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330話・野良猫の皮を被った猛獣

挿絵(By みてみん)


「こちらが、勇者自治区執政官のヒナ・メルトエヴァレンスさん」

「……いま、何と仰いました?」


 応接間で、ヒナちゃんとギッドを引き合わせた。

 彼女の来訪は他の者には秘密にしているが、ギッドには知らせないわけにいかない。

 人質を一時的に勇者自治区で預かってもらう必要があるためだ。


「……ご家族の皆さんの安全は、執政官の名において保証します」

「もちろん自治区への避難を希望しない人は、俺んとこのシェルターに避難してもらうけど」


「ちょっと待ってください……。あなたは……まさか本当に?」


 ギッドは腰を抜かさんばかりに驚いている。

 英雄の名声に気圧されているのか……。


 ちなみに、この場にいるのは俺とヒナちゃんとギッドの3人だけだ。

 レモリーと小夜子は夕食会の料理の支度。

 ネンちゃんも手伝っている。


 ミウラサキは車でアンナを研究室に迎えに行っていた。

 その際に、内密な話があるとのことで、知里も同行している。


 突如現れた勇者自治区ナンバーツーを前に、固まってしまったギッドに、ヒナは改めて挨拶した。


「ヒナ・メルトエヴァレンスです」

「……わ、私はギッド・ラルソーと申します。ディンドラッド商会を追われ、今はただの根無し草ですが……」


 ギッドはまだ〝信じられない〟といった様子で、言葉を飲み込んでいる。


「ギッドにはウチの内政を総括してもらっている。とても頼りになる男だ」

「私のことはともかく。……ヒナ・メルトエヴァレンスどの。あなたほどの世界的な要人が、どうしてこのような場所へ……?」

「取引先の視察です」


 ヒナの堂々とした態度に、さすがのギッドも気圧されている。

 彼は困惑しながらも、俺たちに向かって言った。


「まさかとは思いますが、直行どのに加担して、クロノ王国と一戦交えるおつもりですか?」

「ヒナたちの出る幕じゃないわ。わが勇者自治区は、表立っては一切関与しません」


 彼女は平然と、突き放したように言った。

 もちろん本心ではない。

 ただ、言うまでもなくギッドはヒナの言葉を額面通りに受け取った様子だ。


「……英雄の協力はない。と、なると万が一攻められたときは直行どのに勝ち目はありませんね」

「そうでもないわよ。ねえ直行君?」


 ヒナは不敵な笑みを浮かべて、俺に話を振った。


「お、俺に振るんかい」

「直行どの? 秘策があるのならば、お聞かせください」

 

 ギッドは困惑しながらも、詰め寄ってくる。

 俺は急に話を振られて、若干驚いたが、気を取り直して言った。


「秘策はない。ただ、準備は進めてる。畑を守ること。民間人に被害を出さないために最善を尽くしてるつもりだ」


 大真面目に俺は言ったつもりだが、ヒナは大きく首を振った。


「直行君、あの()のことも戦力に数えないの?」 

「あの娘……っ?」


「この辺りには()()()()()()()()()()()が住み着いてるじゃない。さっきも〝蛇〟を仕留めた。ヒナだってうかつに手を出すと、噛み殺されちゃう。クロノ王国に同情しちゃうわ」


 そして芝居がかった指で、「チッ、チッ、チッ……」と左右に動かす。

 アニメやゲーム文化に詳しくない人が無理にやっているようで、少し恥ずかしい動作に思えた。


 猛獣とは、知里のことだ。

 確かに彼女が協力してくれるならば、千人力だが。


「……聞きましたかお魚先生?」

「今ノ話、ワタシが虎を飼っているのがバレたのカ?」 


 突然、応接室にやって来たのはエルマと魚面だ。


「!?」

「……な?」


 ヒナもギッドも、驚いて声が出ない。

 俺もそうだ。


 エルマと魚面は、輿に乗ってやって来た。

 担ぎ手は、4体の食人鬼(オーガ)

 コボルトは従者のように従い、番傘を広げている。

 

 いくら天井が高いからといって、屋敷の中で輿に乗る奴がいるか……。

 しかも、魚面まで一緒に……。

 

「あらヒナさん、ごきげんよう♪」

「恐れ入っタ……。(トレバー)のことまで、よく知っていて驚いタ……」


 ヒナを頭上から見下ろし、挨拶をするエルマ。

 魚面も緊張しながら挨拶する。


「エルマさん。こんにちは! ロンレア領にお邪魔してます」

「……っ!」


 ヒナは芸能人スマイル全開で、エルマに手を差し伸べる。

 一瞬で、エルマの表情が悔しそうに曇る。


 輿に乗って見下していようが、エルマに染みついた陰キャの性分は変えられない。


 この世界の最重要人物の一人として、注目を浴び続けてきたヒナちゃんの持つオーラに、圧倒された。

 エルマはしずしずと輿から降り、力なく笑った。


「……ジャリー、お魚先生を降ろして差し上げて……」


 そして配下のコボルトに命じ、魚面を輿から降ろす。


「あなた……足を怪我しているのね」

「ああ。魚面(うおづら)は、〝鵺〟の〝(ましら)〟の呪いによって、重傷を負ってしまったんだ」


 俺がざっくりと説明すると、ヒナは腕を組んで眉をひそめた。


「体が破裂する『死の呪い』ね。相当に強い術。でも、ここまで回復するなんて、すごいじゃない」

「当家の誇る人材の賜物ですわ♪ お魚先生は、あたくしの召喚術の師匠ですの♪」

「ドウも……。サッキの戦い……すさまじい。知里サンと息の合った迎撃モ、見事」

「ありがとう。久しぶりの連携だったけど、さすが知里といったところね。魚面さん。あなたも召喚士なのね」


 3人の召喚師たちは、互いに挨拶を交わす。


「改めまして、魚面(うおづら)さん。ヒナ・メルトエヴァレンスです」

「……何という威容……。恐れ入りましタ」


 魚面は、戦慄した様子でエルマとヒナちゃんを見比べている。


「なるホド肌が綺麗ダ。やはり、人の生き血は効果があるの……カ?」

「……!!」


 言いかけた魚面の口を、必死で抑えるエルマ。

 ものすごい形相で魚面を睨み、次いでヒナちゃんには満面の愛想笑いを浮かべる。


 ヒナちゃんは、どうしていいか分からずに、とりあえず芸能人スマイルをキープしている。

 そんなカオスな状況を、ギッドは茫然と眺めていた。


次回予告

※以下は本編とは関係ありません。




「……やってくれましたね直行どの」

「ギッド、本編に続いて予告でも深刻な顔だな」

「で、直行さんが一体また何をやらかしたと?」

「……エルマ様の夫である彼は、次から次へと異界人を領内に呼び寄せて! ここロンレアの地を異界人の飛び地にするおつもりですか」

「ここは予告欄なんだから、堅苦しい話はなしでいこう」

「関係ありません。私が司法をつかさどる立場だったら外患誘致罪で取り締まるところです」

「……ギッド、お前まだ一応取り締まられる立場なんだけど」

「え?」

「あーあ。困りましたわね。ギッドさん、自分がタイーホされる側であることにまだ気づいてないみたいですわよ♪ まあ、誠実に仕事してたのに知らぬ間に上司に裏切られたからなんですけどね♪ 汚い大人の世界ならよくあることなんじゃないですか、ねぇ直行さん♪」

「そんな訳ないだろ。次回の更新は8月21日だ」

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