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366話・新たなる脅威


 ──襲撃の翌日。

 ヒナは潜水艦で勇者自治区へ帰った。

 近くクロノ王国の要人との会合があるという。


 俺たちは地下の潜水艦乗り場まで行って彼女を見送った。


「クロノ王国の情報は、どうしたって知りたい。お願いできる?」

「……そうね。カレム君に定期的に伝えるよ」


 英雄〝速度の王〟が伝令役となってくれた。


「ヒナちゃんから、ロンレア領への侵略を止めるように言えないの?」

「いくらママの頼みでも、政治的にそれは難しいな」

 

 ヒナは朝からずっと厳しい顔をしていた。

 〝鵺〟の襲来を退けたものの、ロンレア領はきな臭い。

 だからといって、勇者自治区としては表立っては手助けできないもどかしさがある。


 まあ、裏を返せば俺とエルマに全幅の信頼を寄せられない面もあるのだろう。

 キャメルからの連絡もない。


「ヒナちゃんさん。俺たちだけでは心もとないけど、この局面だけは絶対に乗り気ってみせる」


 俺は、自分に言い聞かせるようにヒナに告げた。


「わたしもいるから大丈夫よ!」

「ママのことは少し心配だけど、直行君のことは信頼してる。ママのこと、頼んだからね」


 ヒナと固く握手を交わす。

 彼女は颯爽と潜水艦に乗り込んでいった。

 その様子を、柱の陰から見ていた知里が小さく手を振った。


「ちーちゃん! 今度ゆっくり自治区に遊びに来てよ! カラオケもあるから!」

「……まぁ。行けたら行くよ。生きてたらね……」


 芸能人スマイルのヒナと、陰のある微笑で皮肉っぽく応える知里。

 対照的ではあるものの、何となく気心の知れた感じもある雰囲気は、悪くないと思った。


挿絵(By みてみん)


 ◇ ◆ ◇


 ヒナを見送った後、俺は執務室で手紙を書いた。

 あて先はディンドラッド商会〝お気楽な三男さま〟ことフィンフ。


 レモリーに口頭で伝えて、文字に起こしてもらう。

 この世界では、俺が日本語で書いても異世界の連中にも意味が伝わる。

 だけど、それをしないのは、できるだけ異世界人VS現地人という状況を避けたいからだ。


「親愛なる〝お気楽な三男さま〟へ。〝鵺〟は壊滅させた。頭目も捕えてある。〝あなた方の背後にいる存在〟も知った。在庫一掃の閉店セールの……用意? 準備? 気の利いた言い回しはないかレモリー?」


 実際には、〝背後にいる存在〟なんて知らない。

 だが、間違いなくクロノ王国が後ろ盾だろう。

 〝猿〟と〝蛇〟への尋問で、どこまでわかるか定かではないが、ハッタリだけはかましておく。


 三男だけの関与か、ディンドラッド全体の方針かはどちらでもいい。


「いいえ。直行さま。ディンドラッド商会を壊滅させるおつもりですか? 件の商会は旧王都の有力貴族などとも懇意です。彼らを敵に回すのは得策ではないかと……」


 レモリーの意見ももっともだ。

 しかし、俺は首を振った。


「今回、クロノ王国とやり合い、勝ったところで俺は異界人だ。どのみち快く思われない。なら、ディンドラッドを喰らって第三勢力としてのし上がるのも手だ」 


 この場にエルマがいたら小躍りしそうな勇ましい提案だが、実際のところは難しい。

 ただ、ロンレア伯の態度を見る限り、融和策は現実的ではない。


「有無を言わせない状況を作らないと舐められる。なぜなら俺たちには大した実績がないからだ」


 魔王を倒したわけでも、技術革新を起こしたわけでもない。

 伯爵令嬢との婚姻関係で領主になった異界人にすぎない。


 スキル結晶の密貿易を知られるわけにもいかないから、金の使い道にも注意しないといけない。


「ディンドラッド、フィンフがどう動いてくるかは分からないけど……。鵺を捕らえたことは、奴らにとってダメージがデカいだろう」

「はい。ですが、今後も地味な形で嫌がらせが来るかもしれません」

「そうだな。井戸に毒でも入れられたら犠牲者が出る」


 単純に犬猫の死骸を投げ込まれても、迷惑この上ない。


「ですが幸い、当地は人の出入りはさほどでもなく、よそ者は目立ちますので、ギッドさまにその旨をお伝えすればよろしいかと」

「問題は夜だな。農業ギルドの若い衆あたりで自警団を結成して、夜回りを頼むか」


 こうして、戦支度と並行した監視体制を敷くことになった。

 小夜子によるパトロールも継続し、村人の安全を守る。


 その成果は、数日もせずに現れた。

 見慣れない中年男が、領内の酒場を訪れたという。

 結成したばかりの自警団が詰問したところ、逃げたので捕らえたそうだ。


 一報を受け、俺は知里を伴って役場まで急いだ。

 俺は自転車で、知里はホバーボードだ。


「……で、その不審者がこの人か」

「あー! てめぇは……名前は知らねえけど知ってるぞ! 誰だったけなぁ……」


 俺の目の前に差し出されたのは、見知った顔の男だ。

 後ろ手に縛られている、ダメっぽい感じの中年男。


 ネンちゃんの父親だった。


 次回予告

※本編とは関係ありません。

 

「ねえ知里さん。カラオケ好きなんですか?」

「まぁね」

「どんな歌うたうんですか?」

「企業秘密ってことで」

「知里ー。秘密にしておくことないじゃない! 知里のあの歌、迫力があってわたし好きよ!」

「へー。小夜子さん、何て曲ですか?」

「曲名は知らないけど、〝輪廻を~廻り~な~さ~い~!〟みたいな」 

「あー、『魂のリフレイン』ですわー!」

「……知里さん、ハンパねえ選曲だな」


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