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378話・紫の薄霞

 ところが、歴史の波はまた大きく揺れた。

 クロノ王国の先代国王が亡くなり、皇太子ガルガが王に即位。

 宮廷魔術師長たちが廃嫡しようとしたガルガ国王の御代となった。


(我の半生は、両王子の間で揺れた振り子のようなものだ……)


 ソロモンはそう自嘲する。


 ◇ ◆ ◇

 

 ちょうど時を同じくして、勇者トシヒコら魔王討伐軍が魔王を討伐した。

 1000年近く君臨した魔王とその眷属が滅びたことにより、世界は一変する。

 世界中を覆っていた、禍々しい瘴気が跡形もなく消え去ったのだ。


(魔物のいなくなる世など、我には想像だにできなかった……)


 当時のソロモンには何の役職もなく、自身の研究室で禁呪の研究をささやかに続ける毎日だった。

 魔王討伐軍の噂は耳にしていたが、無謀な試みだと鼻で笑っていたものだ。


(我は歴史の転換点を傍観している……) 


 毎年のように人々を苦しめていた流行り病も、その年を境に激減した。

 人々が街道で魔物に襲われることはなくなり、人や物の往来が活発になった。 

 作物もよく実るようになり、家畜が魔物に襲われることもなくなった。


 6年前のあの日を境に、急速に世の中が明るくなっていく。


 国王に即位したばかりのガルガは18歳だった。

 若い王だが、自ら政治を()り行う〝親政〟を宣言する。

 王を支えたのは、同年代の騎士団員を中心とする若手の武人たち。

 皆、貴族の出のエリート層だった。


 廃嫡の陰謀が明るみに出ることはなかったが、魔法を使えないガルガ国王と宮廷魔術師たちとはどうしても反りが合わず、彼らは重く用いられることはなかった。


 王弟ラーと宮廷魔術師組が親密だったというのも関係しているのかもしれない。

 

(我はずっと傍観者で、くすぶっていた……)


挿絵(By みてみん)


 王都は新王都と改められて北方へ遷都された。

 魔王討伐の功績により、トシヒコには正式に「勇者」の称号が与えられた。

 それに伴い、ヒナ・メルトエヴァレンスをはじめとする勇者パーティの主力メンバーにも、()()()()()()()()()()()と引き換えに、一代侯爵の地位が与えられ、領地も拝領した。

 

 これがのちに〝勇者自治区〟と呼ばれる華やかな街になり、クロノ王国、法王庁と並ぶ第三勢力となるなどとは、当時はだれにも予測できなかった。


 思いもよらない世界改革は続いていく。

 彼らの持ち込んだ異世界のインフラ技術は、新しい王都の景観をも劇的に変えていった。

 異世界の超技術と融合し、整備されていく新王都の町並みに、ソロモンは驚くばかりだった。


(……世は恐ろしい勢いで移ろうてゆくのに、我はただそれを眺めているのみ)


 そんなソロモンに転機が訪れたのは、〝ネオ霍去病〟と名乗る男が、いつの間にかガルガ国王の側近を務めるようになったころだ。


 彼は謎の多い男だ。

 ネオ霍去病という名前も、自ら名乗っているもののようで、本当の名前は誰も知らない。

 噂では王族の私生児だというが、これも定かではない。

 確かなのは、この世界に6人しかいない超レアスキル『六神通』のひとつ宿命通(しゅくみょうつう)の持ち主だということだけだ。


 その能力は、 自他の過去の出来事を知ることができるというもの。

 実際には、相手に触れていないと読み取れないという制限はあるものの、使いようによっては容易に他人の弱みを握れる能力でもある。

 そんなネオ霍去病が、不意にソロモンの邸宅にやって来た。 


「小官に禁呪を教えてくれまいか。呪殺系がいい」


 国王の側近ながら自らを小官と卑下する。

 その一方でどこか相手を見下したような尊大なところのあるこの男に、ソロモンは嫌悪感を持った。

 しかし、宿命通(しゅくみょうつう)の持ち主で、国王の側近でもある男を無下にもできない。


「ネオ霍去病殿は他人の過去を知る能力をもつと伺いました。一方、呪殺系魔法は相手の素性を知れば知るほど呪殺できる確率が上がります。相性がよいので、会得なさった暁にはこの世界屈指の禁呪使いとなりましょう」


 当時のソロモンは、何の役職にもついていない〝宮廷魔術師長の養子〟という微妙な立場だった。

 そんな彼は、ネオ霍去病に禁呪を教えることで国王との接点を持てるのではないかと考えた。


 結果的に、この決断がソロモンの運命を切り開いた。

 ネオ霍去病は、さほど魔術の才能に恵まれてはいなかったので、世界屈指の禁呪使いにはなれそうもなかったが、狡猾で目端の利く男であった。


「どうだ貴様、これよりソロモン改と名乗らないか? 小官は〝七福人〟という、異世界の神々を模した特殊な若手実力者による組織を編成中だ。貴様の禁呪の知識と魔法力は、この組織の中でなら存分に活かすことができる」


 ネオ霍去病による特能組織〝七福人〟は、政府高官でありながら全員が偽名を用いる。

 有能ではあるが、さまざまな理由で出自を明らかにできない者たちの集団だった。


「禁呪を活かすだと? どういうことだ」

「わが王国が表沙汰にできない案件をやってもらうことになる」

「我が〝七福人〟入りを断ったら?」

「貴様の父親らの廃嫡の陰謀を、国王陛下に奏上する」


 ソロモンの父親が企てた陰謀は、ネオ霍去病には筒抜けだった。

  

「そうなったら、主犯の宮廷魔術師長は三族まで皆殺しだ」

「……そうなるな」

「ガルガ様の廃嫡は言語道断だが、貴様に罪はないのは存じている。その魔導力で、暗躍してもらうぞ」


 そう言われたら、ソロモンに断る理由はなかった。

 ネオ霍去病麾下の特殊能力者のグループ〝七福人〟。

 その実態はクロノ王国が表立ってできない非道な研究や、人体実験などを行う部門の責任者たちでもある。


 こうして、ソロモン改という名前を得た彼は、スキル結晶や量産型魔王の生成などの裏の事業に関わった。

 その功績が認められ、現在魔導部隊の司令官を務めているが、正規の部隊ではない。

 新しい魔導技術を学んだ者たちの部隊であるため、全員が13~15歳ほどの学徒である。


(そんな中途半端な境遇も、今日の侵攻で終わる……)


 中央湖の向こう側を眺めながら、ソロモンは思った。


 その時、実働部隊を率いる級長から連絡が入った。


「ソロモン閣下! ロンレア領内の対岸に裸の女と、おかしな連中が集まっています!」

「な……」


 一報を聞いたソロモンは、言葉に詰まってしまった。

 



 次回予告

 ※本編とは全く関係ありません。

 

「直行さん♪ マリトッツォの次のスイーツは何が来ると思います?」

「まあ映えるやつだろうな。俺はイタリアンスイーツつながりで貝殻のようなスイーツ、スフォリアテッラを推す」

「見た目がいいデザートと言えば、パフェやプリン・ア・ラ・モードもいいわよ!」

「さすが小夜子さん、骨の髄まで発想が昭和ですわね♪」

「昭和をバカにしないでよ!」

「でもさ、お嬢はそう言うけど、80年代リバイバルだし一周回ってアリかもよ?」

「さすが知里、わかってる~。大っきなパフェは女の子のロマンよ!」

「まあね」 

「さて次回の更新は11月25日を予定しています『恥知らず☆スイーツ三国志』です。お楽しみに」


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