344話・鵺、現る
雷鳴が轟き、観客席に雷が落ちる。
しかし小夜子がガード。
「少女コマンドーSAYOKO……」
「お小夜、変身もしてないのに決め台詞を言わないで」
「ヒナそのキャラ知らないし」
「皆さん何遊んでるんですか♪ ボスキャラの鵺ですわ♪」
雷光と共に現れたのは、鵺だ。
頭は猿、体は虎で尻尾は蛇という妖獣。
俺は通信機による会話で、レモリーに戦況を伝える。
「レモリー、こちらの戦局は幻術を打ち破ったところ。大型の魔物、鵺と交戦中だ」
「はい。承知しました。こちらも動きがあり次第、連絡します」
彼女と魚面は現在、敵の本体を叩くために屋敷内を探索中だ。
危険な行為だが、レモリーが判断して決めたことだ。
無事を祈るしかない。
「いよいよ敵ボスがお出ましってわけね」
知里は不敵に笑い、左の瞳に青い炎を灯す。
見栄えはいいが、MPの無駄遣いらしい。
「相手にとって不足なし! 行くぞっ、とうっ!」
先制攻撃を仕掛けたのはミウラサキ。
……いや、爆走戦士ゴー・レーサーと呼んでやるべきか。
ユニークスキル『ノロマでせっかち』を発動させて、敵の反応速度を遅くさせる。
「効いてる! これは、幻影じゃない!」
ゴーレーサーは、超高速で飛び蹴りをぶちかます。
鵺は派手に吹っ飛んだ。
反応の鈍くなった鵺に、雷光を呼び出す間も与えない。
その動線を読んだ知里は、すさまじい速度で先回りして待ち構える。
「あたしがつなぎ役なのは不本意だけど! スプラッシュ! 派手に決めてよ」
知里が取った魔法攻撃は、呪縛魔法だ。魔力の鎖で鵺をがんじがらめにして動けなくさせている。
「知里さん得意の呪縛魔法ですわー♪」
「それだけじゃないんだ。この魔力の鎖に魔法防御力を下げる弱体化を重ね掛けする!」
知里は右手と左手で違う魔法術式(伝説の大魔道士をリスペクトしたワザらしい)を起動していた。
呪縛魔法と魔法防御力の弱体化。
「知里の弱体化は性格同様、半端ないからね! 一撃で決めましょう!」
「一言多い!」
ヒナは当然のように知里のサポートを読み切って、とどめの術式を起動していた。
俺たちの回復に使われた二十数本のマジックタクトを集めると、鵺を取り囲むように配置する。
「ワン、ツースリーエン、ゴー!」
マジックタクトから撃ち出されたのは、光弾。
それ自体はズッコケ冒険者だった魔導士ネリーでも使える初級の属性魔法だ。
だが、ヒナの光弾は太さも輝きもまるで違う。
そんな超ど級の光弾が、二十数本のマジックタクトから一斉掃射された。
「うおっ眩し! 巻き添え食わないか? これ……知里さん、この部屋に結界とか張った方がいいんじゃない?」
蝋燭の明かりだけだった大広間は、まるで白昼のような輝きに包まれた。
あれほどの高火力だと、下手したらこの屋敷もろとも消し炭になってしまわないか……?
「ヒナに任せておけば大丈夫だよ直行。光弾は敵一体が対象の基本技。だから魔力の制御がしやすいんだ。彼女くらいの魔導士なら、二十数本のタクトを最大出力で同時制御なんてのは造作もないことよ」
観衆や屋敷への巻き添えダメージを心配する俺に、知里がさっくりと解説してくれた。
「……ツー、スリーエン、ワン、エン……」
ヒナは小刻みにリズムを変えながら踊る。
それと共にマジックタクトから放たれる光弾が微調整されて鵺の全身を焼き尽くす。
撃ち終えた光弾は貫通せず、敵の体内で爆発を始めた。
周囲に被害を出さないように調整しながら、高火力な光弾を最大出力で二十本も敵に浴びせる。
想像だにできない最上位の魔導士の領域……。
「問題は、思ったよりもダメージが通らない点なのよ」
感心している俺に対して、知里はしきりと首をかしげている。
「……知里さん、どういうこと?」
「今の彼女の攻撃に耐えられる魔物は、あたしの知る限り魔王の眷属か不死者たちの王くらい。鵺が魔物だとしたら、それを使役する猿ってのは破格の召喚士ってことよ……」
それにしても、妙だ。
知里の話を聞いていて、俺は何か腑に落ちないものを感じる。
規格外の召喚士で暗殺者で幻術士でもある〝鵺〟が、この戦い方を選んでいる理由──。
もし、俺が〝鵺〟の〝猿〟だったら、毒からの幻覚状態の時にターゲットを暗殺する。
わざわざガチンコバトルをする理由が分からない。
その点がどうも心に引っかかる。
「ヒュィー、ヒュィー……」
鵺は、細い鳴き声を上げた。
伝説ではトラツグミという野鳥の鳴き声に似ているといわれている。
「ゴー・レーサー! 雷属性の物理攻撃に注意して」
「了解! 単なる物理よりも攻撃範囲が広い。受ける流そうとするとダメージを受ける」
「グレン式回避術・流水」
手負いの鵺は、血だるまになりながらも、ヒナやミウラサキに猛攻を仕掛ける。
雷光を帯びた爪や牙による属性攻撃に加え、尻尾の蛇の毒攻撃。
多彩な物理攻撃を、ヒナとミウラサキは回避している。
まるで流れる水のように自然で無理のない動きだ。
しかし、2人とも素手であるためか反撃の糸口はつかめないでいた。
「埒が明かない。ママ、皆はカレム君が見るから手を貸して」
「アイアイサー! カっちゃん、皆をお願いね!」
「了解!」
ヒナの一声で、勇者パーティのメンバーたちは前衛と後衛を入れ替えた。
妖刀〝濡れ烏〟を抜いた小夜子が前衛に出て、ゴー・レーサーことミウラサキが後衛に入る。
「お小夜とヒナの連携で魔法剣か。でも、直行。あんたも気づいた?」
知里は彼らの連携には加わらず、俺とエルマの射線を守備している。
しきりと首を傾げているが、何かに気づいたようだ。
次回予告
本編とは全く関係ありません。
「お小夜、少女コ○ンドーを知ってるなんて、やるじゃん」
「セーラー服着てバズーカ砲ぶっぱなすのが最高だったわ!」
「それって、ヨーヨーで戦う女番長刑事の話じゃないのか?」
「一緒にしたらダメだよ直行。女番長刑事の後番組で、4カ月で打ち切りになったという」
「知里はリアルタイムじゃないのに、よーく知ってるわねー」
「小学生の頃、兄にペリキュアを観るなら昭和の戦隊ものは押さえとけって。あと女番長刑事も観ろと」
「ハードな兄貴だなあ」
「ちょっ、その言い方……。でも、そのおかげで映像作品の文脈ってのが分かるようになった」
「平成生まれには全く分からない会話でしたわ♪ さて次回の更新は9月18日を予定しています♪ お楽しみに♪」




