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385話・わたしのおとうさん

挿絵(By みてみん)


 ネンちゃんのお父さんは、樽の中に隠れていた。


「おれは何も盗んじゃいねえよ。言いがかりつけやがって!」

「御用商人たちによれば荷馬車を物色していたと?」

「珍しいモンだから見てただけだ。因縁つけてんじゃねぇ」


 ネンちゃんのお父さんは少しも悪びれた様子はない……。

 反抗的な態度に、自警団の皆も苦笑いだ。


 名前も知らないけど、とりあえずもう敬称をつけるのはやめておこう。

 ネンちゃん父。


「しかし、皆さんはどうしてこの人を庇おうとしたんだ?」


 俺は自警団に尋ねてみた。


「こいつは、あのハーフエルフのガ……いやお子さまの父親でしょう。旦那がひどくやられたときに回復してくれた」

「問題が多い野郎なのは知っていますが、いなくなったら娘さんが悲しむと思いまして」


 自警団の連中は、強面で柄は悪いが性根は優しい。

 ネンちゃんのために、気を回して庇ってくれたのだろう。


 ありがたい話ではあるが、これはこれで面倒なことにつながるおそれがある。


「……実はギッドたちが、彼を探している。庇ってもらったのはありがたいが、ここはやはり捕らえよう」

「コラてめぇ! オレ様を奴らに突き出すつもりかよ」


 ネンちゃん父は、すごい剣幕で声を荒げた。

 眉間にしわを寄せて凄んでみても、せいぜいチンピラにしか見えないが。


「声が大きいと御用商人に知られちゃいますよ」

「……っせーな」

「未遂とはいえ、あなたには窃盗の嫌疑がかけられている。身柄はロンレア自警団が拘束させてもらう」

「んだと?」


 その時だ。

 役場に、血相を変えて、隻眼のエルフが駆け込んできた。

 先日仲間にスカウトした射手兼見張り番のスフィス。

 弓矢を抱えたまま、俺を見ている。


 チンピラと荒くれ者と役人という、人間のごった煮的なところに現れた男性エルフ。

 あまりにも場違いな雰囲気に、一部の役人から失笑が漏れた。


「スフィスか。通信機を持たせたと思うが。連絡があるなら直接来なくていいからあれを使ってくれ」

「このエルフに精霊石なんぞ使わせるな。そんなことより、地上軍の侵攻だ」

「──あり得ない。早すぎる」


 キャメルが降伏文書を携えてロンレア領を出発してから1週間もたっていない。

 そもそも彼女はまだ帰って来てもいない。

 こちらからの手紙を破り捨てて、進軍したとしても徒歩では3日以上はかかるはずだ。


「こちらの使者の行程と、敵の進軍状況の計算が合わない。奴ら前もって進軍の準備をしていたのか……」

「問題は、その進軍速度だ。彼らは〝空間転移魔法〟によって地上軍を送ってきている」 


 〝空間転移魔法〟といえば、召喚術を応用した、ワープのような移動手段だ。


「……編み出したのは勇者自治区のヒナ・メルトエヴァレンスのハズだけど」

「そこまでは知らない。ただ、西の街道に召喚術によるゲートの魔力反応が現れては消え、そのたびに数千規模の兵士たちの気配が近づいてきたのだ」


 俺は一瞬で血の気が引いた。

 湖上からの奇襲に加えて、地上部隊も投入されているとは想像もしていなかった。


「おい! 何言ってるかちっとも意味が分からねえぞ! コラそこのエルフ! 俺の嫁を誰だと思ってる? お前らの女王、ファルフローレンだ」

「……な、なん……だと」


 今度は何だ。

 ネンちゃん父が出した〝嫁〟の名前に、スフィスが激昂している。


「わたしの妹が、なぜ貴様の妻に? そして、村長の娘がなぜ女王になっているんだーー?」

「し、知るかよそんなの」

「貴様は当事者だろうがーー!!」


 スフィスは、ネンちゃん父の胸ぐらを掴み、問答無用でグーパンチを浴びせた。

 あまりにも突然のことに、俺は何が何やら分からない。

 

「痛ぇ! チクショー何しやがる」

「何かしたのはそっちの方だ人間! 妹を! よくも妹おおお!!」


 …………。

 ──とにかく優先順位を確認しよう。

 まずは地上部隊の情報収集と、戦力の確認。

 いや、その前に仲間と連絡を取って緊急ブリーフィングだ。


 俺は、通信機を使ってレモリーを呼び出す。


「レモリー、敵襲だ。地上部隊が〝空間転移〟で進軍してくる。一度シェルターの本陣に集合だ。関係者に連絡を頼む……」

「貴様というやつは! 〝勇者の生まれ変わり〟を自称し、妹を手籠めにした挙句、エルフの部族を統合! 妹を女王の座に即位させただとーー?」

「へへっ。そうさ!」


 俺が話している最中、スフィスとネンちゃん父は揉みくちゃになって口論している。

 何かと気になる点、ツッコミどころ満載のサイドストーリーだが、今はそれどころではない。


 地上部隊が、空間転移魔法を利用して背後から進軍してくるというのだ。

 湖上からの奇襲には、知里を当てて戦闘中だ。


 割ける人員は限られている。

 地上軍への対応は、差し迫って来ていた。


 次回予告

 ※本編とは全く関係ありません。


「はい。直行さまの元の世界には〝コンビニエンスストア〟という、四六時中開いていて、どんなものでも扱う道具屋があるとか」

「お、おう」

「耳聡いですわねレモリー♪ 食品はもちろん、武器や防具も扱っていますわ♪」

「本当か? 武器はないだろ。ウソ言うなよエルマ」

「ソシャゲの課金用のプリペイドカードも扱っていますから、武器屋とも冒険者ギルドとも言えますわ♪」

「いい加減なこと言うなよ」

「次回の更新は12月9日を予定していますわ♪」

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