表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
341/733

339話・キングオブぼっち直行

 エルマと知里が何を話しているのか気になる。


「ヒナちゃんさん、ちょっと2人と話してくる」


 俺はヒナと小夜子に一言入れて、会場の隅っこの方に向かった。

 小夜子とヒナの周囲には、すぐに人だかりができて盛り上がっていた。

 ミウラサキや魚面も加わって、華やかなパーティを繰り広げている。


 洗練されたヒナと親しみやすそうな小夜子。

 印象はまるで違うけど、人に囲まれていると表情が活き活きとしてくるタイプの人間だ。


 一方、エルマと知里は他人と打ち解けることがとても苦手だ。

 どちらかと言えば俺もそうなので、気持ちは分かる。


「はい。直行さま。一通りお客様にはご挨拶してまいりました」


 レモリーは俺におかわりの麦酒グラスを用意してくれた。

 彼女はまるで接客マシーンのように挨拶回りをやってのけた。

 

「レモリーには苦労をかけた。疲れたろう。少し休んで、また話そう。少しあの2人が気になってな……」


 俺は視線だけを隅っこのエルマと知里に向けた。


「はい。承知しました。では後ほど……」


 レモリーは静かに頷き、大テーブルから海老や鯛っぽい刺身を取ると、部屋のわきにある椅子に腰かけた。

 一連の身のこなしはまるで精密機械のようで、気軽に話しかけられる雰囲気ではない。

 彼女もまた、不器用な人だった。


 俺はそんなレモリーを横目で見つつ、知里とエルマが談笑している隅っこまで歩いていく。


「2人とも楽しそうにやってるみたいで、安心したよ」

「ああ、アンタもお気遣いありがと」


 俺は、知里とグラスを合わせる。

 そこに、得意げなエルマが割って入って来た。


「知里さんと〝ぼっち同盟〟を組みましたのよ♪ 忌々しいリア充のヒナさんや昭和の青春ドラマの小夜子さんとフツー女子のお魚先生に対抗すべく♪」

「おう、エルマも元気になったか」


 エルマはプリンにハチミツをこれでもかとかけたものを食べていた。

 そして甘ったるい匂いのするミルクティーを飲んでいる。

 甘×甘で味覚は平気なのか。体壊すぞ本当に……。


「矛盾してねえか。そもそも同盟なんか組んだら〝ぼっち〟じゃなくなるだろう」

「まあね」

「直行さんには分からないのですわ♪ あたくしたちの心の傷が」

「いや待てよ。俺なんか中学2年から18年くらい〝ぼっち〟だぞ」

「直行……マジで?」


 何だか急に思い出したように過去を打ち明けるようで気が引けるが、事実だ。

 野球をやめてからはいつも一人だった。


 高校生の頃なんて、事務連絡以外で誰かと談笑した覚えはない。

 サークルは歴史研究だったが、食事はたいてい一人だった。

 大学の頃になると、そもそも友人をつくる必要性も感じなかったし。


 ブラック企業に勤めていたときなんて、上司の顔が見たくないから便所飯だ。


挿絵(By みてみん)


「18年もぼっちに便所飯。直行……あんた。かっけぇよ」


 知里が気遣いとともに賞賛を込めた視線を俺に向けている。

 そこを褒められてもな……。

 何だか自分のみじめな過去を話してたら、腹が立ってきたぞ。


「だからなー、ぼっちがカンタンに同盟なんか組むなよ」

「さすが直行さん。あたくしの年齢よりも長い年月を一人ぼっちで過ごしてきたなんて、何て寂しい人なんでしょう。まさにキングオブぼっち。孤高の男ですわ♪」

「お、おう」

「あたくし今の今まで直行さんをカッコいいなんて思ったことはなかったですが、初めて見直しました。カッコいいですわ~♪」


 エルマが俺の心の傷に全力で塩を塗りに来る。

 まあいいさ、俺が笑いものになることで知里の心が晴れるならそれでいい。


「そう言われてみれば、一人ぼっちのオーラが違いますもんね。そうですわ。キングオブぼっちの称号を与えましょう。ね、キング♪」

 

 奴はそう言って楽しそうに小躍りしながら、甘いミルクティーに口をつけた。

 エルマのツッコミはくどい。


「何がキングだよ。そしたら法律上の夫人であるエルマはクイーンじゃないか。ぼっちクイーン」

「……あんたたち、いいコンビだ」


 そんな俺たちを見て、知里は笑っている。


「……マジメな話をするとさ、この地はクロノ王国に征服されそうになってる。なのに、あんたたち2人は、よく人の心をつなぎとめてると思うよ」


 知里はそう言って、白ワインをクイッと飲み干した。


 ◇ ◆ ◇


 その時だった。


 突然、キャンドルの灯が全て消え失せた。

 風もなく、窓も全て閉じられているにもかかわらず……。




 次回予告

 ※本編とは関係ありません。


「ワタシ、知らなかったヨ。直行サンにそんナ暗イ過去がアッタなんテ……」

「あっしも意外でしたぜ。大将はてっきり向こうの世界でもブイブイ言わせてるもんだとばかり」

「お魚先生、スラ♪ 直行さんこそが陰キャの王だということが分かりましたわね♪」

「でも直行くん! 今はモテモテじゃない! よかったわねー」

「お、おう……」

「そうですわ♪ 次回は汗臭そうな昭和の青春ドラマみたいに、皆と一緒に中央湖を夕日に向かって走りましょう♪」

「汗臭そうな昭和のドラマって言い方あんまりよー」

「次回の更新は9月8日ね。タイトルは『小夜子、夕日に向かって走る』」

「ちょっと知里までやめてよー」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ