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380話・例のセーターを着た小夜子は、初撃を防がないといけない

挿絵(By みてみん)


 ──ロンレア領。


 中央湖の南岸に面する湖畔では、例のセーターを着た小夜子が勇者の太刀〝濡れ烏〟を構えていた。


「直行くん、このセーター、ちょっと動くとポロリといきそうじゃない?」

「お、おう。小夜子さんがそれ着て戦ったら、すっごいバリアが張れるんじゃないかってエルマの奴が言うもんだから……」


 そして小夜子の周りには、水産ギルドの若い衆が群がっている。


 噂のビキニ鎧パトロール女子を間近で見る好機と考えたのだろう。


 今回はビキニではなく例のセーターから、こぼれ落ちそうに揺れるオッパイとお尻。男たちの視線は小夜子に釘付けだ。

 どうしようもないスケベだが、腕っぷしには自信があるのだろう。


 しかし敵の初撃は空襲。空から焼き払う広範囲攻撃だ……。


「水産ギルドの皆さん、避難してください! ここは間もなく戦場になりますよ」


「いやだぜ。オレたちも戦ってやらあ!」


「伝説の英雄と領主の旦那が戦うってのに、オレたちがノコノコ逃げていられるかぃ!」


 漁をしていた彼らに敵襲を知らせ、避難を促したものの、ここに残ると言い張って聞かない者たちだった。


「みんな、危ないから下がっててよ!」

「怪我ではすまないかもしれない。シェルターに避難してほしい!」


 小夜子も俺も、彼らを説得するものの、聴く耳を持ってくれない。


「オレたちは湖と共にある。ここで生まれて、ここで漁をして暮らしている」

「敵が来たら、誰が網や船を守るってんだ?」

「そりゃあ、裸のお姉さんが強いのは知ってるさ」

「でもよ、たった3人で俺たちの財産を守れるのかい? 無理だろう」


 彼らは愛用の銛や、鯨包丁のような刃物で武装している。


 どれほどの戦闘経験があるのかは知らないけど、彼らが想定しているような戦にはまずならないだろう。


「魔導兵士50人が、空からやってきます。たぶん初撃は強烈な魔法弾が撃ち込まれて、この辺りは焼き払われる可能性があります」


「それを弾き返すのがわたしの役目! 漁師さんの命と財産は、絶対に守ってみせるわ!」


 俺たちはあえてそう言ったが、おそらく、敵は真っ先にロンレア邸上空から空爆をかけるだろう。あるいは、工場を先にするかもしれない。


 空からの奇襲は、戦略上の重要拠点を叩かないと意味がない。


 俺たちの作戦は敵の射線上に常にいて、初撃を撃たせ、防ぐこと。次いで知里による逆奇襲だ。


 ところが……。

 水産ギルドの義勇兵たちは計算外だった。

 武装した人たちが集まっていると目立ってしまうし、重要拠点だと思われて攻撃されないとも限らない。


「お願い皆、避難して!」

「何言ってんだよ、裸のお姉さんと一緒に戦うぜ」

「裸って言わないで! はみ出しそうだけどセーターだもん! 避難しないと逮捕するわよ!」


 小夜子が必死でお願いするものの、男たちは聞く耳を持たない。

 避難訓練をしたはずだけど、女たちはともかく、男たちは逃げることを嫌う。


 元々この世界の人たちは血の気が多い。

 平和になった世界で、久しぶりの荒事に燃えているのかもしれない。

 しかも、半裸の女性と共に戦う。

 気持ちは分からなくもないが、彼らの命を預かる身としては、あまりありがたい状況ではない。


「小夜子さん。作戦変更だ。俺たちはロンレア邸の屋根に待機して。この人たちを振り切ろう」

「でも、武装して集まってたら、彼らが先に狙われちゃうわ」

「武装解除を命令しよう。小夜子さんがいなくなれば、彼らだってここにいる必要がな……」


 その時、通信機がけたたましい音を立てた。

 知里からの連絡だ。


「もしもし。そちらの状況は?」

「『他心通』で、作戦の概要を読んだ。敵の初撃は量産型魔王で湖上から領土を焼き払う」

「ロンレア邸空爆じゃないのかよ! 荒っぽい戦術だな」

「まあね。敵の指揮官の魔導士ソロモンのことは知ってるけど、短絡的なところがある奴だからね」


 戦場で起こることは予想外の連続だ。


「お小夜が近くにいたら代われる?」


 俺は、水産ギルドの男たちを説得している小夜子に通信機を渡した。

 彼女はヘッドセットを装着する。

 会話の内容を共有する必要があるため、小夜子の耳に俺は顔を近づけた。


「もしもーし。知里?」

「お小夜。量産型魔王ってのが、光のブレスを吐いて湖畔を焼き払うつもりらしい」 

「……光のブレスって、あの!! どうしてそういうことするのよ!」

「威嚇を兼ねた試験運用だってさ。くだらない」

 

 小夜子の髪からシャンプーの爽やかな香りがする。

 会話の内容とはあまりにミスマッチなので現実感が薄れてしまう。


「それで、わたしはどうしたらいいの?」

「いくらお小夜の障壁でも、魔王のレーザー光線は広範囲すぎて無効化しきれない。だから、初撃が放たれる寸前にあたしが顎に一撃を入れて射角を上にずらす」

「……だけど、それじゃあ、こっちが先に手を出しちゃうことになるんじゃない?」


 ……確かに、小夜子が心配する通り、知里が先に手を出しては専守防衛ではなくなってしまう。

 俺は彼女が装着しているヘッドセットのマイクに口を近づけながら、知里に指示を出そうとするが……。


「うわあ……人の見てる前で接吻かよ。領主の旦那と裸の英雄って、そういう関係だったのか?」

「戦の前に気持ちが昂って一発やっちまおうってのか……噂通り、とんでもねえ恥知らずだ」

「英雄さんの方は人に見られると興奮するど変態と見た。見ろよ、顔が真っ赤だぜ」


 ほとんど顔をくっつけ合っていて、キスをする寸前みたいな絵面なので、唖然とする水産ギルドの男たち。

 しかし、今はそんな体面を気にしている状況ではない。


「知里さん。命には代えられない。ドローンで撮影してるから、自分が映らないように気をつけて。先制攻撃しちゃっていいよ。俺が戦後処理の交渉でうまくやるから、初撃を空に逸らせちゃって」

「了解。難しい注文だけど、どうにかしてみせる」

「知里、ガンバ!」

「お小夜も、ご武運をね。直行、頼むよ」

「おう!」


 そう言って、俺は小夜子から顔を離した。

 水産ギルドからはなぜか拍手が上がっている……。


 

 次回予告


 ※本編とは全く関係ありません。


「皆さまごきげんよう♪ エルマでございますわ♪」

「はい。従者のレモリーです」

「あたくしが用意した例のセーター、小夜子さんお似合いでしたね♪」

「はい。よくお似合いで、まるで豊穣の女神のようでした」

「レモリーも以前着ましたわね♪ どうですかもう一着?」

「いいえ。機能性という点では、多少動きにくい格好ですが」

「それが殿方を喜ばせるのですよ♪ レモリー♪ あ、それチラリ、それチラリと♪」

「いいえ。お嬢様もいかがですか? せっかくなので、ヒナさまと知里さまにも着ていただいて」

「次回の更新は11月29日を予定していますわ♪ 『童○を殺すセーターそろい踏み』お楽しみに♪」

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