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368話・奇妙な来客


 回復役のハーフエルフの少女ネンちゃん。

 前線には決して出せないものの、ロンレア防衛の鍵となる人物だ。


 しかし、この子の父親には問題があった。

 一言で言うと、タカり体質なのだ。

 突然やって来て、迷惑料だか慰謝料だかを寄越せという。

 知里がお灸をすえて、大人しくなったものの、油断はならない。


 それに加え、俺の元に意外な人物が尋ねてきた。

 身なりのいい老紳士だ。

 鼻にかけた丸メガネと、撫でつけた髪を後ろで束ねた姿が様になっている。


挿絵(By みてみん)


 その隣には、元冒険者だという屈強な男が立っていた。

 用心棒付き、ということか。


 俺は隣の席に座っていた知里に目配せをした。

 

 確か……古物商〝銀時計〟の店主だったように思う。

 3か月ぶりくらいで会うし、名前も聞いていなかったので、一瞬わからなかった。


 ただ、側にいた用心棒の男は忘れもしない。

 突然俺を一刀の元に斬り捨てようとした男だ。


「立ち話も何です。こちらへ」

 

 俺は特に表情を変えることなく、応接室まで彼らを案内した。

 レモリーに命じて、用心棒の剣は預からせてもらったが。

 

 俺と知里と銀時計店主は会い向かいに座り、店主の後ろに用心棒が立つ。

 緊張感のある空気だ。

 もっとも、俺よりも銀時計側の方がこわばっている様子だ。


「確か、古物商銀時計の店主どのでしたね。その節はお世話になりました」


 彼の店は表向きは古物商だが、裏社会との顔つなぎ役もやっている。

 ロンレア伯と、暗殺者だった魚面とをつないだのも彼だった。


「この度はご結婚おめでとうございます。一度、ご挨拶に伺おうと思っておりました」

「どうもご丁寧に。ですがまあ、単刀直入に行きましょう。本当の要件は何です?」

「──直行ロンレア伯代行。当店は賭けに出ることにしました」

「ほう?」


 俺は興味深そうに身を乗り出すポーズを取った。

 どうせろくなものではない、内心そう思いながら……。


「頭目を捕え、〝鵺〟を壊滅させた話は、当店も聞き及んでおります。〝魚面〟さんを手なずけた手練手管も、鮮やかなものでしたな」

「回りくどいよ、銀ちゃん」


 知里は肩をすくめながら言った。

 なるほど、〝銀ちゃん〟いい呼び名だ。


「そこまで事情通の銀ちゃんさんなら、背後関係についてもアタリがあるんだろうな」


 俺がニヤリと笑うと、銀ちゃんは待ってましたとばかりに揉み手をした。


「ディンドラッド商会を、どうなさるおつもりで?」

「どうもこうもしないよ。貴族様相手のご立派な商いをされているんじゃないかと思います」


 俺はわざと話をはぐらかして銀時計の店主を釣った。


「三男のフィンフ様はクロノ王国に通じていて、〝七福人〟入りを目論んでいるとの噂です」

「〝七福人〟ですって?」


 知里の表情が一瞬でこわばった。


 〝鵺〟襲撃から一夜明けたとき、ヒナたちとクロノ王国について知っている情報を共有した。

 その際に知里は〝七福人〟のメンバーと接触したことを伝えていた。

 クロノ王国の高官でありながら、冒険者を装って遺跡調査に紛れ込んだという。


「あたしが内通者に化けてフィンフを探った際に、クロノ王国についてもカマかけてみたんだ。でも、その時は〝七福人〟なんてのは知らなかったから、詳細は分からなかったんだ」


 たとえ心が読めたとしても、こちら側に情報が不足していたら、敵の人間関係も把握できない。

 知里は悔しそうに唇を噛み締めた。


 しかし、彼女が〝鵺〟と〝透明な蛇〟の襲撃を知らせてくれなかったら、詰んでいた。


「銀時計さん。それってあくまでも〝噂〟ですよね?」

「ええ。後ろ暗い連中の〝噂〟に過ぎません……」


 ……それは、裏社会での話題ということか。

 ヒナちゃんの話だと、クロノ王国は情報統制されているという。

 その手の社会と秘密裏に接点を持ちたいときには、非合法組織などが暗躍する。


「……なるほど、銀ちゃんの推理も一理ある。要するにお気楽だったはずの三男がディンドラッド商会を乗っ取るために、裏社会を通じていろいろ画策していると……?」


 立場的には〝お気楽な三男さま〟だが、上を目指すとなると2人の兄がいる。

 

「はい。お話に口を挟むようで恐縮ですが、ディンドラッド商会の、現会長である長兄もナンバー2の次兄も、堅実なお方です。悪い評判は聞きません」


 お茶を持ってきたレモリーが、話を補足してくれた。

 銀時計の店主は、静かに頷いた。


「左様です。野心家のフィンフ様は、まずは長兄次兄を追い落とし、ディンドラッドの会長職を狙っている。次には、新王都進出を視野に入れ、クロノ王国の七福人入りも狙っている。王国の要人になるためには、せめてディンドラッド商会を率いる立場でないとお話になりませんからな。今回のロンレア領の顛末も、そのような次第で……」

「そんなヤバい情報を持ち込んでくるアンタも、相当後ろ暗いんじゃない」


 そう言いながら知里は席を立ち、俺の背中を指でつついた。

 特殊スキル『他心通』と、『逆流』を併用したテレパシーを行うつもりだ。


(少しも信用できないやつだけど、直行はどうするつもり?)


 ……難しい質問だ。

 彼自身の本当の目的が何であるかを探る必要がある。

 もう少し、話を聞いてみないことには。


 その時、知里の様子に気づいた〝銀ちゃん〟が、ふと話題を変えた。


「そういえばネコチさんというS級冒険者が、指名手配されているのはご存じでしょうか?」


次回予告

※本文とは全く関係ありません。


「知里(ねえ)さん、金貸してくんねえっすか?」

「……スラ、どこの世界にアンタみたいな盗賊にお金を貸す間抜けがいるのよ」

「あっしはもう盗賊じゃねえっすよ」

「だったら何よ?」

「へい。無職? 居候……ですかい?」

「……返すアテはあるの?」

「そりゃあもう、任してくだせえ! 3倍にして返しやすぜ!」

「……次回の更新は11月5日を予定しています。『賭博転落伝☆スライシャー』お楽しみに」

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