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恥知らずと鬼畜令嬢~ラスボスが倒された後の世界で~  作者: サトミ☆ン
〝鵺〟との戦い・見世物小屋の死闘
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358話・頭上注意

 ロンレア邸の大広間。

 俺たちはミウラサキにガードされながら、窓の外で行われている激しい戦闘をただ見ていた。 


挿絵(By みてみん)


「見てください直行さん。あたくしたちの勝利は間近ですわ♪」


 ナイトスコープのついた双眼鏡を手にしたエルマが、興奮気味で叫んだ。


「そんなのどこから持ってきたんたよ。まさか召喚したのか?」

「潜水艦の乗組員からお借りしましたわ♪ ほら、知里さんがお猿さんの頭を踏みつけましたわ♪ 容赦ないですわねー♪ 知里さん、きっと〝ドS〟なんでしょうね♪」

「しょうもないこと言ってないで、俺にも見せろ」


 俺はエルマから双眼鏡を半ばひったくるようにして状況を確認した。


「ちなみにレモリーはМです。あ、当然ご存じでしたわよね直行さん♪」


 俺はエルマの戯言は完全無視して、戦局を見た。

 想像していた暗視カメラの映像よりも、ずっとクリアーなので驚いた。


「おそらく魔法の力ですわ♪ 異世界と現代科学の融合……。レモリーにも、現代日本の変態文化を調教するんですか直行さん」

「うるさいなエルマ。耳元で大きな声を出すなよ」


 屋根の上では、伝説上の怪物〝鵺〟とヒナの激しい戦いが続いていた。

 鵺は隙あらばこの屋敷もろとも電撃攻撃で俺たちを消し炭にしようとする。


 先ほどから、雷が落ちるような轟音と共に、窓の外が閃光のように何度も光っている。


 ヒナはマジックタクトを華麗に操り、電撃を無効化しているようだ。

 そして鵺の隙をついて迎撃。

 少しずつだが、ダメージを与え続けている。


 それにしても、ヒナちゃんは凄い。

 幻相手にも全力で魔法戦を挑み、今も巨大な敵と交戦中だ。

 体力と魔力量は底が知れない。


 俺は双眼鏡の方向を変えて見回す。


 ずっと向こうでは、知里が闇の翼を広げ、飛んでいる。

 地上にはレモリーと車椅子の魚面がいるようだ。


 彼女たちの動線の先にいるのが、〝猿〟の本体なのかもしれない。


 先行する知里は、紫色のオーラをまとい、漆黒の大きな翼を広げている。

 遠くから見ると本物の悪魔のようだ。

 ……本人の前では、思っただけでアウトだけど。




 一方、工場方面は何も見えない。

 砂塵や轟音や火の手が上がらないということは、少なくとも工場に深刻な打撃はなさそうだ。


 ……しかし、工場を壊されたり地下の研究室が敵に知られでもしたら目も当てられない。

 小夜子なら間違いなく守りきるとは思うけど、情報がないのが不安だ。

 

「エルマ。すまないがコボルトを工場に派遣して状況を知りたい。頼めるか?」

「……ですわね。あたくしもそう思っておりました♪」


 そう言うとエルマは、白と黒のコボルト2体のうち、白い方にメモを持たせて走らせた。

 白いのは中年腹が出てるけど、大丈夫なのか?


「白でいいのか? 黒い奴の方が引き締まっていて、敏捷性が高そうに思えるけど……」

「情報収集は敏捷性よりも正確さが大事ですわ♪ ジャリーは中年体形ですが観察力がありますから♪」

「なるほど。さすがエルマ」

「当然ですわ♪」 

 

 ──そのときだ。


 窓ガラスを破って、知里が大広間に飛び込んできた。

 猿を追っていたはずなのに、急遽引き返してきた様子で、切羽詰まった表情だ。


「召喚獣が自爆攻撃を目論んでいる! 総員ただちに命を守る行動を! ゴーレーサーはあたしと来て援護して頂戴!」


 知里は膝立ちの格好で着地すると、珍しく大声を張り上げた。


「了解!」


 爆走戦士ゴーレーサーのコスプレで素性を隠しているミウラサキが呼応する。


「直行! お嬢! あんたたちはキングだ。取られたらゲームは終わる。念のため透明な蛇の暗殺に注意して!」


 知里はそれだけ言うと、割れた窓から飛び出してヒナに加勢した。

 屋根の上の方から、派手な爆発音が聞こえる。


「当家の高額窓ガラスが……屋根が……」

「エルマ、今はそんな状況じゃない。俺たちがやられたら、ロンレア領は完全にクロノ王国の直轄地にされちまうぞ」

 

 十中八九、蛇の襲撃はないと俺は見ている。

 だが、油断は禁物だ。


 そんな中、クバラ翁以下と農業ギルドの面々が俺たちを取り囲んだ。


「……どうかしましたか?」

「クバラお爺ちゃま?」

「……敵の中に透明になれる奴がいると聞きやした。僭越ながら、肉の壁を務めさせていただきやす」

「その蛇って奴は幽体のアンデッドでもなさそうだし、実体があれば肉の壁は有効ですぜ」

「農業ギルドの誇りにかけて、そう易々とは大将首は取らせませんぜ」

「少々むさくるしいですが、体張らせていただきます」

 

 クバラ翁は不敵に笑い、荒くれ者の若い衆たちも続く。

 確かに透明になれるといっても、実体まで消せるわけではない。


「肉の壁のお役目、大義ですわ♪ 皆の覚悟、肉の壁、感謝いたします♪」

 

 エルマは肉の壁という表現が気に入ったのか、2回も言って労をねぎらった。

 もっとも、こういう他者の犠牲の上で成り立つ戦術など、決して行うべきではない。 


「ですが農業ギルドの皆さん、いざとなったら自分の命を最優先で。敵の自爆攻撃にも備えてください」


 そう言って俺は、戦いの最後の局面に備えた。 

次回予告


※本編とは関係ありません


「直行さん、マトリッツォ食べたことありますか?」

「待てエルマ。マリトッツォの間違いだろ」

「生クリームたっぷり挟んだブリオッシュ生地のパンよね。ヒナから聞いた」

「……マトリッツォとも言うんですのよ。勇者自治区の人が言ってましたわ♪」

「エルマよ、間違いは誰にでもある。変に言いつくろうのはみっともないぞ」

「直行さんの聞き違いですわ♪ あたくしマトリッツォなんて言ってませんわ♪ マ・リ・ト・ッ・ツ・ォって言いましたのよ♪」

「……お嬢」

「次回の更新は10月16日を予定しています」

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