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恥知らずと鬼畜令嬢~ラスボスが倒された後の世界で~  作者: サトミ☆ン
〝鵺〟との戦い・見世物小屋の死闘
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361話・魚面と鵺3

挿絵(By みてみん)


 猿の放った呪殺魔法が、ワタシの命を刈り取ろうとしていた。

 この系統の魔法は、対象の情報を知れば知るほど、成功率が上がる。


 13歳から行動を共にし、育てられたワタシにとっては、圧倒的に不利な状況だ。

 しかし、猿の呪殺魔法は、ワタシの命を奪うことはなかった。


「ほう……対呪殺の術式か。あの黒猫娘の仕業だな」


 知里サンが、闇魔法による耐呪殺の術式をかけてくれていたことで、助かった。

 しかし確率が下がるとはいえ、猿の呪殺を絶対に防げるものではない。


「猿。ワタシにはアナタの知らないワタシの一面がアル」

「ほざけ! 貴様の本来の姿はこれだろうが!」


 〝猿〟は、幻術でワタシの姿を暗殺者集団〝鵺〟の一員だったころの、魚仮面の姿に変えた。


 思い出したくもない暗殺者としての訓練の日々。

 他に生きる術がなかったとはいえ、仕事として何人もの人間の命を奪ってしまった自分に、嫌悪感と懺悔の気持ちがある。

 現代日本に生きていたという前世の記憶はほとんどないけれど、人として守るべき一線としてワタシの心に残っている。

 だから育ててくれた猿を裏切ったことになったとしても、彼の手から逃れたことに後悔はない。

 直行サンに救われてからの日々は、幸せなどという言葉では言い切れないほど、楽しかった。

 

「ふん。まあ、お前なぞはどうとでもなる。異界の幻獣〝鵺〟を失うのは大打撃だが、領主夫妻は仕留められた」


 猿はロンレア邸もろとも吹き飛ばそうとしている鵺を眺めながら笑った。

 まさか組織の象徴たる幻獣をも自爆させるとは、猿の執念には恐れ入る。


「逃げるのはやめだ。こちらも手持ちを出し尽くすが、あの規格外の魔導士2人も仕留めてやらねば」


 そう言うと猿は、召喚術で巨大毒ガエルを4体召喚した。

 すさまじい異臭に、レモリーサンが吐きそうになっている。

 あの毒ガエルの内臓や血液は猛毒で、触れただけで人を死に至らしめることができる。


 ワタシは演習でしか見たことがなかったが、傭兵をしていた一世代前の鵺は、毒ガエルを使って戦場を大いに荒らしていたという。

 敵味方の双方に死傷者を多数出してしまうので、鵺は忌み嫌われていたようだ。


「お前たちの仲間が〝敵意感知〟の魔法を持っていなかったら、この方法で仕留める手もあったな……」


 猿は持っていたナイフで、巨大毒ガエルの腹を引き裂いていく。

 さらにすさまじい刺激臭と共に臓物がまき散らされた。 


「レモリーサン、逃げテ!」


 猿はもちろん、ワタシも暗殺者時代の訓練で、毒に対する耐性を身につけているが、彼女に毒耐性はないだろう。


「いいえ。何とかします!」

 

 レモリーサンは水の精霊術で自身をコーティングしてカエルの毒から身を守っている。

 しかし、辛そうだ。

 ナイフの毒がまだ身体に残っているのだろうか。

 だとしたら、傷口をえぐりきれなかったワタシのミスだ。


「さて面無よ。お前には囮になってもらう」


 一瞬、よそ見をしたワタシの隙を、猿は見逃さなかった。

 ワタシのこめかみを指で突くと、制約の呪いをかけた。


「単純な呪いだ。他言無用」


 そして禁呪を用いて、ワタシの影の中に潜った。

 その際に再度幻覚を用い、ワタシをのっぺらぼうの顔にする。


「魚面サン! 私はどうしたら!」

「……話せなイ。ごめん」


 レモリーサンが叫んだけれど、ワタシには応えることができなかった。

 制約の術式により、状況を話すことができなくなってしまったのだ。


 ──もはや形振り構わなくなった猿の執念。

 

 組織の象徴である召喚獣を自爆攻撃に用い、ワタシを囮にして罠を張った。

 この猛毒で、ヒナサンと知里サンをも始末しようとしている。


 鵺は本来、そこまで依頼者に忠誠を尽くす集団ではない。

 これは、猿本人の意地なのだろう。


 ロンレア屋敷もろとも、直行サンたちを滅ぼすつもりだ。


 しかし、向こうには知里サンとヒナサンがいる。

 2人ならきっとロンレア屋敷を守れるだろう。

 しかし、こちらにやってきたときに、影の中に潜んだ猿は、不意打ちを仕掛けるつもりだ。


 ワタシがそれを知らせたら、呪いが発動してワタシは命を失う。

 直行サンと約束したから、命を粗末にするわけにはいかない。


 ワタシがやるべきことはひとつ。

 

 皆に、全幅の信頼を寄せることだ。

 ワタシの能力はたかが知れている。

 だから、じたばたしない。


 ワタシは気づかれないように、自分に呪縛魔法をかけた。

 自分も動けなくなるが、ワタシの影に潜った猿もまた動けない。


 猿は決して逃がさない。


 知里サンかヒナサンが戦況を切り開いたときに、すぐに動けるように解除の術式も構成しておく。

 臨機応変に動くのは苦手だけど、レモリーサンを助けたり猿を殺す手助けをする。


 戦い方が下手だと言われたワタシだけど、直行サンたちの戦いから学んだことはある。

 鵺とは違い、知里サンたちは仲間を見捨てない。

 だから安心して命を預けられるのだ。


(影の中にイルかつてノ師ヨ。ワタシたちが勝つヨ)



次回予告

※本編とはまったく関係ありません。


「知里さんって、いつもワイン飲んでるけど大丈夫か?」

「大丈夫ってなにが?」

「そのうち体壊すから控えた方がいいんじゃないかと思ってな」

「まあね……」

「あれ、知里さんて二十歳は過ぎてるんだよな?」

「たぶんね……」

「いや、そこはキチンと明言しないと。フィクションの世界とはいえ、コンプライアンスは年々厳しくなっているからな」

「そうね。次回の更新は10月22日を予定しています」

「知里さん、お酒はほどほどにな」

「直行、あたしのことはいいからレモリー姐さんとの関係、ハッキリさせなさいよ。いつまでも愛人枠じゃ気の毒よ」

「お、おう……」

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