表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恥知らずと鬼畜令嬢~ラスボスが倒された後の世界で~  作者: サトミ☆ン
〝鵺〟との戦い・見世物小屋の死闘
348/733

346話・探偵ごっこ

挿絵(By みてみん)


「おりゃあああ! どっせぇぇい!」

「おおう! ぬんぬんぬん!」


 小夜子と虎仮面は肉弾戦に入った。

 対人相手では小夜子は刀を使わない。


 レスリングのような態勢で両者は組み合い、力比べをする。

 何だか2人の熱気がこちらにも伝わってきそうな雰囲気だった。

 両手を組んだ一進一退の攻防。

 虎仮面は足技も繰り出すが、小夜子は華麗にかわす。

 そして逆にカウンター気味にローキックを仕掛け、虎仮面を崩しにかかる。


「……グレン式格闘術・金剛」


 闘気をまとった小夜子が、バランスを崩した大男の虎仮面に一本背負いをしかけた。

 しかし虎仮面は空中で一回転して着地すると、小夜子の腹部に膝蹴りを入れる。


「効くもんかぁ! 昭和の女を! なめたら! あかんぜよー!」 


 小夜子は剥き出しのお腹で虎仮面の膝蹴りを受け止めると、両腕で虎頭を押さえて頭突きをかます。

 のけぞる虎仮面に、追い打ちをかけるべくドロップキックを食らわせる。


「まだまだあ!」


 さらにウェスタンラリアットで虎仮面の首に左の二の腕をぶち当てる。

 そこから体ごと突進して、腕を振りぬいた。


 虎仮面は一回転しながら後ろに倒れこみ、後頭部を床にたたきつけられた。

 

「ユース!」


 小夜子は右腕を高く上げ、人差し指と小指を立てて決めポーズを取った。

 一部の男性陣から、万雷の拍手が鳴り響く。


 たぶんあれは、俺のよく知らない昔のプロレス界で流行ったものなのだろう。


「ってぇなゴラァ!」

「スタミナ上等! まだまだやれるわよぉ!」


 小夜子と虎仮面のプロレスのような戦いは続いていた。


「ワントゥースリーエン、ゴー」


 一方ヒナは、鵺を相手に1人で奮闘している。

 まるで知里の特技を奪うかのように敵の物理攻撃を勘で先読みして、光弾で弾き返す。

 ファン〇ルのように周囲を飛び回るマジックタクトを制御し、攻防一体に使いこなしている。

 初級の光弾魔法だから、MP消費量も少なめで、継戦能力も高い。


「ヒナも大したものね。あたしが発案したなんちゃってオールレンジ攻撃を、あたし以上に使いこなしてる。やっぱラスボスまで行った奴は違うね。ただ……」


 さっきから戦闘に参加していない知里が、俺のそばでつぶやいた。


「ただ……というと?」

「ヒナは戦闘に夢中で気がついてないのかもしれないけど、敵はあれほどの攻撃をしてきてるのに殺意がない。敵意も感じられない……おかしいんだ」


 そうは言われても、魔法の使えない俺にはよく分からない話だ。


「敵にはそもそも〝殺意〟という概念がなくて、弱い奴は討たれて当たり前という認識だとか?」

「仮にそう思っていたとしても、攻撃には〝殺意〟や〝敵意〟が宿る。彼らがプロの暗殺者である以上〝無心の境地〟はありえない……」


 ──なるほど、金をもらって対象を殺す。

 そんな稼業をやってたら、悟りの境地には届かないということか。


「……なあ知里さん。俺のスキル『逆流』を知里さんに利用してもらえば、『他心通』効果でテレパシーのようなことはできないかな?」

「そうね」

「俺もいくつかのおかしな点に気づいている。ひょっとしたら猿の狙いは、別のところにあるのかもしれない」

「……!!」


 知里も俺が言おうとしたことに気づいたようだ。


「この襲撃自体が、陽動……。何かのフェイントかもしれないって、あんたはそう思うのね?」

「殺意や敵意がなく、幻術で俺たちを惑わせるのは、他に目的があるからじゃないか……」


 口に出しては言えないが、スキル結晶の生産拠点がバレている可能性がある。

 

「〝蛇〟の心を読んだ限りでは、情報が漏れた形跡はない。でも、別ルートから〝猿〟に情報が行った可能性もある。まぁ、疑ったらキリがない」


 知里が言うように、この辺りは疑い出したら収拾がつかなくなる。

 その時だ。

 

「直行さん。あたくし大手柄を立てましたわ♪」


 不意に現れたエルマが、勝ち誇ったように言った。

 白と黒のコボルトに大きな水甕を持たせ、2匹の中央にネンちゃんを配置している。


「どうも影が薄いと思ったら、どうかしたのか? 何だその甕は」

「ええ♪ 幻覚剤入りの水ですわ♪」


 エルマが指し示した甕には、なみなみと飲料水が注がれている。


「でも、飲料水には浄化魔法がかけられてるでしょ。〝敵意〟も感じないし」


 知里が不思議そうに中を覗き込んだ。

 俺も確認してみるが、無臭で見たところただの水にしか見えない……。 


「ええ♪ 何個かある水甕のひとつに、揮発性の高い幻覚剤がたっぷりと混入されていましたわ」


 エルマはニヤリと笑い、左右に従えたコボルトの腹をポンポンと叩いた。


「闘犬のお姉さん、片っ端から犬妖精さんに物を食べさせたり、お水を飲ませてました」


 なるほど、コボルトに毒見をさせて、ネンちゃんが治療役か……。

 言われてみれば中年太りの白い方はもちろん、引き締まった体格の黒い方の腹も膨れている。


「揮発性の幻覚剤? 〝敵意〟もなく、仕掛けられるなんて……」


 知里は信じられないといった面持ちで、首を傾げている。


「なあ知里さん。〝鵺〟の奴ら、見世物芝居の演出として幻覚剤を仕込んだんじゃないか」


 もしショーの演出が目的だったとしたら、〝殺意〟も〝敵意〟もなく、罠を仕掛けることができるかもしれない。





次回予告


 ※本編とは関係ありません。


「直行さん、小夜子さんが言った〝ユース!〟ってなんですか?」

「さすがにエルマは知らないか。有名プロレスラーの決め台詞だ。〝ウィー〟って聞こえるけど」

「知りませんわ♪」

「闘犬は好きだけどプロレスには興味がないのか」

「ありませんわ♪」

「前はお小夜も〝ウィー!〟って言ってたんだ。トシヒコに〝ユース〟だって訂正させられたんだよ」

「へー、知里さんから魔王討伐軍時代の話が聞けるなんて貴重だなー」

「次回の更新は9月22日ね。お楽しみに♪」

「勇者トシヒコさんと小夜子さんがプロレス好きって何かいやらしいですわー♪」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ