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恥知らずと鬼畜令嬢~ラスボスが倒された後の世界で~  作者: サトミ☆ン
6000万ゼニルの取り引きは危険がいっぱい
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36話・吹き矢で飛竜と戦う男

 俺は吹き矢を構えながら、少しずつ戦場に近づいて行った。

 毒矢と猛毒の瓶を持っているので、慎重に行動しないといけない。

 地面をコピーした迷彩柄の幌をすっぽりとかぶり腰を落としてゆっくりと、息を殺して近づいていく。

挿絵(By みてみん)


 エルマはどこだろう? 

 街路樹の陰に隠れて、俺を援護する手はずになっているが、分からない。


 他の仲間たちは戦闘中で、俺たちに気がついてはいないと思う。

 魔物たちにバレてないか、については分からない。

 気づいていないことを祈るばかりだが。


 視線の先ではレモリーと護衛の3人組が必死で戦っている。

 片方の翼を引きちぎられた飛竜(ワイバーン)が、雄たけびを上げながら暴れていた。


 手負いの飛竜(ワイバーン)に対し、レモリーは風と火の精霊術で攻撃を仕掛ける。

 狙いは一方の翼で、そこだけを狙って執拗に術攻撃を続けていた。

 貴族の従者は戦闘の心得もあるのか、慣れた動きだった。


 護衛3人も現役の冒険者だけあって、うまくレモリーをサポートしていた。


 飛竜が、(わし)のような2本の足で飛びかかる。

 それを、大男の戦士ボンゴロが戦斧で受け止める。

 しかし飛竜はサソリのような尻尾で突き刺してきたり、トリッキーな攻撃を見せる。

 大柄でゆったりしているボンゴロは、その動きについていけない。


「気をつけろ! 飛竜の尻尾には猛毒がありやがるぜ!」


 毒……だと?

 盗賊のスライシャーが尻尾に向かって矢を放ち、尾の攻撃をはじいた。

 その隙に、術者ネリーが土の属性魔法を叩き込む。


 護衛の3人組は、息の合ったコンビネーションで飛竜の猛攻をよくしのいでいた。

 一方のレモリーは中空に浮いている悪魔種にも精霊魔法を撃ちこむものの、あまり効果はなかった。


 遠くから見た限りでは、レモリーたちは善戦していた。

 しかし足を運ぶごとに、そこが地獄絵図と化していることに気づく。

 肉と髪の毛が焼けたような嫌な臭いが周囲に充満している。

 街道の石畳は衝撃波でところどころ剥がれており、黒い煙が上がっていた。


 中空から見下ろしている悪魔(デーモン)は、かすり傷ひとつ負っていない。

 レモリーが風や炎、光の精霊術で攻撃し続けているが、敵はほとんど相手にもせず腕を組んだまま遠くを見ている。

 その視線の先に何があるのか……ここからでは分からない。


 ……!


 俺の接近に気づいたのか、悪魔(デーモン)が一瞬こちらを見たような気がしたが、さほど関心を持っていないようだった。

 奴がつまらなそうに指を立てると、光の柱のような光弾が地上に降り注いだ。


「クゥッ……!」 


 レモリーはもんどりを打って倒れた。

 ボロボロになった濃紺のドレスを鮮血で染めながら、すぐさま体勢を立て直す。

 風の精霊術で敵の光弾の軌道を変えつつ、同時に飛竜の攻撃も回避している。

 ギリギリの状態だ。


(……どうにか、しないと)


 俺は少しずつ距離を縮めていく。

 吹き矢程度の毒で、この魔物どもを弱らせることができるのか不安になってきたが。


 飛竜(ワイバーン)は手負いだが、頭上には、ほぼ無傷の悪魔(デーモン)がいる。

 地上で交戦中の飛竜まではおよそ15m。

 悪魔はその奥の中空、おおよそ電柱くらいの高さにいる。


 飛竜と対峙する3人組も傷だらけだ。

 攻撃を回避しているように見えても、少しずつ肉体的ダメージを受けている。


「ギャッ!」


 右腕をズタズタにされた盗賊スライシャーは弓矢が放てず、それを投げ捨てた。

 左手に構えた短剣と、矢じりを口にくわえて態勢を整えていた。


 魔法力の尽きた術者ネリーは片足跳びで回避するのが精いっぱいで、攻撃の動作に入れない。


 戦士ボンゴロは、皆の盾となったのか血まみれで、立っているのが精いっぱいだ。


 状況としてはこちらが圧倒的に不利だった。


「くそっ!」


 俺はこらえきれずに10mほどの距離から地上の飛竜(ワイバーン)に対して吹き矢を構えた。

 腹式呼吸、深呼吸して狙いを定める。

 筒に息を吹き込んだ。


「……フッ!」


 体の中心を狙ったが、矢が小さすぎるため、手ごたえは分からない。

 当たった、とは思うのだが……外したのか?

 奴は身じろぎもしないで、ギロリとこちらを見た……。


 毒は効かないのか……?


 俺は飛竜にばかり注視していたため、頭上の悪魔種の挙動を見落としていた。

 悪魔が軽く腕を薙ぎ払う。

 複数の衝撃波が目の前に迫った。


「……?」


 一瞬、何が起こっているのかわからずに、俺は衝撃波で飛ばされていた。


 流れるプールみたいな押し出される感じがあったかと思うと、石畳の街道にたたきつけられた。

 膝と肘を擦り付けてしまい、摩擦熱と痛みがジンジンくる。


 今までの人生で感じたことのない痛みの連続に、感覚がマヒしてしまいそうだ。

 これが、魔物との戦い……。

 エルマは街路樹の陰にうまく隠れていたのか、どうやら無事だ。


 しかし俺は一撃でこの有様だ。

 吹き矢と毒で武装したつもりになって駆けつけたが、あまりにも軽率だったと思い知った。


「直行さま?」


 レモリーの声がするけれども、姿が見えない。

 頭上からは飛びかかるようにワイバーンの鉤爪が襲ってきていた。

 体が反応できない。


「……直行さま、どうして?」


 俺の代わりに飛竜の鉤爪を受けたのはレモリーだった。

 両腕をクロスして飛竜の攻撃を止めた。

 当然、肩や肘に鉤爪が大きく食い込み、相当な血が流れた。


 ──ああ俺の、くそ間抜けが!


 俺は後悔と罪悪感で胸が押しつぶされそうになったが、いまは感傷に浸ってはいられない。

 しかし手が震えてしまって次の毒矢の装填ができない。

 吹き口に毒がついてしまったら俺もお陀仏。

 完全な作戦ミスだ。 


 俺があたふたしている間に、飛竜は傷だらけの翼で少しだけ舞い上がると、レモリーを地面に叩きつけた。

 そして強烈な尻尾の一撃を彼女に見舞った。


 確か、毒があると言ってたが……


 レモリーは3メートルくらい飛ばされて街路樹に激突。

 その衝撃で胸を打ったのか、口から血を吐いた。


「……ッシャアアア!」


 ワイバーンが俺かレモリー、どちらにとどめを刺すか迷った一瞬の隙を、盗賊スライシャーは見逃さなかった。 

 素早い身のこなしで長い首筋に飛びつくと、左手に持っていた短剣を、飛竜の目玉に突き立てたのだ。




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[良い点] さすがは熟練の冒険者!一瞬の隙を見逃しませんでした!
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