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372話・王室ご用達たちとの交渉

 俺とレモリーは見張塔に駆けつけた。

 見張りの若い衆と知里が話している。


挿絵(By みてみん)


 その先にはズラーッと並んだ商人たち。

 数は数十人規模と多い。

 ほとんどが成人男性だけど、中には女性の商人もいた。

 皆、いかにも上流階級っぽい物腰だ。


 ほとんどが頭に赤い帽子を被っている。


「この人たちは、クロノ王国を追われた王宮直属の商人ギルドの皆さんだってさ」


 と、知里が状況をかいつまんで説明してくれた。


「いいえ直行さま。赤い帽子は、クロノ王国から正式に許可を得て、王宮に出入りできる商人の証なのです」

「この世界は身分制度がハッキリしてるから、商人の取引先も大体固定化されてる。庶民にはドン・パッティ、貴族にはディンドラッド。で、この人たちは王室専門の商人」


 レモリーと知里が補足してくれた。

 英国の王室ご用達(ロイヤル・ワラント)、日本だと宮内庁ご用達みたいな感じだろうか。


 彼らのずっと後ろには、やたら豪華な荷馬車が十台前後列を連ねている。

 その両脇には、積み荷を守る武装した従者たちが控えていた。


 俺は赤い帽子の商人たちの前に立ち、挨拶をした。


「俺は領主代行の九重 直行です」

「おお、これはこれは……。代理とはいえ、責任者の方においでいただいて恐縮です」


 赤い帽子の商人たちは、こちらを値踏みするような目で見ていた。

 何を考えてようと、知里には筒抜けだけどな。


「直行領主代行殿、単刀直入に言います。われわれを一時的に保護してはいただけませんか?」

「クロノ王国を追われたと伺いましたけど、経緯をお聞かせ願えますか?」


 俺は、着ている者がいちばん豪華で派手な服飾品をぶら下げた初老の男に話しかけた。

 

「あまりに突然なことで、面食らっております」

「突然……というと?」

「われわれは先祖代々クロノ王家に認められて商いをしておりました。遷都にあたりまして新王都への同行も許された、選ばれし家柄です。それが突然、王国で新設された〝情報相〟とやらに就任したネオ霍去病様の進言により、ガルガ陛下から資格を剥奪されてしまいました……」

「あの素性も知れない成り上がりが……」

「〝クロノ七福人〟だか何だか知らないが、陛下に取り入って、やりたい放題なのです」


 初老の男と商人たちは、怒りと悔しさをにじませながら訴えてきた。

 知里も〝クロノ七福人〟と聞いて、表情を曇らせた。

 とはいえ俺には、正直唐突すぎてピンと来ない。


「ちょっと待ってくれ。そんな風に言われても、俺たちにどうしろって言うんだ」


 俺たちにクロノ国王の決定を変えさせることなんて不可能だ。

 まあ、国王が自ら来たら人質に取るから、交渉の内容に加えてもいいけど。

 もちろんそのことは彼らには言えない……。


「1週間ほどここに滞在させてほしいのです。ここから法王庁に使者を送り、庇護を求めます」

「そういうことなら、法王庁に直接行けばいいじゃないか。もちろん、一夜の宿なら提供するが」

「……仰る通りですが、それはそれで危険が大きい」


 初老の男は、周りの商人たちを諭すように目をやった。

 おそらく、彼らの間でも意見が割れているのだろう。


 俺が知里の方を見ると、彼女は頷いた。


「商人どの。お言葉を返すようですが、ウチに滞在する方が危険なのですよ。ガルガ陛下からお触れがあったんです。この土地が近々召し上げられることはご存じでしたか?」

「……それは存じております。長居をするつもりはありません」

 

 彼らには言えないが、ここは戦場になる可能性が大きい。

 だから準備もしてきた。

 下手に出たふりをして、国王が視察に来たところで、拉致する。

 ──これが、俺たちの〝ロンレア領〟防衛プランだ。


 それが予想外のアクシデントに見舞われた。

 新王都の商人たちが突然こんなところに押しかけてきて、滞在したいと言いだすなんて。


「何もわざわざ、俺みたいな異界人の領主代行がいるところを拠点にする必要はないんじゃないですか。法王庁への印象も悪くなってしまうだろうし」


 俺は遠回しに〝お断り〟の意志を伝える。


「ガルガ陛下と法王さまは血を分けた兄弟でいらっしゃいます。従って、法王さまが陛下の言うことを聞いたら、われわれは捕えられ、積み荷を没収される可能性もあります」


 しかし彼らも引き下がらない。

 ここに滞在するとしたら、彼らの安全も保障しないといけないし……。

 俺は、難しい顔をして腕を組んだ。


「もし法王庁にフラれたら、今度はどこに庇護を求めるつもりなんです?」

「そうしたら、勇者自治区でしょうな。勇者トシヒコ様は絢爛豪華な暮らしをしておいでだと伺っております。我らなら、あの方のご要望を満たせるでしょう」

「そうそう、直行代行。あなた様は勇者一行の1人で、ドン・パッティ商会の御曹司と親しいと聞きました。よろしければトシヒコ様と顔をつないでいただきたいのです」


 なるほど、そう来たか。

 法王庁と勇者自治区で条件のいい方に取り入るつもりか。

 しかも俺とミウラサキの関係も知っているようだ。


 俺は知里の方を見る。

 ──万が一、商人たちの話に裏があるならば知らせてほしい。

 彼女は小さく頷いた。


「分かりました。滞在を認めましょう。ただし、武装解除が条件です」


 商人たちのほとんどは丸腰だが、荷馬車の護衛についている者たちは皆、物々しく武装している。

 たとえ彼らの話が事実だとしても、武器を持った他勢力を領内に入れるほど間抜けではない。


「荷馬車の財産は絶対に保証してください。代行どのも元は商人と聞き及んでおります。商材を奪われるのは、命を奪われるに等しいと分かっていただけるはずですからな」

 

 そう言われると、応じざるを得ない。

 戦支度の最中に不安定要素を取り込む羽目になってしまった。


 次回予告

 ※本編とは全く関係ありません。


「ねえ小夜子さん。昭和の暮らしについて聞きたいのですけど♪」

「エルマちゃんにとっては昔のことでも、わたしにとっては今なんだからね」

「それが面白いんじゃないですか♪ 体育の授業ではブルマ履いてウサギ跳びしてましたか?」

「失礼ねえ、もう! タイヤ引きもウサギ跳びも禁止されていたわよ!」

「ブルマは履いていたんですね♪」

「嬉しそうに言わないでよ! 恥ずかしい」

「さて、次回の更新は11月13日を予定しています♪ 小夜子さんのブルマ姿が拝めますわよ♪」

「そんな訳ないじゃない。なに言ってるのよ、もう!」 

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