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恥知らずと鬼畜令嬢~ラスボスが倒された後の世界で~  作者: サトミ☆ン
〝鵺〟との戦い・見世物小屋の死闘
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357話・黒猫と雌豹と女狐と

挿絵(By みてみん) 


 〝猿〟は、ロンレア邸を飛び出し、草むらに隠れた。

 身を隠しつつ、自信に跳ね返って来た〝呪い〟を打ち払う。


 ──まさか呪殺魔法を闇魔法で跳ね返されるとは思ってもみなかった。


(敵には禁呪の使い手がいるのか……。厄介だな) 


 息を殺して草むらに身を隠した猿は、ただならぬ相手に戦慄を覚えた。


(魚にかけた呪殺を禁呪で跳ね返すとは、すさまじい闇の資質を備えた術者がいる)


 完全に計算外だった。

 初戦では虎の子の腐敗竜を裸の女戦士に両断され、堤の被害も最小に抑えられた。

 手練れの暗殺者〝蛇〟も仕留められた。


 幻影魔法で敵の目をくらませておいた隙に、〝虎〟による工場破壊を目論んだが……。


(火の手が上がらないところをみると、虎もしくじったか……)


 世界でもっとも腕が立つと言われた暗殺者集団〝鵺〟が、壊滅寸前まで追い込まれている。


(先代の〝猿〟から譲り受けた異界の妖獣も、もはやこれまでか……)


 屋敷の上空では、猿の持つ最高戦力の妖獣が、仮面の女賢者に討ち取られようとしていた。

 数十本のマジックタクトを手足のように操り、あらゆる距離から攻撃を仕掛ける雌豹のような肢体。


 しなやかに伸びた四肢から、踊るように魔法を繰り出す姿は、そこが舞台でもあるかのように輝いている。


 かつて1000人もの軍勢を壊滅させた妖獣・鵺が、たった独りの女賢者に翻弄されていた。


 ──恐るべき奴らだ。

 

 たかが辺境領に、これほどの人材が集結しているとは思ってもいなかった。

 裸の女狂戦士も、この雌豹な賢者も、禁呪使いとおぼしき女魔導士も、少なくともSランク以上の腕前だ。


 恥知らずと揶揄される異界人の遊び人の元へ、知らぬ間にこれほどの人材が集まっていたとは。


(唯事ではないな。侵略戦争でも始めるつもりか……)


 猿は、どうあっても依頼主に報告しなくてはならないと判断した。


 手持ちの召喚獣の中で、適任と思われる霊体型の魔物スペクターを呼び出す。

 実体を持たない不死系の魔物で、壁や障害物をすり抜けることができる。


(行け。フィンフ殿の元にわが意を伝えよ)


 猿は胸のプロテクターにつけていた赤い宝石を外すと、幽体の魔物に手渡した。

 この宝石は、魔力による記憶装置で、これまでの戦闘で()()()()()()映像が、立体映像で再生されるものだ。 


 それを受け取った幽体は彩度を落とし、闇に紛れるように姿を消した。


(さて。我も退散するとしよう。あれほどの手練れに結束されたら、とても敵わん)


 猿は草むらに身を置きながら、這うような姿勢で魔法による高速移動を始めた。


 ◇ ◆ ◇


「見えた! 一気に行くよ!」


 先陣を切ったのは、知里だ。

 闇の翼を背中に出現させ、悪魔のような姿で〝猿〟に迫る。


 知里が草むらの中を高速で這う敵を、上空からとらえた。


 対する〝猿〟は、死の呪いを浴びせて抵抗する。

 標的は知里ではなく、魚面(うおづら)だ。


(魚さえ落とせば、このチームには隙が生まれる)


 頭上を飛ぶ黒い翼の生えた黒猫のような小娘は、詳しい素性が知れない上に、〝猿〟よりも強い禁呪の使い手だ。

 しかし魚面であれば、猿が全てを与えたようなものだ。


 13歳で顔と記憶を奪われた転生者に、魚の名と暗殺者として生きる術を与えた。


 魚面にとって猿は、まさに親のような存在。

 そして呪殺は相手を熟知していればいるほど効きやすい。


 だから猿は執拗に魚面を呪う。


 殺しはしない。両手を爆破させれば、こいつらは救護に行かざるを得ない。

 強大だが、非情さを持ち合わせていない連中だ。


 ──逃れる手は、魚を盾に使うしかない。


「グ八ッ──!」 


 猿は後頭部に強い衝撃を感じた。

 地上スレスレを這うように飛行していたところを、頭上から蹴り飛ばされたのだ。


「あたしの友達を、何度も呪い殺そうとするんじゃない!」

 

 知里はブーツの踵で、猿の頭を踏み抜いた。

 右手の魔法銃で猿を牽制しつつ、左手で構成した闇魔法の術式で魚面を守る。


(左右で同時に属性の違う魔法術式を構成した……だと?)


 猿の仮面の下は、汗でにじんでいた。


(この状況で、我の攻撃意図を読み切っている……)


 頭を踏みつけられていた猿は、得意の幻術魔法で脱出を試みる。

 しかし知里は格上の相手だ。


 そこで〝猿〟が取ったのは、五感を攻める戦術だった。


「うおっまぶし! 臭っ!」


 敵の心を読んで、とっさに目をそらしたものの、想像したよりもはるかに眩しい光に、知里は視界を奪われた。


 猿が時に繰り出したのが、汚水槽より取り出した汚物の残骸だ。


「汚い! 臭い!」


 幻覚と同時に排出された臭気に、知里はとっさの判断力を奪われた。


(いかに魔力に優れようとも、所詮は異世界の小娘。糞でも喰らえ)


 猿はその瞬間を見逃さず、プロテクターを強制解除する。

 脱ぎ捨てた鎧は、まるでリビングメイルのように動き出し、知里に襲い掛かった。


(さらに分身!)


 低空飛行で一瞬で距離を取りながら、猿は膝や太ももにまとった獣毛をむしり取り、息を吹きかける。

 すると、同じ姿の猿面が一斉に現れ、四方八方に逃げていく。


「しまった! あたしとしたことが、隙を突かれた」


「いいえ。そうはさせません!」


 後方から追って来たレモリーが、水の精霊術で知里を清めた。

 次いで風の精霊に命じて突風を呼ぶ。

 巻き起こる風に、吹き飛ばされる分身たち。


「助かったレモリー姐……」


 礼を言いかけて、知里は絶句した。


 猿の心を読み取っていたのだが、敵の次の一手は、最悪の手段だった。


「まずい、ヒナと交戦中の魔物が、ロンレア邸もろとも自爆しようとしている!」


 知里はただちに宙へ浮かぶと、ヒナの方に向かって飛翔した。

 レモリーと車椅子の魚面は、そのまま猿の本体を追う。


 それは〝猿〟が捨て身で放った、最後の罠だった。



次回予告


※本編には全く関係ありません。


「もう! 〝裸の女狂戦士〟って随分な言われようじゃない!」

「でも小夜子さん、ほとんど事実じゃないですか~♪」

「わたし狂戦士じゃないもん!」

「お、おう……。小夜子さん。格好はともかく、言動はまともだもんな」

「ハレンチな姿で優等生的な発言をするから、とーってもイカレてるように見えるんですわ♪」

「あんまりよー、エルマちゃーん。わたし正常よ」

「さて♪ 次回は10月14日の更新を予定していますわ♪ ついに小夜子さんのポロリが♪」

「エルマよ、あんまり煽るとミッドナイト行きだから気をつけろよ」

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