384話・ロンレア領の騒乱
ロンレア領の役場前広場は騒然としていた。
一部の御用商人の従者と一部の護衛が暴徒化して、ロンレア自警団ともみ合いになっていた。
「あのクズ野郎を出せと言っている!」
「……るせぇ! オレたちは何も知らねえって言ってんだろ」
「匿ってるのは知ってる! 早く連れて来い!」
激高する従者と、ケンカ腰にそれに答える自警団。
ところどころに割れたガラス瓶や木の器などが散乱している。
いまにも殴り合いが始まりそうな雰囲気だ。
想像していたよりも、ずっとひどい有様だ。
俺は通信機を取り出し、ギッドを呼んだ。
「ギッド、いまどこにいる?」
「件のハーフエルフの少女の父親が、御用商人の積み荷を盗もうとして、逃走中です。現在私らは捜索に当たっています」
「俺は役場前だが、一部の従者が暴徒化して、自警団と押し問答になっている」
「街道は封鎖していますから、まだ領内にいるはずです。暴徒はお任せします」
「了解した。発見次第、こちらまで連行してきてくれ」
「承知しました」
……さて。
ギッドとの通話を終えた俺は、従者たちと自警団の間に割って入った。
「誰だてめぇは!」
「領主の直行さまだ! 控えおろう馬鹿野郎」
……なんて紹介の仕方だよ。
「領主代行の直行だ。大体の事情は承知している。犯人は役場の者たちで捜索中だ。ちなみに盗まれたものは何だ?」
「まあ、これは直行さま」
俺の姿を覚えていた赤い帽子の女性商人が近づいてきた。
この人は、いかにもやり手そうな美人女社長といった感じだ。
現代日本にいたら、起業セミナーをやりそうな印象を受ける。
「これはこれは、従者が失礼をいたしました」
「……申し訳ありません」
先ほどまではケンカ腰だった従者が、みるみる大人しくなった。
だが逆を言えば、俺が来るまで、女商人は止めなかったわけだ。
油断できない相手だ。
「盗まれたものについて伺ってもよろしいですか?」
「荷馬車を物色していた男がいたので、声をかけると逃げました」
答えたのは女社長ではなく、護衛の屈強な男だった。
「未遂事件と、いうわけですね。それがどうして、ウチの自警団と押し問答になってしまったのですか?」
「盗っ人が役場に逃げ込んだのを見たからです」
「なるほど……」
俺は、自警団を務める中で、見知った農業ギルドの若い衆に目をやった。
彼には何度か家に肉や野菜を届けてもらったことがある。
言葉遣いも粗野で外見も荒くれ者だが、意外と気配りのできる男だ。
余談だけど、小夜子の大ファンでもある。
「まるで自警団が男を匿っているような言い方をしやすぜ」
「実際そうじゃないのか?」
「んだとゴルァ」
護衛と自警団が再度ヒートアップした。
「まあ、そんなに言うんなら、中を調べてもらったらいいんじゃないか」
「奴らの言うことを聞くのは癪ですが、旦那がいいってんなら、いいでしょう。ただし」
自警団は御用商人の一団を睨みつけると、ぞんざいな態度で案内する。
「中は役人さんたちが働いている。調べるのはいいが仕事の邪魔をするんじゃねぇぞ!」
「……おいおい、客人に対してあまり乱暴な口を聞くなよ」
自警団の態度には、こちらもハラハラしてしまう。
「領主代行どのはお気になさらずに。我らは決して交わらない社会の構成員ですから」
なるほど、御用商人たちも地味に煽ってくる。
それを受けて、護衛や従者たちが挑発的な言動になっていったのだろう。
「客人もその辺りで勘弁してください。では、どなたかが行ってみればいい。護衛の中に虚偽感知の魔法を使える者がいたら、尋問してもらってもいい」
「……!!」
俺がそう言うと、自警団の1人が一瞬ギョッとした表情になった。
一方、護衛商人の従者たちは、
「虚偽感知なんて高度な魔法、誰が使えるか」
「王国を追い出された我らには、魔術師ギルドを頼る術もない」
御用商人ともなれば、虚偽感知魔法の使い手の一人や二人、囲ってそうだとは思ったけど。
「犯人は役場の助役が中心になって追っている。決して匿ってなどはいないよ」
「まあ、領主代行どのがそこまで言うなら、信じよう」
こうして、どうにか大きなトラブルを避けられたものの、問題の根っこは解決していない。
それどころか、下手をしたらこじれてしまいかねない状況だ。
「さっきの自警団の態度で分かったんだけど、お前たちネンちゃんのお父さんを匿っているな」
俺は御用商人が離れたのを確認すると、小声で尋ねた。
次回予告
※本編とは全く関係ありません。
「知里さん。元の世界にいた頃はテレビゲーム好きだったんだろ?」
「まあね。主にRPGだけど」
「たまにはゲームやりたくなったりしないのか?」
「この世界はRPGみたいなものだし」
「知里さんチート能力者だし超レベル高いもんな。リアル俺TUEEEだもんな」
「まあね」
「ハッキリ言うのすげえよ」
「そうね。こういうのは言い切らないとね」
「決闘裁判では不戦敗でしたけどね♪」
「エルマ、いきなり出てきていらんこと言うな!」
「次回の更新は12月7日を予定しています『エルマ危うし! クリスマスツリーの日は地獄日和』お楽しみに」
「あんまりですわ~♪」




