342話・超速特捜ゴーレーサー
突如、飛び出してきたミウラサキは、戦隊ヒーローものを思わせるポーズを取る。
背中にはランドセルのようなカバンを背負っていた。
「蒸着!」
掛け声一閃!
彼の姿は、キメポーズと共に、メタルボディ特撮ヒーローのような外観に変わる。
黒いゴーグルに、電飾の戦闘スーツ。
ファイヤーパターンの意匠をあしらった、少し着るのに勇気がいるデザインだ。
「超速特捜ゴーレーサー! 推・参!」
決めポーズを取り、猛スピードで象に攻撃を仕掛ける。
「見ましたか♪ 直行さん♪ これがあたくしの考案した……!」
「なるほど。その手もありか……」
ヒナは感心したように、頷いている。
その手が何のことだか俺には分からないけど……。
エルマは黙ってしまった。
だが……待て。
敵は幻だ。
「あれ?」
案の定ミウラサキの攻撃はどれもすり抜けて有効打は与えられない。
「いいえ。それらは幻影です!」
「そんなことは百も承知だとも! それでも私は正義の攻撃はやめない。なぜなら! この幻影が自動再生されたものなのか、それともコントロールされたものなのかを見極めることができるからだ!」
メタルボディの特撮ヒーローに〝変身〟したミウラサキは、目にも止まらない速さで攻撃を続けている。
彼のパンチやキックは、ことごとく象やハイエナの体をすり抜けていくが、幻影の動物たちの反応に変化はない。
しかし口上は止んだ。
「はい……? どういうことでしょう」
レモリーは首をかしげている。
「待てよ。ひょっとして……」
見世物小屋の幻影は、映像だけの出力で、声はどこかに潜んでいる本体がアフレコのように当てている可能性がある。
ミウラサキはやみくもに攻撃を仕掛けたように見せかけて、敵の幻影のパターンを探ったのだ。
「なるほど、カレムやるじゃん」
知里は魔法銃でタキシード姿の白塗り男の頭を撃ち抜く。
しかし魔法の弾丸は、男をすり抜け、その奥の緞帳をもすり抜けた。
続けざまに蛇と虎の顔面にも魔法銃を放つ。
空中ブランコの女軽業師たちにも、銃弾を浴びせた。
いずれも幻。まるで何事もなかったように、空中ブランコは続いている。
「でも音声は止まった。幻影の主はいま、次の手を考えてるところね」
「お、おう……」
それにしても、知里はヤバい奴だ。
いつの時代から来たのかは知らないが、日本人の女子が何の迷いもなく人の頭を撃ち抜こうとするなんて考えられない。
現に、転生者であるミウラサキにしても人への攻撃は火吹き男への飛び蹴りだけだ。
「気づきましたか? 直行さん♪」
エルマが俺のベストの裾を引っ張った。
「ああ。幻影は映像オンリーで、あらかじめ定められたものをビデオみたいに空間に映し出している」
「そうじゃありませんわ♪ 一代公爵の戦闘服ですわよ。彼の好みに応じたステキなデザインだと思いませんこと? 児童向けでありながら、大人の鑑賞にも耐えられるデザイン♪」
「はい?」
俺は目が点になってしまった。
「超速特捜ゴーレーサーはあたくしのデザインですわ♪ 意識高い系リア充のヒナさんは、あの手の文化を決して理解しないでしょうからね♪ 一代公爵もお喜びでしたわ♪」
「あのなエルマ。あんな変装したって、クロノ王国にバレたらコトだ。勇者自治区とクロノが断交なんてこともあり得る……」
ヒナにしてもミウラサキにしても、わきが甘いとしか言いようがない。
何のための偽装工作、密貿易だったのか……。
……って、元はといえば俺が強引にヒナとアンナの取引に介入して利益を得ようとしたからなのだが……。
「直行さん。死人に口なしと申します。襲撃者たちがどれほどの規模かは存じませんが、一人残らず始末すればよいのです♪」
「エルマお前なあ……」
俺とエルマが話しているところに、仮面をつけたヒナがやってきた。
「エルマさんの言うことも一理ある。殺すかはともかく、どうしたってヒナたちは襲撃者全員をここで一網打尽にしないとダメよね!」
そして彼女は召喚術式を起動するステップとダンスで、ミウラサキの変身に感化されたのか美少女戦闘アニメ〝ペリキュア〟シリーズのようなピンクと白の衣装に着替えた。
ただし、ペリキュアシリーズは基本、素顔で戦うのだが仮面はつけたままだ。
「どう? ヒナのコスプレは」
「お、おう……」
「変装すれば、〝ヒナの関与〟はないもんね!」
俺は何とも言えない。
確かに一理はあるんだけど、ヒナの行動は大胆すぎるというか、大雑把すぎる。
「あんたのは単なる〝仮装〟よ。〝コスプレ〟と〝仮装〟は違う。自分を消してキャラになりきらないと真の意味で〝コスプレ〟とは言わない」
得意げなヒナに、知里が水を差した。
「何よ知里」
「昭和の戦隊モノから見ろとは言わない。でも戦闘美少女アニメに扮するなら、セーラールナティクスは押さえておかないと」
「変なところで上から目線なこと言わないで」
「……ちっ。リア充のあんたには分からないでしょうね」
知里はそう言うと、ポケットからキャットマスクを取り出して装着した。
「へー、知里かわいいじゃん。それ何のアニメ?」
「……ネコチにゃ。アニメでも特撮でもない。あたしのオリジナルにゃ」
「ふーん」
「……まあいいけどにゃ」
ヒナの問いに、知里はクールに答えた。
しかし、そのあと何のツッコミもなく流されたのが不満のようだった。
俺としてはミウラサキも含めた3人で何をやってるんだと言いたいところだが……。
世界最強格のチート魔導士と賢者と大商人の御曹司が、華麗に変身したからといって、この状況が打開できるわけでもなし。
ほんとに大丈夫なんだろうな……?
次回予告
暗殺者組織〝鵺〟に目をつけられたロンレア領。
エルマ危うし! 迫りくる〝猿〟の魔の手が、仲間たちを脅かす!
幻影に襲われ、鵺の構成員に改造されていく友を救え!
蒸着せよ! 超速特捜ゴーレーサー!
次回! 『恥知らずと鬼畜令嬢』〝第343話・ペリキュアとセーラールナティクス〟は9月13日更新予定です。お楽しみに!




