337話・ミウラサキの秘策とエルマ
「あ。ミウラサキ一代侯爵。何の御用ですか? プリンはいかがです?」
「どうも~」
まるで一服盛ったかのような顔をしながら、プリン皿を差し出すエルマ。
ミウラサキは嬉しそうにプリンを受け取ると、まるでお茶でも飲むように一気に飲み干す。
「カレム様おつかれさま!」
「シェルターは万事抜かりなく建設中です」
諸手を上げて歓迎するのは、勇者自治区からの出向組。
〝英雄〟ミウラサキを見るなり寿司を勧めたり、麦酒を注ごうと取り囲んでくる。
子供っぽい印象の彼だけど、皆には好かれているようだ。
「ちょっと待って。ボクはエルマちゃんに話があるんだ!」
出向組を振りほどくようにして、エルマに詰め寄るミウラサキ。
「何ですのミウラサキ一代侯爵。今さら改まって……」
「ナイスアイデアを思いついたんだ。それで、召喚してほしいアイテムがあるんだけど……」
エルマに耳打ちするように、小声で話しかけている。
俺には聞こえないけれど、エルマがニヤリと笑ったのは見て取れた。
「ミウラサキ一代侯爵。そんなのヒナさんに頼めばいいじゃないですか?」
「ヒナっちはボクらのセンスが分かってないんだよ。エルマちゃんなら、さっきの話分かるだろ?」
「分かりますけれども〝ボクらのセンス〟と言われましても……。つまり、あそことあれがこうで♪」
「うんうん。やっぱ分かってるじゃん!」
エルマとミウラサキがヒソヒソ話をしている光景は、何とも奇妙な絵面だ。
その様子に気づいたヒナたちが、寄って来た。
「カレム君。エルマさんの旦那さんの前で、内緒話はよくないんじゃない」
「エルマちゃん、プリンばっかり食べちゃ体に悪いわよ」
「エルマ嬢。アの緑色の香辛料。鼻ニ来るケド美味いナ」
ヒナ、小夜子、魚面の3人組が話しかけてくる。
エルマはヒナの顔を見たとたん、苦笑いを浮かべた。
「あ、あたくしちょっとお手洗いに……」
「エルマちゃん」
挨拶もそこそこに、またしてもプイッといなくなってしまう。
小夜子や魚面が相手なら得意げなエルマでも、ヒナが苦手なのは克服できていないようだ。
俺はヒナちゃんに目配せしてから、エルマを追った。
◇ ◆ ◇
「エルマよ。どうもヒナちゃんさんが苦手なようだな」
俺は手洗い場の近くでエルマを待ち、声をかけた。
「そんなことありませんわ……。ただ、ヒナさん小夜子さんお魚先生のグループになってしまうと、話しづらいんです。ぼっちですから……」
♪がついていないところを見ると、相当に話しづらいと見える……。
初対面で〝実力の差〟を思い知らされ、あんなに泣き喚いた初対面から3カ月。
エルマも努力してきたが、面と向かうと苦手意識はつきまとうのだろう。
「無理はするなよ。ただ、物騒な気は起こすな」
「分かってます。あたくしだって、もう子供じゃありません……」
「そうだな。ロンレア領主さま」
俺はしゅんとするエルマの頭を撫でてやった。
彼女は〝わかっていますわ♪〟とばかりに微笑む。
◇ ◆ ◇
「わがロンレア領は、精霊の活動がとても活発ですの♪ 多種多様な気候風土から味わえる贅の極みを、ご堪能くださいませね♪ この白身魚なんて最高ですわ♪」
エルマはいけしゃあしゃあと、自分が食べもしない魚介類の自慢などを始めていた。
「勇者自治区でも、新鮮な刺身が食える店なんて限られてますから」
「寿司うまいっすよね」
「当家自慢の〝とびだす寿司型・まっぱ1号〟が握った寿司ですわ♪ よかったらプリンもどうです?」
エルマは得意げに自治区からの出向組にアピールする。
プリンを勧めて回るが、あまり好評ではなさそうだ。
「誰よもう、こんな回転ずしなんて用意したのは!」
「あら、ヒナだけど。知里はお気に召さなかった?」
一方、向こうでは知里が回転ずしに噛みついていた。
ヒナVS知里の花柄とモノトーン対決第2ラウンドか……。
どこもかしこも穏やかじゃないな……。
次回予告
※本編とは全く関係ありません。
「ミウラサキ一代侯爵、見事なプリン一気飲みでしたわね♪」
「エルマお前、ミウラサキ君を下に見てるだろ。英雄なんだぞ、彼は」
「敬称つけてるじゃないですかー♪」
「一代のところを強調してるだろ」
「ロンレア伯爵家は世襲ですから」
「領地を取り上げられれば〝お取り潰し〟だろ」
「それは直行さんにかかっていますわ♪ ね? あ・な・た♪」
「しんどい時ばっかり人をアテにして……」
「さて、次回の更新は9月4日を予定しています♪ 直行さん、攻撃は最大の防御なり。下剋上そしてロンレア帝国爆誕のチャンスですわよ♪」
「……またそれか」




