表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恥知らずと鬼畜令嬢~ラスボスが倒された後の世界で~  作者: サトミ☆ン
〝鵺〟との戦い・見世物小屋の死闘
351/733

349話・黒いピーターパン

「知里さん。地下を索敵できる? 今は使ってない旧式のトイレの汚水槽に隠れてる可能性がある」

「……さすがに地下のそんなとこまでは調べてなかった」


挿絵(By みてみん)


 知里は〝探知〟の魔法を地下目がけて放った。

 一瞬、彼女の周囲が光ったかと思うと、すぐに消えた。


 少しばかりの沈黙の後、彼女は感心したように頷いた。

 

「……なるほど……。確かに地下にはいくつかの空洞がある。その中のひとつに人の体積と同じくらいの存在が確認できた。でも超くさそう……」

「その具体的な場所は……?」


(直行の通信機を貸して。(ましら)の場所を伝える。魚ちゃんたちの居場所からそう遠くはない。タイミングを合わせて、急襲しよう)


 知里の内心を、俺のスキル『逆流(バックフロー)』を利用してヒナと小夜子たちと共有する。

 前線で(幻影の)鵺と戦っている(フリをしている)2人は、アイコンタクトを送って来た。


 俺は通信機から、レモリーに発信する。


「もしもし俺だ。今から知里さんに代わる。タイミングを合わせて急襲するそうだ」

「はい。承知しました」

 

 レモリーは鋭い声で返事をした。

 俺は知里に通信機を渡し、彼女のスキル『他心通』と、俺の『逆流』を使って前線の2人に会話の内容を伝える準備をした。


(レモリー姐さんの現在地から左手の方向に10歩先行ったところの真下)


 知里が思い浮かべた言葉が、俺の心に流れ込んでくる。

 通信機を通してもなお、彼女の『他心通』は発動し、俺の『逆流』をうまく作用させて〝思い〟をレモリーに届ける。

 この方法が、猿に探知されてないといいのだが……。


「いいえ。左手の方向には壁があって直進は不可能かと」


(だったら、相手が汚水槽に隠れてる以上、土の精霊術で通気口を塞いじゃうとかね)


「……はい。ですが、可能であれば生け捕りを試みます」


 レモリーはそう言って通信を打ち切った。


 ……それにしても。

 知里は現代日本から来ているはずなのに、発想に容赦がない。

 顔色一つ変えずに、生き埋めにする策を提示した。

 

「直行。それは違う。容赦してたら、仲間を失ってしまうんだ。そういう戦い、あんたは覚悟しておくべきだと思うよ」


 俺の心を読んだ知里が、舌たらずの声でたしなめた。 

 ……確かに、エルマやレモリーや魚面、皆を守るためには非情な選択肢も視野に入れるべきだ。


「ん?」


 ──その時。

 地下で凄まじい轟音が鳴り響いた。

 少し遅れて、地震のような振動がやってくる。

 次いで、通信機が鳴り、着信を知らせた。


「はい。直行さま。土の精霊術で壁を破壊し、そのまま〝猿〟を捕えました」


 レモリーは、土の精霊術で体を拘束したようだ。

 ちょうどそのタイミングで、大広間の幻術が解除された。


「状況は?」

「どうなってるの?」


 〝鵺〟と戦うフリをしていたヒナと小夜子が一瞬でこちらに戻ってくる。


「レモリーと魚面の別動隊が、猿の本体を捕えたって……」

「だから幻術が解除されたの?」

「……何か引っかかるわね。知里はどう思う?」


 ヒナは知里に意見を求めた。


「敵自ら幻影を解除してるのが不穏だよね。〝敵意感知〟にも引っかからない」


 その際、俺は通信機でレモリーを呼び出して確認する。

 

「レモリー。猿を捕えたというのは本当か?」

「はい。魚面さんの属性魔法で、壁に穴をあけて、同時に私が土の精霊術で敵を捕らえました」


 この通話は、ハンズフリー機能に切り替えて、他の者にも聞こえるようにしておいた。


「捕えた事実そのものが、幻影の可能性がある。魚ちゃんたち、騙されてるかも」

「ヒナもそう思う。うかつに手を出すのは危険ね」

「レモリー、魚面。今の話聞こえたか? うかつに猿に手を出すな。」


 猿による幻覚攻撃は陽動。

 ヒナや知里、小夜子にミウラサキなど圧倒的な強者をロンレア邸に釘付けにしておく。

 その間、虎による工場襲撃でアンナたちの排除……。

 別動隊で猿を捕えに来たレモリーと魚面は、捕まったふりをして返り討ちにする。


 最悪なシナリオが、脳裏をかすめた。


 現在のところ、敵意は感じられない。


 レモリーと魚面と、〝鵺〟の〝猿〟。

 戦力的に考えたら、かなり厳しい相手だ。

 勝てるとしても、死傷者は避けられないだろう。


 レモリーと魚面のどちらも失うわけにはいかない。


「知里さんかペリキュアさんに2人のフォローを頼みたい」

「分かった。あたしが行くよ。あんたの彼女も魚ちゃんも、守ってみせる」


 知里は例の魔力の炎で瞳を燃え上がらせる演出をした。

 そして立てかけていたホバーボードを手に取って、窓を開け放つ。

 

「待って! ちーちゃん。ここへ来て、敵は俺たちを分断しにかかってきているんじゃない?」

「だとしても、あたしが助けに行かないと、直行の言う通り2人がが無事では済まないのは確かよ」

 

 そう言うと知里はホバーボードに飛び乗って、窓から飛び出していった。


「まるで黒いピーターパンね……。ホント、協調性がないんだから」


 ヒナは「やれやれ」と言ったポーズで肩をすくめてみせた。



次回予告

※本編とは全く関係ありません。


「ヒッ……ヒナさん。黒いピーター・パンって何ですの?」

「ピーター・パンは大人になれないでしょ。黒は知里のイメージカラー。で、〝大人げないよちーちゃん〟って意味」

(珍しいなエルマがヒナちゃんさんに話しかけるなんて……)

「でも、知里さんは女性ですわ♪ 女性に対して少年呼ばわりはどうかと思いますわ♪」

(エルマの奴、やけに食い下がるな)

「あら、ミュージカルのピーター・パンはブロードウェイでも日本での公演も女性が演じてきたじゃない。そういう意味で言ったのよ」

「……ヒナさん。あたくしは別に揚げ足を取ろうとしたのではありませんからね♪ 揚げ足を取ろうとしたわけでは……」

(……2回も言ってる)

「次回の更新は9月28日を予定しています。『エルマ泣く、再び』」

「直行さん! あたくし泣いてませんからね!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] なかなか捕まりません。 さすがに暗殺集団のボスはスキル能力ではない所での勝負が強いと。 スキル能力なんかある世界では更に特殊な事がやれないとそんなもの務まりませんね…。 仕掛けが明かさ…
2021/09/26 21:39 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ