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恥知らずと鬼畜令嬢~ラスボスが倒された後の世界で~  作者: サトミ☆ン
〝鵺〟との戦い・見世物小屋の死闘
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351話・虎よ、虎よ?

 今回は直行の一人称ではなく、三人称でお届けします。

 ◇ ◆ ◇


挿絵(By みてみん)


 ロンレア領の南に位置する段ボール工場は静まり返っていた。


 勇者自治区から出向してきた工場勤務の従事者は、ヒナ・メルトエヴァレンス執政官を囲む夕食会に呼ばれ、出払っている。


 搬入口はシャッターで閉ざされ、昼間の喧騒とは程遠い静けさに包まれていた。

 先日の洪水が嘘だったかのように、静かな川のせせらぎが聞こえる。


 そんな工場内部の地下にある秘密工房。

 錬金術師アンナ・ハイムによるスキル結晶の生産拠点では、怒号が飛び交っていた。


「違うッ! 医学系のやつだッ」

「そんなこと言ったって、アンナ姐さん。こう分類がぐちゃぐちゃじゃ、探せるモノも探せやせんぜ」 

「そこを探すんだ盗っ人! 錬金術による『臓器復元』の論文!」


 旧王都に置いてあった先祖伝来の錬金術の資料や膨大な蔵書は、空調のきいた地下の書庫に収められている。

 だがアンナがいつも本を引っ張り出しては適当に仕舞うので、もうぐちゃぐちゃになってしまっていた。

 戦士ボンゴロと盗賊スライシャーが、その一冊一冊を取り出しながら、アンナに確認を求める。


「違う! これは『合成獣』のつくり方だッ! 表紙からして違うだろーッ!」 

「そんなこと言ったって、あっしら小難しいことなんざ分からねえでさあ」


 差し出された書物を投げ返すアンナ。

 それを器用にキャッチして元の書庫に戻すスライシャー。


 そんな喧騒を打ち消すように、すさまじい轟音が響いた。

 木が倒れたような音だった。


「……? いま上で大きな音がしたお」


 不安そうなボンゴロの声に、助手ネリーがすぐさま監視カメラで外の様子を伺う。

 勇者自治区製の赤外線LEDのついた夜もいけるタイプの暗視機能付きだ。

 とはいえ映像の解像度はそこまで鮮明ではない。


「……こ、これは!」

「虎が暴れてるお!」


 モニターには、虎仮面の男が、丸太を持ってシャッターを壊そうとする映像が映っていた。


魚面(うおづら)姐さんの虎にしちゃあ、ずいぶんと人間っぽいっつうか、二本足で歩いてやがるぜ」


 魚面の虎とは、彼女のペットであるところの動物の虎のことだ。

 昔、見世物ショーで調教されていた普通のトラである。

 ちなみに名前はトレバーという。


「吾輩の見立てでは、もしやあの虎、ライカンスロープ、ワータイガーではあるまいか」


 ライカンスロープとは、狼男や虎人間など、動物に変身できる人獣の総称だ。

 物語やゲームによっては、感染症として扱われる作品もみられる。


 中級の冒険者にとっては厄介な魔物のひとつでもある。


「暗くてよく見えんがッ、魚ちゃんの(トレバー)だとしても狼藉を働いているのは間違いないッ」


 錬金術師アンナは、レモリーが配備した精霊石による通信網による連絡を試みた。

 インカム型のヘッドセットを装着し、ロンレア邸にチャンネルを合わせる。


「回線使用中かッ……」

「吾輩は異常発生のランプを灯そう」

「でも、宴会中だから気づかれないかもお……」

「あっしがひとっ走り行って、大将に知らせてきやしょう」


 盗賊スライシャーはそう言うと、リスのように梯子を上りだした。


「待てッ。罠かも知れんッ。ここが見つかるわけにはいかないッ! くれぐれも慎重にやれッ!」

「へいっ!」


 スライシャーは威勢よく返事をするが、特に警戒するふうでもなく、無造作に床の隠し扉を開けた。

 頭をかきむしるネリーとアンナ。


「隠密行動は盗賊の十八番ですぜ? 問題ねえっす」


 C級とはいえスライシャーとて盗賊の端くれだ。

 忍び足での行動や、物音を立てない身のこなしは習得している。

 ただし、彼には注意力散漫や判断ミス、油断、物忘れの多さなどの様々な弱点がある。


「スラのやつ、しくじらなければよいが……」

「シャッター前の虎は、どうやって止めるんだお……」


 冒険者仲間だったネリーとボンゴロは、不安そうに顔を見合わせた。

 一方、錬金術師アンナは不敵に笑い、モニターごしに周辺を確認している。


「直行めッ……まさに虎の尾を踏んだなッ。さて、この若干心もとない戦力で、この場をどう切り抜けるか。ネリーよ、腕が鳴るなッ!」

「……わが師アンナよ。くれぐれも無理をなさらぬように……」


 ネリーも食い入るようにモニターを見て、状況を把握しようとしている。


「見たところ敵の数は虎男1体。単に魚女史の愛虎が暴れているだけなのか、敵襲なのかの判断はつかないなッ」

「……ただ言える点は、尖兵ではないという点でしょうな」

「ほう?」


 助手ネリーの発言に、アンナは興味深そうに耳を傾ける。


「中に我々がいることが掴めないまま、あのように暴れているのですからな」

「うむ。単なる狼藉者か、背後に襲撃隊が潜んでいるのか、そこを見極める必要があるなッ!」


 防護服姿のアンナは、モニターごしに虎仮面を睨んでいた。



次回予告

※本文とは全く関係ありません。


「直行さん大変ですわ! 台風16号ですって♪」

「おいおい異世界に台風は来ないだろう」

「分かりませんわよ~♪ 中央湖に大きいのが発生したとクバラお爺ちゃまが言ってましたわ♪」

「ウソつくな! エルマお前」

「次回の更新は10月2日を予定していますわ♪ タイトルは『台風16号の襲来』です♪」

「上陸しないみたいだからいいけど、災害ネタは不謹慎だからな」

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