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333話・握れっ! とびだす寿司型・まっぱ1号

挿絵(By みてみん)


 ロンレア邸では、客人をもてなすための宴席の準備が着々と進んでいる。

 レモリーやギッドを除いて、本日の主賓が〝勇者自治区ナンバーツー〟の要人だとは、ロンレア側の誰にも知らせていない。


「おう! 仕上げといこうじゃねぇか!」 


 クバラ翁の号令以下、農業ギルド関係者たちは手際よく宴席の準備を進める。

 一足先に駆けて行ったエルマは、クバラ翁に何やら耳打ちしているようだ。


 そうした中で、俺とヒナ一行はフラッと会場に足を運ぶ。


「ヒュー。領主さまが、またいい女をお連れなさってるぜ」

「ありゃあ相当な上玉だ」

「体の方もボン! キュッ! ボン! すげぇな」


 農業ギルドの若い衆は、ヒナを口笛で出迎えた。

 あんまり下品に囃し立てられると、俺は血の気が引く思いだ。


 賢者ヒナ・メルトエヴァレンスとは誰も気がつかない。

 名前は知っているだろうが、テレビやネットがあるわけでもないので、顔は知らないのだろう。


「ずいぶんと失礼なことを言ってるみたいだけど……」

「直行君。気にしないで大丈夫よ」


 当のヒナは涼しい顔で、逆に俺を気遣ってくれた。


「ありがとう。ヒナちゃんさん」

「ヒナの方が、この世界に来て長いからね。粗野な言動には慣れてるつもり」

「すまない」


 俺はヒナに改めて礼を言った。


 一方エルマはクバラ翁と何やら話し込んでいる。

 奴め、よからぬことを企てていなければいいけど……。

 気になるので彼女の元に行ってみた。


「ホウ。握り寿司を振る舞われたいと申すのですな」

「さすがクバラお爺ちゃま♪ 話が早いですわね♪」

「ちょうど養殖サーモンの柵がありますから、寿司ネタに切り出しましょう。ちょうど、ワサビに似た根茎もありますので、すりおろしやしょう」

「あたくしはワサビ抜きでお願いしますね♪」

「ワサビはめいめいが取ってつけるのがよござんしょう」

 

 寿司……だと?

 俺は二人の間に割って入った。


「サケ類の生食って寄生虫がヤバいんじゃないか。冷凍技術のない世界では特に……」


 まさかエルマの奴、ヒナちゃんに寄生虫入りの寿司を食べさせるつもりじゃないだろうな。

 いくら何でも、それは鬼畜過ぎる。


「御心配には及びません。浄化魔法がありますでしょう。なあに、こちとら道楽でニジマスの養殖から始めておりましたからな。ただ……」

「ただ?」

「シャリを握れる職人がいやせん」

「クバラさんは、できそうですけど……」

「職人の奥深い妙味がございやすからなぁ」

「寿司は握る人で味が変わるなんて言いますよね。クバラさんの握るお寿司には興味があります」

「勘弁して下せえ。それがしの領分じゃございやせん」


 寿司のシャリについては、熟練の職人が握ると真ん中に空気が入り、米粒がつぶれずにふんわりとした握りになるとか。

 回らない寿司店は数えるほどしか行ったことがないので、よく分からないが……。


 勇者自治区には最近寿司職人が店を出したという話を聞いたけど……。

 このためだけに、わざわざ連れてくるのも気が引ける。


「寿司なんてカンタンに言ってしまえば酢飯のおにぎりみたいなものでしょう♪ 型押しで充分ですわよ♪」


 エルマは身も蓋もなく言い放つと、召喚術式を展開し始めた。


 小さな魔方陣と共に、プラスチックの型枠と押し型が現れる。

 通販サイトで500円~1000円くらいで売っているようなやつだ。

 にぎり寿司の型を手に持って、見せつけた。


「ヒナさんの口に合うかは分かりませんが、〝まっぱ寿司〟のシャリをイメージした型ですわ」

「まっぱ寿司って、今晩の夕食会は〝回転ずし〟風かよ」

「風じゃありませんわ♪ 大回転まっぱ寿司の夕べ。人力ならぬコボルト力ですしコンベア機を回しましょう」


 人力コンベアだとか急に言われても、今更どんなのを設営すりゃいいっていうんだ……。


「もう宴の準備もあらかたできたってのに、今からそんな大がかりなものを用意するのかよ」

「へえ。回転寿司ですって? 面白そうじゃない!」

  

 俺とエルマが言い合っているのを見たヒナが、興味深そうに話に入って来た。


「セレブのヒナさんは、どうせ毎日高級食材ばかり食べているでしょうからね。当家はあいにくと財政難ですので、ささやかなおもてなしになってしまうことを、どうかお許しくださいませ♪」


 エルマはニヤリと笑い、謙虚を装いながらもマウントを取って来た。

 確証はないが、俺にはそう思える。


「回転ずしかあ。子供の頃、ママに連れて行ってもらったなあ」


 ヒナちゃんはそんなエルマを華麗にスルーして、前世の思い出に浸っている。


「直行どの。こちらの方は、ただならぬお方とお見受けいたしますが……」


 俺の隣に来たクバラ翁は声を潜めた。


「勇者自治区で食料品の輸出入を担当されてる方ですよ」


 俺はクバラ翁に耳打ちした。


「この宴は試食を兼ねているんです。今回は水産品の売り込みが中心ですが、次回は農産品の宴を開きますよ」


 クバラ翁はヒナのもとに進み出た。


「農業ギルド長のクバラと申しやす。前世の生国は新潟の糸魚川……」

「転生者の方ですね」

「どうもうちの(わけ)え衆は美しいお嬢さんに目がありませんでなぁ」


 クバラ翁は部下たちの非礼を詫びた。


「どうかお気になさらずに。前世では匿名で罵詈雑言を書かれてましたから」

「〝インターネット〟でごぜえますな」

「クバラさん! あなた。ネットをご存じなのですか……?」


 ヒナの顔つきが険しくなった。

 頬に手を添えて何かを考えているようだ。


 そのことに関しては、俺も前から気にはなっていた。

 この世界に転生するタイミングと、時系列について……。




次回予告

※本編とは関係ありません。



「直行しゃま〜。私でしゅ~」

「お、おう。BAR異界風のマスターか」

「あの寿司型、欲しいでしゅ~。ウチの店でもお寿司が出せたらいいと思ってたんでしゅ~」

「パーティが終わったら使わないだろうから、譲ってもいいぞ」

「ダメですわ直行さん♪ ここは高く売りつけるべきです♪」

「しょ、しょんなぁ~」

「エルマ、お前だって散々ツケでタピオカ飲んでたんだし、いいだろ」

「仕方がありませんわね♪ 今回は特別にツケの清算で手を打ちましょう♪」

「……でも、型抜きと3年分のツケは酷でしゅ~」

「……エルマお前、3年分のツケと1000円そこそこの型抜きを等価交換するのは鬼畜だぞ」

「さ、さーて……次回の更新は8月27日頃ですわ♪」

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