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恥知らずと鬼畜令嬢~ラスボスが倒された後の世界で~  作者: サトミ☆ン
〝鵺〟との戦い・見世物小屋の死闘
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347話・〝敵意〟のない攻撃の正体

挿絵(By みてみん)


「確かに敵意感知を潜り抜けるには、道化芝居という隠れ蓑はうってつけかもね」


 知里は感心している。


 次いでエルマが暴いたのは、〝鵺〟による飲料水への幻覚剤の混入だ。

 劇の演出で〝殺意〟を隠して、仕込んでいたのだ。

 

 暗殺者集団の〝鵺〟は、普段は仮面劇の旅芸人をしていると聞いた。

 頭目の〝猿〟は幻術のエキスパートで、メンバーには透明になれる〝蛇〟もいる。

 幻覚剤の混入など、容易だったはずだ。


「なるほど、直接飲んだ者がいなくても、気体となって充満するから置いておくだけで効果がある。ステータス異常を回復しても、時間が経てば再び幻覚の効果が出るわけだ。エルマよ、大手柄だった」

「当然ですわ♪」


 俺がエルマの頭をなでると、鼻息を荒くして笑った。


「でも、直行。だとしたら、お小夜やヒナたちが戦っているのも幻覚だというの?」


 知里は首を傾げる。

 視線の先には大男と格闘戦を繰り広げる下着姿の小夜子。

 その向こうには、伝説上の妖獣〝鵺〟と戦うヒナの姿がある。

 

「ワンツーパーンチ!」


 小夜子は素手で虎仮面を殴ったりしている。

 幻術だったら、すり抜けるはずだ。


「知里さん。まずは幻術を解除してみよう」

「そうだね。でもあたしは回復はできないから、ネンちゃんに手伝ってもらおう」


 知里はネンちゃんの頭を優しくなでると、飴玉の入った缶ごと差し出した。


「全部あげるよ。みんなのお手伝いしてくれていい子だから……」

「こんなにもらっていいの? 怖そうなお姉ちゃん、ネンにはとっても優しいね」

「……難しい仕事を頼むからね。ネンちゃんの回復のタイミングが大事なんだ」

「うん! 怖そうなお姉ちゃん、ネンは頑張ります!」

「いい子だ」


 知里は照れくさそうに笑って、もう一度ネンちゃんの頭をなでた。

 意外と子供好きなのか、知里は……。


「じゃあまず直行のスキル『逆流』を利用して、ヒナとお小夜に幻覚剤の件を伝えよう」


 知里が手招きをするので、俺は『逆流』を発動させて近づいた。

 俺の背中に知里の手が触れる。

 一瞬ですさまじい魔力量が体に流れ込んでいるのが分かった。


(お小夜、ヒナ。戦闘を続けながら聞いて頂戴。いい?)


 知里の心の声が、俺を通じて2人に伝わったのかは分からない。

 ヒナも小夜子も、これまで通り敵との戦闘を続けている。

 目くばせも変わった様子も何もないが、知里は大きくうなずいた。


(さすがね。敵に悟られないように、心で会話しましょう)


 問題は心の声での会話が、敵に筒抜けになっている可能性だ……。

 こればかりは俺にはどうすることもできない。


(……まずは幻覚について。いま、お小夜とヒナが戦っている相手は幻影。質量があるように感じているのは、薬の効果。幻覚の効果を増幅させる揮発性の薬を飲料水の甕に混入されたから)


 知里の目の前にエルマが立ち、自身を指さしながら「あたくしが見破りましたわ♪」と、身振り手振りで指し示す。

 小夜子は親指を立ててウィンクし、ヒナも苦笑しながら頷いた。


(なぜ猿の罠を見破れなかったのか? 猿はショーの演出として仕掛けたから、殺意も敵意も感知できない。ヒナ、その妖獣からは殺意を感じないでしょ?)


 ──幻影使いは囮だった。


 敵の狙いは俺たちの命じゃない。

 段ボール工場の破壊かもしれない。

 アンナの研究室はバレてはいないはずだが、分からない。


(鵺は3人いると魚ちゃんが言ってたでしょ。いまここであたしたちに幻影の戦いをしかけて足止めしているのは猿。だとしたら、残る敵の狙いは別にあると考えるべきね) 


 そうなると、虎か蛇が工場破壊の役割か。

 

 ──だが、俺はどうしても〝蛇〟が引っかかっている。

 俺たちが捕え、ガルガ国王暗殺という〝新たな仕事〟を与え、解き放った蛇。


 〝元の鞘に収まることはできない。始末される〟と語っていた者が、何事もなかったように組織に戻れるだろうか。

 知里の『他心通』で心を読んだので、蛇に嘘はなかった。

 それ以降、心変わりがあったとするなら、猿との接触だが──。


 ……なあ知里さん。ひょっとしたら、敵の中に蛇はいないんじゃないか?

 だから、こんな回りくどい手段で、俺たちを分断する方法を取ったんじゃないか……?


 俺は知里を見ながら、そんな言葉を思い浮かべた。


(……直行の推測では、敵の中に蛇はいないんじゃないかって。ただ、冒険者のあたしとしては希望的観測は命取りになると考える)


 知里は俺の考えを『他心通』で読み取り、今度は俺のスキル『逆流』を使って皆に伝えた。

 鵺と戦っているヒナも小夜子も、人差し指と親指で〇の字を作って「了解」を伝えてくれた。


(さてさて、この状況……。敵の意図を読んだはいいけど、一瞬の判断ミスが致命的な結果になりかねないわね……)


 知里は危機を楽しむかのように、不敵に笑っている。

 俺は、リスクを楽しむことなんてできない。

 

 危険に身を置く冒険者と俺とでは、心の持ちようが違う。


 俺は通信機を手に取った。

 

次回予告


※本編とは関係ありません。


「ネンです。怖そうなお姉さんから飴玉いっぱいもらいました」

「飴玉? 冷蔵庫はどうしたんだ? 酒と刺身は?」

「お父さん、ここにいないはずなのに声が聞こえる。げんかく?」

「いまそっちに向かってる。金がねえから野宿だ。チクショー夜は冷えやがるぜ」

「まぼろしのお父さん、風邪ひかないようにしてくださいね」

「……ックショイ! 次回の更新は9月24日だ。『お父さんの勇気』お楽しみに」

「お父さん……いま何してるんだろう」

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