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327話・のるかそるか? 借刀殺人

挿絵(By みてみん)


「なあ蛇さん。俺なんかを暗殺したって、たかが知れている。どうせここで死ぬなら、もっと難易度の高い奴……すげえ大物を狙ってみないか……?」

「…………」

「直行君、何を──?」

「直行くん? 危ないことはダメよ」


 俺の提案に、ヒナと小夜子が目を見開いて驚いた。


 暗殺者〝透明な蛇〟は、黙ったまま。

 だが、仮面越しに不敵に笑っているような、スリルを感じた。


「…………」

「直行。通訳すると〝アナタたちより難易度の高い大物となると、勇者トシヒコか法王ラー・スノールか、ガルガ国王くらいしかいないぞ?〟──だってさ」


 知里が心を読んで通訳する。


「その三巨頭の中だと、クロノ王国の国王。ガルガを狙ってもらえたら、ありがたい」

「直行くん。どうなのそれは、暗殺なんて人道に反するし……それに……」


 小夜子が眉をしかめた。

 彼女が言いかけてやめた内容は俺も承知の上だ。


 〝透明な蛇〟は、かなりの確率で失敗するだろう。

 失敗して、まず間違いなく処刑される。 


 蛇は微動だにしない。

 知里は何か言おうとして、やめた。


「なるべく蛇さんの生存確率を高めてやりたいが……。たとえば、国王を死に至らしめなくとも、わが領への武力侵攻に支障が出るような結果を出せたなら、成功報酬を約束しよう」

「成功報酬? 金か。私はそんなものに興味はないぞ」


 〝蛇〟は嘲るように言った。

 俺は真っすぐに蛇の顔を見た。


「残念ながらうちは財政難なんで、名誉くらいしか与えられない。ただ、成功したなら〝透明な蛇〟の伝説は、わがロンレア領で子々孫々語り継ごう」

「カラカラカラカラ!」


 〝蛇〟が、仮面の下で笑い声をあげた。


「……どうせ処刑される身。この場を逃げても〝(ましら)〟に始末されるのならば、いっそのこと国王を暗殺してみろと、お前は言うのか……」

「たとえばの話だよ。依頼というわけでもない。ホント言えば蛇さんが仲間になってくれたら最高だ。でも、それはないだろう」


 俺としては、そうしてくれた方が後味がいい。

 しかし〝透明な蛇〟は静かに首を振った。


「そうだな。それはない。〝仲間〟という考え方を、私は持ち合わせていないからな。私にとっては〝仕事〟が全てだ。そこの逃げた魚のように、無様に慣れ合ったりはしない」


 そう言って〝蛇〟は魚面を見て小馬鹿にしたように笑った。


「……依頼者の名前は出さない。安心しろ。どのような拷問をされてもお前たちのことは口にしない。何なら自決用の毒を携帯しておく」

「直行、蛇さんのここまでの話に、嘘はないよ」

「分かってる……」


 俺は知里を見て頷いた。

 何と言ったらいいか分からないけど、俺には〝透明な蛇〟の気持ちが分かるような気がする。

 自分が得意としてきたことが、まったく通用しなかった。

 上には上がいた。


 俺はそれを野球で思い知ってやめてしまったが、蛇はあきらめてはいない。

 どうせ死ぬなら、大仕事をやってのけたい。

  

 そんな意思を、俺は感じる。

 もっとも、そう差し向けたのは俺だが……。


「そうね。大体あってる。でも、蛇さんは直行みたいにセンチメンタルじゃない。単純に新しい仕事として請け負うつもり」

「な、直行くん……大変なことになってしまわない?」


 小夜子はドン引きしている。

 ヒナは、難しい顔をして腕を組んでいる。


「変則的な事態ではあるよね。ただ、大局的に考えたら〝アリと言えばアリ〟かな」

「みんな、何を言ってるの? わたし、よく意味が分からないんだけど……。この人に国王陛下の暗殺を頼むって、本気で言ってるの?」


 小夜子が険しい顔で言った。


「それは〝透明な蛇〟次第だ。嫌ならやらなくてもいい。ただ、〝新たな仕事〟を与えないと、俺たちの命を狙ったこの厄介な暗殺者を処刑しなければならない」

「懲役何年とかじゃダメなわけ? 殺人未遂でしょ」

「ママ。この人は透明になれる。牢に入れたとしても、管理はとても難しいよ」


 その上、召喚士でもあるので脱獄は容易い。

 毎日魔法を封じた上で拘束するのは、とても大変な負担になる。


「そこで考えたのが兵法三十六計〝借刀殺人〟ってやつね。これなら、プロの暗殺者の誇りを傷つけない。蛇さんも牢屋にいるよりは、難しい仕事に挑戦できる。幸いというか、ご本人はこの案に乗り気だから、直行たちは身の安全が確保できる」


 知里が〝透明な蛇〟の心を読みながら、解説する。


「……うーん」


 黙って聞いていた小夜子だったが、何かを思いついたようで、拘束されている〝透明な蛇〟の手を取った。


「分かった。じゃあこうしましょう。蛇さん、人殺しを仕事にするなんて最低よ。でも、わたしがいくら言っても分からないでしょう。だから、もし失敗して逃げ場がなくなったときは、わたしたちを頼って。仲間として匿うから! ねえ、いいでしょ、みんな!」


 小夜子は真顔で言った。


「お、おう……」

「……ママもよく言うよね」


 俺とヒナは顔を見合わせる。

 仮にかくまうとなると、クロノ王国とは完全に敵対してしまう。


 まあ、十中八九そうはならずに〝透明な蛇〟は無残な最期を迎えるのだろうが……。

 改めて小夜子に言われたことで、俺は胸が痛くなった。


 自分の命を狙った者とはいえ、死地に送り込むとなると鬱々たる気持ちになる。


「分かった。仮にそうなったら、ロンレア領でかくまおう」

「大丈夫だ。おそらくそうはならない……」


 死出の旅路──。

 〝透明な蛇〟だって当然、そんなことは百も承知だろう。

 知里に心を読んでもらわなくても分かる。


 そんな中、ヒナがどこからか金塊を取り出して〝透明な蛇〟に差し出した。


「そうだ。()()からの餞別を受け取って」


 ◇ ◆ ◇


 こうして俺たちは〝透明な蛇〟に新たな任務を与え、旅立たせた。

 もちろん知里の『他心通』で、裏切る気配がないことを入念に確認した上で……。


 この選択が、後にどんな影響を及ぼすか、まだ俺には分からない。




次回予告

※これ以降は次回予告です。本文とは関係ありません。



「直行くん。やっぱりこんなことはよくないわ!」

「ママ、きれいごとだけでは領主なんてやってられないの。ねえ直行くん?」

「……ヒナちゃんさんの言うとおりだ。他に選択肢が思いつかなかったんだよ……」

「あたくしだったら、洗脳して愛人にしますわ♪ 直行さんの得意技じゃないですかー」

「エルマ、お前また変な誤解を招くようなこと言うなよ」

「レモリーを洗脳して愛人にしたのは事実じゃないですかー♪ 蛇さんもやっちゃえばいいんですわよー♪」

「いい加減なこと言うな。あの〝透明な蛇〟、女性かどうか分からなかったじゃないか」

「どっちもイケる直行さんには関係ないじゃありませんかー♪ 『異界風』のマスターやギッドさんともいい仲だと聞きましたわ♪」

「直行くん、それホントの話?」

「マスターの話は初耳ね」

「エルマお前! いい加減なこと言うなー!」

「次回の更新は8月15日を予定しています♪ タイトルは『男女を問わず、おれは野獣』。お楽しみくださいね♪」

「うそ予告はもういいって!」

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