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恥知らずと鬼畜令嬢~ラスボスが倒された後の世界で~  作者: サトミ☆ン
6000万ゼニルの取り引きは危険がいっぱい
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37話・頬杖の大天使

 ワイバーンの眼球に、短剣が突き刺さった。

 続いて大男ボンゴロが、戦斧を飛竜の足に振り下ろす。

 術師ネリーは魔力切れなのか、ひざをついたまま動けないでいる。


 ほんの少し、飛竜の動きが鈍っている……?

 毒が効いているのか……?

 毒蛇などの毒を持っている生き物に毒って効くんだっけ……?

 第2陣の毒矢の装填をどうするか?


 一瞬、迷ったものの俺は皆のMP回復を優先させることにする。

 ポケットに入れていたマナポーションを2本取り出した。

 瓶が割れていないのは、魔力によって防御層が貼られているためか。

 魔王討伐軍用に作られたアイテムだから、頑丈に作られているのだろう。


「レモリー、これを!」  


 まずは近くで倒れていたレモリーに駆け寄り、マナポーションを渡す。


「助かります。直行さま! でも逃げて!」

 

 レモリーが回復アイテムを使ったのを確認しないまま、続く勢いでネリーのところまで駆けていく。

 と、そこで言葉を失った。


「ネリー……?」 


 強烈な一撃を受けたのか、下あごの半分が吹き飛んでいる。

 目に涙を浮かべた彼は、何か言いたそうな瞳でこちらを見ていた。


「……あ、あ」


 どうして、こんな……。

 小さく震えるネリーの血まみれの首に、緑色の光が取りついた。

 これは見覚えがある、風の精霊だ。


「レモリー!」

「はい。風と水の精霊術でネリーさんの止血と呼吸の補助をしました。応急処置ですが、神聖魔法の奇跡または高レベルの回復魔法で治癒は可能です」


 風と水の精霊を従えたレモリーも満身創痍で、特に両腕の傷は深く、出血もおびただしかった。


「……!」

「上よ! 鉤爪攻撃!」

「?」


 レモリーの元に駆け寄ろうとしたとき、知らない女の声が聞こえた。

 と、一瞬遅れてレモリーの頭めがけて巨大な鉤爪が襲い掛かった。

 危ない!

 俺はそのままレモリーに覆いかぶさった。

 背中に鉤爪を受けた。


「グハッ……!」


 飛竜の鉤爪は俺の肩甲骨と胸筋の間にミッチリと食い込み、そのまま空中へ持ち上げられようとしていた。

 だが、レモリーをどうにか(かば)うことができた。

 飛竜に捕まれてしまったが、奴は片方の翼だけで飛ぼうとしているので飛べない。

 羽ばたこうとして大きくバランスを崩し、俺を地面に投げ捨てた。


「ギャフッ!」


 全身に鈍い痛みが走った。

 意識が飛びそうだ。


「お兄さん、気を抜かないで! 右から尻尾の毒針が来る!」

 

 また女の声が響いた。

 その声に反応してとっさにボンゴロが戦斧を構えて飛竜の尻尾をはじいた。


「今の声は?」


 周囲を見回すと、頭上にゴシック調のローランドジャケットにブロンズ色のスチームパンク風ブーツを履いた女子がいて、悪魔種に光弾を撃ち込んでいた。


挿絵(By みてみん)


 この(ひと)とは、間違いなく会ったことがある。

 カフェバー異界風(いかいかぜ)の常連だ。


 いつも奥のテーブルに座り、頬杖をついてワインをがぶ飲みしていた姿が印象に残っている。


 彼女は宙に浮くスチームパンク風ホバーボードのような板の上に立ち、ちょうど俺たちの頭の上の高さで悪魔種と交戦している。 


上級悪魔(グレーターデーモン)が攻撃に移る。全員あたしの下に集まって!」

「お待ちなさい! 飛竜がまだ生きていますわ!」


 拳銃もどきを持ったまま、エルマが木陰から飛び出してきた。


「飛竜なら、もう仕留めてある」 


 ローランドジャケットの彼女は、少し苛立った様子で叫んだ。

 彼女が人差し指に息を吹きかけると、黄金色の光に包まれていた飛竜は、光の粒子になって霧散した。

 一瞬で、ワイバーンはこの世界から消え失せた。


「今のは精霊術か?」

「いいえ、あの光は高位の神聖魔法の『破邪』ですわ」


 レモリーも目を丸くしていた。

 俺にはピンと来なかったけれど、そこにいる誰もが呆気に取られていた。


「い……一撃だお」

「すごい♪ あんなキレイな術式は初めて見ました」

「間違いねえ。このお方は〝頬杖の大天使〟ですぜ!」

 

 護衛の冒険者とエルマがざわつきだした。


「いいからアンタたち! あたしの足元に集まりなさい!」


 それを制するように女は叫んだ。


 俺は動けないネリーを慎重に担いで、とにかく彼女の方に走った。

 ゴシック衣装の(ひと)は、俺たちの頭の上。

 ホバーボードに乗ったまま、悪魔種を見据えて指折り数を数えている。


「神聖なる反射の盾を……反射魔法(リフレクション)!」


 悪魔種が光弾を撃ち込もうとした寸前で、彼女は魔法を発動させた。


 シャボン玉のような光の膜が、俺たちの頭上をキレイに覆った。

 そこに、ものすごい太さのレーザービームが落ちてくる。

 しかし光弾は、光の膜によってはじき返され、そのまま魔物に直撃した。


 悪魔種の体からプスプスと煙が上がっているが、ほとんどダメージはなさそうだ。


「いいえ、相手の魔法攻撃に先んじて、合わせて反射魔法を出すなんて……。あちらの女性はまるで、未来が見えるか、敵の次の手が読めるのかのようです」

「未来が見える? まさかレモリー、そんな『スキル』があるものですか」

「はい。ですが、ひょっとしたら伝説の六神通(ろくじんずう)使い……いえ、まさか。ですが凄まじい魔導士です」


 レモリーもエルマも術者の視点からこの(ひと)の凄さに舌を巻いているようだった


「ちっ……思ったよりも魔法障壁が厚めね」

 

 ゴシックの彼女=「頬杖の大天使」は、次の迎撃モーションに入る。


「奴の魔法障壁を引っぺがさないとダメージは通らなそうね……」



 

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