、黄金の守り手ともいわれている」

「あたくしたち夫婦にふさわしい神獣ですわね♪」


 エルマは小躍りしているが、俺たちには時間がない。


「魚面。決して無理はしないでほしいけど、空から威力偵察を頼めるか?」

「威力偵察……敵の殲滅も可能ダガ?」

「敵の足を止める程度でいい。ちょろっと上空から攻撃してみて、敵に対空装備があったら、すぐに撤退して、その旨を伝えてくれ。くれぐれも無茶はしないで、慎重に戦ってくれ」

「分かっタ」


 地上部隊の戦力がどの程度なのか、知る必要がある。

 敵の中に小夜子やミウラサキに匹敵する戦闘力を持つ者がいたら、きわめて状況は厳しい。


「魚ちゃん。無理しちゃダメよ」

「お魚先生♪ 上空からこの液体を……」


 出撃を前に、魚面と小夜子はハグを交わした。

 そのわきで毒薬入りのビンを持ったエルマがちょろちょろしているが、2人は気にも留めなかった。


 魔王討伐軍の小夜子と元暗殺者の魚面。

 正反対の境遇だけど、2人とも死線をくぐりぬけてきた猛者同士だ。


 ハグには安心感や幸福感を与える効果があるそうだけど、◆

 

「じゃ、直行サン。行ってクルヨ」

「頼んだ」


 俺と魚面は握手を交わした。

 さすがに恋人でもない男女が人前でハグというわけにもいかない。

 エルマが何とも言えない生温かい目で見ているが、気にしない。


「そういえバ、知里サンに〝出撃する際のセリフ〟を教わったので、言ってみる」

 

 魚面は車椅子から、浮遊魔法でグリフォンに乗り移った。

 鞍にまたがり、手綱を取ると、白い魔獣は雄たけびを上げた。


「ワタシは〝魚面〟。グリフォン、出るゾ」


 そう言って魚面を乗せたグリフォンは大空を羽ばたいていった。 

 次回予告

 ※本編には全く関係ありません。


「どうしたエルマ。冴えない顔だな」

「白いグリフォン、ヒナさんの趣味丸出しで、〝いけすかない〟ですわね」

「さっきは小躍りしていたのに、またヒナちゃんさんに対抗意識か?」

「違いますわ。何も純白でなくてもいいじゃないですか!」

「お前だって純白……とまではいかないが、白いコボルトを従えてるだろ。少し腹が出てるけど機転が利く奴」

「ジュリーとグリフォンでは魔物の格が違いますわ!」

「何を言ってるんだエルマよ。成り上がればいいんだよ」

「直行さん♪ たまにはいいこと言うじゃないですかー♪」

「次回の更新は12月11日を予定しています。『白コボルトの成り上がり』お楽しみに」

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