355話・小夜子の虎退治
小夜子の特殊スキル『乙女の恥じらい』は、恥ずかしいという精神状態に応じて障壁が張れる。
勇者トシヒコによって付与された能力だった。
「汗びっしょりで男の人に関節技かけてるなんて、わたしってば、なんて恥ずかしい状態なの! もうお嫁に行けないわー!」
小夜子の恥ずかしさがMAXになると、障壁はピンク色を帯びていき、あらゆる魔法・物理攻撃をも通さない万能属性の壁となる。
欠点は、障壁の持続時間と制御が難しい点だ。
心理状態に左右されるために、本人が集中したり、〝恥ずかしさ〟を忘れた状態になると障壁の強度もイマイチになるのだが、今回の相手は御しやすいタイプだった。
「お前、興奮してやがるのか! な……なんて破廉恥な女なんだ」
「い、言わないでー!!」
桃色の障壁に包まれている小夜子を、ミノタウロスたちはどうすることもできない。
虎仮面は、生々しい太ももに締め上げられ、伸びきった肘の靭帯が悲鳴を上げている。
意識は既に飛びそうだ。
「小夜子姐さん、へいお待ち!」
ミノタウロスの間をかいくぐり、盗賊スライシャーが障壁に突入。
器用に輪にしたロープを使い、虎仮面の両足を拘束した。
「スラ君ナイス! 念のため上半身も固定しておいて!」
小夜子は腕ひしぎ十字固めを外すと、スライシャーに指示を出す。
そして自らは次の相手となる6体のミノタウロスに突撃していった。
敵に向けて駆けながら、妖刀〝濡れ烏〟を抜刀する小夜子。
魔物相手には、容赦しない。
「グレン式剣術・武器落とし!」
6体のミノタウロスの間を駆け抜けながら、小夜子は正確無比な突きを繰り出す。
狙うのは、白銀の戦斧を持つ手首の腱だ。
「「グワアアアァァァーー!!」」
ミノタウロスは一斉に武器を落とし、鮮血の吹き出した手首をかばう。
床には成人男性ほどの大きさの戦斧が転がり、轟音を立てた。
「これでもう、破壊工作はできないわ。さて、次は……」
敵の武器をすべて叩き落とした後、小夜子は一度納刀して、次の攻撃に入る。
その場で何度かステップした後、
「おりゃあああーー! どっこいしょーー!!」
ミノタウロスのうち1体の両足にタックルして掴むと、仰向けに倒して足首をつかんだ。
そして自身の両足を軸にして、大きく振り回した。
ありえない速度で高速回転。
3メートルはあろうかという巨体を軽々と振り回す。
「グレン流格闘術・改。ジャイアントスイーーング! アーンド、小夜子クラーッシュ!!」
小夜子は1人で虎仮面&6体のミノタウロスとの肉弾戦に勝利を納めつつあった。
◇ ◆ ◇
一方、霧の中に隠れたハーフエルフの少女、ネンは3人組の元冒険者チームの治療に当たっていた。
「ゾンビのおじさん、大丈夫ですよ。また死にかけたらネンが治しますから」
「わ、吾輩は生者だ……」
「丸いおじさんと、盗賊のおじさんはまだ少し怪我してますね。ネンが治しますよー」
周囲の異界化は、使い魔の黒猫が行う。
ネンの回復術によって一命をとりとめた盗賊スライシャー。
重傷を負っていた戦士ボンゴロも、すっかり回復した。
ネリーはホッと胸をなでおろし、使い魔の黒猫の頭を撫でた。
◇ ◆ ◇
「胸囲メガネの奴、少女ネンを戦場に連れ出してきているのかッ!」
研究室のモニタで戦況を確認していたアンナは愕然とした。
小夜子の大立ち回りは目立つが、気になるのは別モニターが映している小さな人影のほうだ。
紫の霧が晴れた先にいるのは、ハーフエルフの少女ネン。
状況から、小夜子が連れ出してきたとしか考えられない。
「あの胸囲メガネッ! 不用意なッ!」
慌てて通信機でネリーを呼び出す。
「ネリーッ! どうしてそこに少女ネンがいるッ! 小夜子に代われッ!」
「現在、彼女はまだ戦闘中です。万が一のときのために、回復役は必要だと言っていた。事実、吾輩たちは助かった」
「それはいいッ! しかしッ。貴重な回復役を何故こちらに回したッ? ロンレア屋敷には敵の本隊がいるんじゃないのかッ?」
クロノ王国・公認錬金術師アンナ・ハイムにとって、ハーフエルフは異形の者だ。
聖龍法王庁にとっては、排除すべき対象でもある。
「ネリー! いいかッ、お前ら3人は何が何でも少女を守れッ!」
「無論。わが師よ……。この少女に吾輩、何度も命を救われている。命に代えてでも守る」
それを聞いたところでアンナは納得できなかった。
(……ましてや、あのハーフエルフは回復魔法が使えるッ。何に祈ってるかは知らないがッ。クロノ王国のどの文献にも載っていない、超希少な存在なんだッ……)
女錬金術師は嫌な予感がしていた。
(……小夜子にせよ、ヒナ・メルトエヴァレンスにせよ、脇が甘すぎるぞッ)
次回予告
※本文とは全く関係ありません。
「知里さん。小夜子さんの将来の旦那さんって、どんな男性なんでしょうね♪」
「さあね。ヒナは絶対に言わないし、あたしたちとは無関係の人でしょ」
「あたくしはガチムチ系のナイスガイだと思いますの♪」
「どうかなー。お小夜はああ見えて、オカルトや少女マンガ好きだったりするから……」
「でも知里さん、心が読めるんだから知ってるんじゃないですか?」
「さあね」
「すでに彼氏がいたとか? ヤンキー全盛期にラグビー部のマネージャーやってたくらいだから、お相手は不良マッチョかも知れませんわ♪」
「どうしてマッチョな相手にこだわるのよ」
「やっぱり肉体派同士の方が激しそうですし……」
「それは、まあ……」
「激しいって……2人して何詮索してんだよ。次回の更新は10月10日『三正面作戦』お楽しみに」
「スポーツの日ですからねー♪」




